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論文

 英語になっている日本の言葉は多数ある。神風や芸者という古典から、空手や剣道という武芸、刺身や寿司という食事、布団や盆栽という文化など様々であるが、これらは対応する事象が英語圏内に存在しないので当然である。しかし、最近では日本の言葉でしか表現できない感情などが、そのまま英語で使用される場合も増加している。

 一例として感性という言葉がある。情報のように計量可能な内容ではなく、情緒という曖昧な内容を研究する分野を感性情報処理という。この感性を「フィーリング」とか「エモーション」とか翻訳しても、われわれにはピンとこない。そこで現在では、感性をそのまま学術用語として使用する傾向にある。そして最近、国際社会で急速に有名に浮上してきた日本の言葉がある。「もったいない」である。

 「もったいない」を英語で表現すると、「ホワット・ア・ウェースト!」すなわち「なんという無駄!」ということになるそうであるが、そこには我々が実感するような、自然への感謝の気持や、モノを粗末にしないという倹約の精神は反映されていない。その意味に気付いて、この言葉を環境問題解決の切札にしようと提案した人物がいる。昨年のノーベル平和賞受賞者でケニアの環境省副大臣でもあるワンガリ・マータイさんである。

 マータイさんはアフリカの女性で最初に博士、ナイロビ大学で最初の女性の教授などの記録をもつ人物であるが、長年、ケニアでグリーンベルト運動を推進してきた環境保護の闘士でもある。その彼女が日本を訪問したとき、「もったいない」という言葉を発見し、今年三月の国際連合の「婦人の地位向上会議」で、環境保護のために世界各国で「MOTTAINAI運動」を展開しようと演説し、一気に有名な言葉になった。

 日本の名誉のために付記しておくが、「もったいない運動」は外国から輸入されたわけではない。すでに一三年前には、(社)日本青年会議所が年間の活動目標として「もったいない運動」を提起し、翌年には「もったいない強化月間」を全国一斉に展開したという実績がある。また岐阜は以前から「もったいない・ぎふ県民運動」を推進している。それでもノーベル賞受賞者の発言には威力はあり、この言葉は再度日本で注目されはじめた。

 実際、日本には注目すべき理由もある。日本第二のコンビニエンスストアであるローソンの新浪剛史社長は、同社が昨年廃棄した食品は四○○億円分にもなり、これは○三年度の経常利益約三六六億円を上回る。したがって食品廃棄を真剣に検討する時期であると発言している。大半のコンビニエンスストアでは、一日に二回とか三回、賞味期限を超過した食品を廃棄しているが、まさにもったいない状態である。

 この廃棄される食品は六○○万程度トンと推定されているが、現在の世界の食料援助の総量は年間八○○万トンから九○○万トンであるから、二四時間いつでも新鮮な食品を提供するという利便が発生させている無駄の異常な状態が理解できる。また、日本の年間のゴミ処理事業の費用は二兆五○○○億円である。静脈産業も国民総生産額を増大させているという見方もできるが、これを動脈産業に転換できれば、生活水準はさらに向上する。

 これまでの日本では、寿司も漫画も布団も、海外で評価されてはじめて自分の資産の価値を見直すということが通例であった。しかし、これからは自身で日本独自の事象の価値を発見していく姿勢が必要である。そのような意味で、「もったいない」は国際社会への披露はマータイさんの世話になったが、ぜひ日本として推進していくべき活動である。



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