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論文

 ここ数年、ロハスという言葉が社会に浸透しつつあったが、六月に『日経MJ』が今年前半のヒット商品番付で大関に指定し、一○月一一日発行の『週刊エコノミスト』が特集記事とし、さらに最近発行された二○○六年版の『現代用語の基礎知識』や『imidas』でも紹介されるなど、今年になって一気に注目されるようになった。

 これは「ライフスタイル・オブ・ヘルス・アンド・サステナビリティ(LOHAS)」という英語の略語で、翻訳すれば「健康と環境に配慮した生活様式」となる。実際には、持続可能な経済の推進、環境に配慮した商品の購入、自然治癒などを駆使した健康管理、自己啓発への努力などが目標とされ、七○年代に世界を風靡したサブ・カルチャー現象と類似しているが、今回は社会の主流になりつつあるということで相違している。

 アメリカの市場調査をしていた社会学者と心理学者が、従来の消費者像とは相違する階層が登場してきたという分析を基礎にし、九○年代後半に提案した概念であり、現在のアメリカではロハスを信奉している人口は成人の約三○%に相当する五○○○万人、その構造は平均年齢が四○歳台前半、六割が女性で三割が大学卒業階層と分析されている。そしてアメリカ経済の四・二%に相当する五○兆円規模の市場を構成しているという推定である。

 このようなアメリカ流儀の商業主義の背景もあり、ロハスという言葉を宣伝に使用して既存の商品を販売するという便乗商法も登場しているため、これを否定する意見もある。ロハスの精神を具現している企業の代表ともいえるアメリカのアウトドアウェアの名門「パタゴニア」を創設したイヴォン・シュイナードは「パタゴニアはロハスとは関係ない。ロハスはマーケティング用語にすぎない」と明言している。

 このような見解は否定できないが、ロハスは社会潮流を形成しており、それに呼応するような概念も次々と登場している。地域で生産される食材を利用した伝統料理の維持を目指すスローフード運動や地産地消活動、無駄な商品を購入しないシンプルライフ宣言なども該当するし、オーガニック原料の使用やフェアトレード活動も基本精神では共通しており、最近では個人だけではなく、この方向を目指す企業も増加している。

 前述のパタゴニアは九○年代後半に、自社の綿製の衣料には有機栽培によるオーガニックコットンしか使用しないという宣言を発表した。オーガニックというのは農薬や化学肥料を使用しないで栽培することである。綿花の栽培はアメリカの耕地面積の一%程度でしかないが、農薬や化学肥料の約一○%を使用しているという理由である。これはシュイナードが否定するとしないに関係なく、ロハスの精神を象徴している。

 世界四八カ国に二○○○以上の店舗を展開する天然素材を使用した化粧用品を販売している「ザ・ボディショップ」を創業したアニタ・ロディックは、原料を購入するとき「もっと安価になるか」と交渉するのではなく、「あなたがたの生産が維持できるためにどのような条件が必要か」と質問するということである。これがフェアトレード活動であるが、持続可能な経済の推進という観点からはロハスと共通した発想である。

 昨今のM&Aを駆使して企業規模を拡大する風潮と対極にあるが、ロディックの「ビジネスを数字だけで判断する経営幹部は本当に退屈な人々です。そのような人々は臨終間近というしかありません」という言葉を参考し、いかに威力があろうとも金銭本位のグローバル経済ではない異質の経済が世界には存在していることを確認すべきである。



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