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論文

 民間団体トランスペアレンシー・インターナショナルの日本支部が毎年年末に国内の「十大汚職・腐敗・疑惑事件」を発表している。昨年の順位では、旧橋本派へのヤミ献金など政界の疑惑を筆頭に、官界の汚職、日本放送協会をはじめとするマスメディアの醜聞、企業の株式虚偽記載など、あらゆる分野の腐敗が列挙されている。

 これらの事件が蔓延しているので我々の感覚は麻痺しているが、上記の国際組織による世界三〇カ国を対象にした汚職・腐敗・疑惑の調査結果では、日本は二〇〇三年が一八番目、二〇〇四年が二〇番目と半分以下である。またスイスの民間組織・世界経済フォーラムが三〇カ国を対象に実施した各国の契約や法令の遵守状態についての調査で日本は二二番目であり、国際社会で比較すると、官民ともに大変に腐敗した社会なのである。

 日本は九〇年代初頭から閉塞状況にあるが、一向に回復の気配がない。それは社会構造の転換が進展していないという問題もあるが、それ以上に、高度経済成長を目指した六〇年代の時期のように、国民の精神が高揚していないからである。それは適度な生活水準がなんとか維持されている効果もあるが、上記のような社会の腐敗の頻発が影響していることも主要な原因のひとつであると推測される。

 この沈滞状況からの脱却には社会変革が必要であるが、第一になすべきは信賞必罰の風潮を確立することである。ここで唐突のようであるが、キューバの復活の経緯を紹介したい。キューバはカストロ政権以来、共産主義国家としてソビエト連邦との密接な関係により経済を維持してきた。アメリカの鼻先に位置するという条件から、ソビエト連邦の手厚い支援があり、キューバは砂糖の生産に特化するだけで経済を維持できたのである。

 その結果、木材のほぼ全量、機械の約八〇%、食料でさえ約六〇%を共産主義諸国からの輸入に依存する状態であった。しかし、九一年一二月のソビエト連邦の崩壊で輸入物資の約八〇%を喪失する緊急事態になった。そこで、カストロ議長が、薬品の約二〇%を薬草で自給、自然エネルギー施設の建設、あらゆる空地を家庭菜園に転換する政策などを推進し、数年で人口二二〇万の首都ハバナで野菜が完全に自給できる状態にまで回復した。

 この奇跡ともいえる回復が実現したのは、切迫する危機を背景に、優秀な政策、強力な指導、国民の努力が合致したこともあるが、見過ごしてならないのは社会的不公正を断固として排除してきた体制にある。数例を紹介すると、国会議長でさえ休日には一般市民と一緒に行列して買物し、カストロ議長は特別として、すべての閣僚は毎日自家用自転車で通勤し、住宅も特別の配慮はないというのが実情である。

 それ以上に重要なことは罪悪への厳格な処罰である。公務に従事する役人は同一の犯罪でも一般国民の二倍の刑罰になるし、政府の幹部でも一回の不正で失脚するほどの規律が維持されている。もちろん現実には、アメリカへ亡命するキューバ国民が多数存在しているし、最近では汚職対策専門の省庁が設置されるなど腐敗がないわけではないが、それが公平に処罰されていることが国民の志気を向上させていることは否定できない。

 それに対比すれば、普通の国民には縁遠い一億円小切手を受領しても記憶にないという言訳が通用し、実験結果を捏造した企業の幹部が辞任もしないまま居座ることが可能という社会の国民の志気が向上しないのは当然ということになる。今年を日本再生の初年とするためにも、清廉な社会を構築していくことに国民は猛進すべきである。




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