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論文

 北海道旭川市にある旭山動物園が話題になっている。今年の七月と八月と連続して東京の上野動物園の入園者数を上回ったからである。それも僅差ではなく、七月には一八万五○○○人と一四万九○○○人で約三万六○○○人、八月は三二万一五○○人と二三万五○○○人で約八万六五○○人と、いずれも大差での逆転である。

 どちらも面積は一四ヘクタール程度であるが、動物の種類は上野動物園が約四○○種類であるのに旭山動物園は約一五○種類と劣勢であり、さらに旭川と東京の後背人口となると桁違いであるから、この逆転は大変な偉業である。しかも、八年ほど以前には年間の入場者数が二六万人にまで減少し、閉園が真剣に検討されたほどであるから、この復活は奇跡といってもいい一大事件である。

 それほど話題にはなっていないが、同様に目覚しい復活をしている施設がある。山形県鶴岡市にある加茂水族館である。ここは建物も老朽した小型の施設であるが、それでも四○年前の開館当時は入館者数が年間二二万人であった。しかし、時間とともに入館者数が減少し、八年ほど以前には一○万人以下になって閉館が検討されるほどであった。ところが昨年は一三万人に増加し、今年は一四万人を突破すると期待されるほど復活してきた。

 両者には共通する特徴がある。第一は他所にはない特徴をもたせたことである。旭山動物園では、ペンギンやアザラシを上部からではなく、透明な水槽の下側や横側から見物できるようにし、オランウータンは上空を綱渡りしている様子を見物できるようにして、人気を獲得した。加茂水族館では、わずかな予算でも収集できる対象としてクラゲを目玉商品にし、世界最多記録となる一八種類のクラゲを展示することで人気を回復した。

 第二は観客中心のサービスである。旭山動物園ではオリの裏側から見学できるツアーを用意し、夏休み期間は夜一○時まで開園する努力をしている。加茂水族館では、クラゲ・アイスクリームやクラゲ・ナタデココを開発したり、観客の質問には全力をあげて回答する努力をしている。そして第三は、それぞれ小菅正夫園長と村上龍夫館長というトップが情熱をもって陣頭指揮していることである。

 このような事例を紹介したのは、日本社会全体の将来にとって大変に参考になるからである。これまで社会が急速に発展してきた時代には、道路や港湾にしても、博物館や美術館にしても、次々に新設されてきた。ところが人口が頂点に到達し、それに比例して経済も停滞する時代になると、新規の建設が減少する一方で。これまで建設してきた施設の維持管理が社会にとって巨額の負担になってくる。

 実際、日本の建設予算について、新規建設と維持管理の割合を調査してみると、一九九○年には、建設投資八一兆円のうち約一二%が維持補修費用であったが、二○○○年には七二兆円のうち約三○%、二○一○年には五八兆円のうち約四三%、そして二○二○年には五七兆円のうち五○%強が維持補修費用になると予測されている。新規建設よりは維持補修のほうが主要な仕事になる社会が登場するのである。

 そのような時代には、施設を新設することではなく、ハードウェアとしては既存の施設を補修しながら使用し、ソフトウェアとしては内容を変更しながら社会の需要に対応できるように維持していくことが重要になる。上記に紹介した施設は、まさに今後の日本の成熟社会での仕事を前取りしているということができる。




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