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論文

 平成の市町村大合併が大詰めにきている。この行政改革の発端となった平成十二年十二月に施行された行政改革特例の時点では三二○○程度であった市町村数は、本年一月の時点で二三○○程度になり、当初想定されていた一○○○程度にするという目標には到達しないものの、全国で相当の合併が進行したことになる。

 明治の市町村大合併、昭和の市町村大合併とともに三大合併といわれる今回の合併推進の背景にはいくつかの理由がある。交通手段や通信手段が発展したために旧来の地域では行政サービスの無駄が目立つこと、地方公共団体の財政逼迫のために地方行政の運営効率を向上させることなどもあるが、最大の理由は、中央集権から地方分権へ国家の体制が一八○度の方向転換をするのに対応できる基礎的自治体を用意するということである。

 平成十二年春から施行された地方分権一括法案により、明治時代以来の行政構造が方向転換し、地方公共団体に大幅に権限が移管された。三位一体改革により税源も移管される。 その受皿となるためには、ある程度の規模が必要という理由で合併が推進されてきた。そうして市区町村が一定の規模になれば、中間の曖昧な存在である都道府県を廃止して、基礎的自治体である市区町村と道州で日本の国家組織を構築していくという構想が背後にある。

 そのとき問題になるのが、これまで三割自治と揶揄されてきたように、中央政府の下請機関として事務処理をしてきた組織が独自の発想で地域の将来を決定し、それを実行できるかという心配である。そのような意見は中央政府の役人から表立ってではないが発信されてきた。しかし、就任当初は不安そうな社長が一年もすると堂々たる経営をしているように、地位が人間を形成するから問題ないというのが筆者の見解であった。

 ところが最近、朝日新聞の調査によって、上記の役人の意見が杞憂でもないという実態が明確になった。合併した新市町村では、旧市町村の議会を解散し、新市町村の規模で適正な定数の議員を選出することになる。しかし、今回は在任特例という制度が用意され、最大二年を限度として議員が在任することが可能になっている。そして朝日新聞の調査では、合併した三○六の新市町村の六割に相当する一八三で在任特例が採用されているのである。

 それがいかに異常な事態かの好例が秋田県大仙市である。ここは八市町村が合併して人口十万人弱の都市になったのであるが、在任特例によって一四六人の市会議員が誕生した。地方自治法九一条には地方議員の最大定数を規定されているが、それによれば、この新市の議員定数は三○名であるから、本来の状態より一一六名も余分という状態である。

 参考までに人口が一二○倍の東京都議会議員数は一二七名であるから、一票の格差は一四○倍にもなる。移行期間の特例とはいえ、自己の地位保全しか眼中にない地方議員の水準を暴露している事態である。合併は逼迫した財政問題を緩和することも目的であるが、これも朝日新聞の推定によると、全国の在任特例による余分の出費は約二二○億円であるから、笑話と見過ごすわけにはいかない深刻な問題である。

 これ以外にも、地方議会には土木建設企業に密接な関係のある議員が三割以上も存在しているため、無駄な公共事業を削減するときの障害になっているという意見もある。これらを阻止できるのは住民のみである。百年に一回という国家体制の巨大な転換を実現するためにも、住民が意識を明確にして行政を監視していくことが必要である。



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