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論文

 日本の国土面積は約三八万平方キロメートルで世界の六○番目である。また、石油の自給比率が○・三%、以下、石炭が一・九%、天然ガスが三・二%、銅鉱が○・二%など、鉱物資源もほとんど賦存せず、食糧でさえ政策の失敗のために自給比率が約四○%で低迷している。これらの数字を列挙すると日本は国土や資源において世界の小国としかいえない。

 ところが意外に資源大国の側面もある。海岸から二○○海里内の排他経済水域は四五一万平方キロメートルで国土面積の六倍もあり、世界でも六番の大国である。これは多数の島嶼のおかげであり、とりわけ沖の鳥島は海抜数十センチメートルの小島であるが、この一島だけで約四○万平方キロメートルと日本の国土面積以上の排他経済水域を確保しており、漁業資源や海底資源の視点からは巨大な国土に匹敵する。

 さらに複雑な地形のために、日本の海岸線総延長は三万五○○○キロメートルもあり、北極圏内に無数の島々を領有するカナダの約二四万キロメートルとは大差であるものの、オーストラリアと同等、大国アメリカの二万キロメートルや中国の三万二○○○キロメートル以上である。そして、国土面積で海岸線総延長を割算した数字は平方キロメートルあたり九一メートルで、二位のイギリスの倍近い断然の世界一位である。

 千歳空港を午前一○時三○分に出発し、午後二時に那覇空港に到着する日本航空二七○三というフライトがある。ノンストップで三時間三○分飛行していることになる。ところが世界を見渡してみると、自国の空域をノンストップで三時間程飛行できる国家は意外に少数である。アメリカ、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、チリ、インド、インドネシア、オーストラリア、ロシア、中国など、せいぜい十数カ国である。

 しかも、日本の場合は国土が南北に三○○○キロメートル以上展開しているため、亜寒帯型地域から亜熱帯型地域まで多様な気候条件の地域が国内に存在している。それは札幌の雪祭や知床の流氷に台湾や韓国や中国から多数の人々が観光に訪問してくることが証明しているように、観光資源としても重要であるが、多様な生物資源が存在しているという意味でも二一世紀の日本にとって重要な特徴である。

 気候が多様である結果、日本には約二○○種類の哺乳動物が棲息しているが、これはイギリスの五○種類、イタリアの九○種類と比較しても多種であるし、そのうち四一種類が固有の種類である。イタリアには三種、イギリスにはゼロであるから、日本の重要な特徴といえる。植物についても五五○○種類が生育し、固有の種類が二○○○以上もあり、イギリスの一六○○種類、フランスの四六○○種類、スペインの五○○○種類を凌駕している。

 問題は、この日本の特徴が国民に理解されていないことである。海洋王国日本という言葉が使用され、漁業という実利のある分野では世界有数であるものの、イギリスやニュージーランドと比較すれば、海洋スポーツ人口は少数である。また、どの地域でも発生しているということでは日本だけの特徴ではないが、貴重な高山植物の盗掘や保護対象の鳥類の密猟も頻繁に発生し、特別の対策がとられているわけでもない。

 多様な環境が存在し、多様な生物が棲息していること自体も素晴らしいことであるが、ゲノムフロンティアが二一世紀の科学、技術、そして産業の先端分野であるとすれば、多種多様な生物、そしてそれらを育成する環境は国家の最大の財産である。この視点を政府や企業だけではなく、国民が自覚していくことが環境大国日本を発展させていく基礎となる。



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