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論文

■ローマクラブの警鐘『成長の限界』

 ストックホルムで1972年夏に開催された国連人間環境会議において、ローマクラブが『成長の限界』という報告を発表した。最初の一週で約2万部の英語版報告書が売切れになるほどの反響となり、地球が有限であることを世界に浸透させることに貢献した。それから30年後、その報告を作成した学者の一部が『成長の限界・人類の選択』を出版した。最新の統計資料で計算を修正したものであるが、大筋で論旨に変化はなかった。

 しかし、このような限界の存在ははるか以前から指摘されてきた。人口は等比級数で増大するが生活資料は等差級数でしか増大しない。これは18世紀から19世紀にかけて活躍したイギリスの経済学者トマス・ロバート・マルサスの有名な警告であり、当時の社会に賛否の文書合戦を発生させるほどの衝撃をもたらした。一定時間ごとに一定の比率で増加していけば、いずれは限界に到達するということを表現した言葉である。

 マルサスから200年、ローマクラブから30年後の現在、警告は現実になりつつある。世界の人口は20世紀最後の10年間で毎年1.4%の比率で増加しており、これは等比級数で計算すれば丁度50年間で2倍になる比率である。その一方、生活資料の代表である穀物の生産は1990年代以後横這いであり、一人あたりでは減少になっているし、現代の生活の基礎となっている石油や天然ガスは枯渇することが明白になってきた。

 それ以外にも様々な危機の予兆がある。世界全体で年間伐採される森林面積は約1000万ヘクタールになるが、この速度で伐採を継続すれば、約400年後には地上から森林は消滅する。生物も現在では10分間に1種の割合で絶滅していると推定されており、この速度で絶滅していけば、1000年後には地球から生物は消滅してしまう。もちろん物事は単純に進行するわけではないが、人類の将来には問題が山積みである。


■等比級数の魔力に気付かぬ現代社会

 このように事態が切迫しているのに社会に危機意識が浸透していないのには理由がある。等比級数の魔力である。『成長の限界』にフランスの説話が紹介されている。湖面に一枚の睡蓮が浮上し、毎日2倍の比率で増加していく。29日目に湖面の半分が睡蓮になってしまったが、全体がそうなるのは何日かという問題である。最初から観察していれば正解は簡単だが、たまたま29日目に湖畔に到着した人間には予測できない。

 これを29日目の恐怖という。現在が何日に相当するか正確には不明である。すでに29日目以後になっている、すなわち手遅れであるという学者もいないわけではない。しかし、そうだからと傍観しているわけにもいかない。現在の社会には様々な29日目の恐怖が存在している。それに敢然と挑戦していく以外、人類に未来はない。今回からの連載では、このような人類の挑戦について紹介していきたい。



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