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IT社会の変化の速度を表現するのに、ドッグイヤーという言葉が使用される。イヌの寿命はせいぜい10数年なので、人間と比較して時間の経過が七倍程度になるということから、ITの世界が従来の世界より急速に変化していくことを表現するのに使用されている。また、日進月歩ではなく、秒進分歩という言葉も同様の意味で使用される。いずれにしても、工業社会と比較して情報社会の進展は急速だということになる。 その結果、IT社会には次々と新種の概念が登場し、この世界で仕事や生活をしていくためには、サービスを供給する立場でも享受する立場でも、新語を理解し新規の技術を習得するのに四苦八苦しているのが実情である。そこで、この激変する社会に今後どのように対応していけばいいのかを検討するために、まず20世紀の最後の10年間から21世紀の最初の10年間ほどを展望し、IT社会の構造の変化を理解してみたい。 マルチメディア時代 1990年春に日本電信電話株式会社が「21世紀のサービスビジョン」という長期構想を発表した(注1)。これは国内ではそれほど注目されることはなかったが、一点の欠陥を例外として、これ以後25年間のIT社会の方向を正確に見通した計画であり、海外では話題になり、とりわけアメリカは重大な関心をもった。これは別名「VI&P計画」ともいわれ、3種の目標が提示されていた。 第一の「V」はビジュアルであり、それまでの音声中心の通信から画像を豊富に利用する通信への発展である。電信や電話の発明以来、電気通信の大半は文字と音声を伝達する手段であり、人間の理解にとって容易な画像は通信回線の容量の制約から、電送写真など一部の特殊な利用に限定されていた。しかし、大容量光通信ネットワークを前提とする21世紀には、画像通信を基本にするというのが「V」の意図である。 第二の「I」はインテリジェントであり、電話のように相手が端末装置の付近にいるときにしか通信できない不便な手段ではなく、様々な便利な機能を実現するものである。数例として、通信回線に翻訳機能を用意して通信内容を指定の言語に翻訳したり、暗号機能を付加することにより通信の機密を確保したり、記憶機能を設置して相手が不在であっても情報を伝達できるなど、様々な高度な機能をもつサービスの提供が構想された。 最後の「P」はパーソナルであり、一家に一台の固定電話の時代から、一人に一台の携帯端末を利用する時代を提案する内容である。そのような技術の普及を前提として、本人のみが受信できる親展通信、いたずら電話などを阻止できる選択通信のようなサービスとともに、これまで一律であった電話料金を、個人の利用方法に対応した多様な料金体系を設定することもパーソナルの目標とされた。 この構想に提示されているような情報技術の全体はマルチメディアと名付けられ、90年代前半の情報社会を象徴する言葉となった。85年春に公社から民間企業に移行した日本電信電話株式会社の幹部は、新生企業の目標を電話通信の会社からマルチメディア通信の会社に転換することであると社会に宣言していた。このマルチメディアと総称される技術には、いくつかの特徴がある。 第一は通信技術の主流がデジタル技術になったことである。アナログ方式のレコードがデジタル方式のCDになる、フィルムカメラがデジタルカメラになるなど、様々な分野でデジタル方式は浸透しはじめていたが、通信分野にも波及してきたのである。デジタル技術の特徴は遠方まで送信しても情報が劣化しない、情報変換が容易であるなどの特長があるが、最大の特徴は音声も文字も画像も同等の符号に変換して通信できることである 第二に、それまでは音声で情報を交信するときは電話、文字を送信するときはテレックス、文書を送信するときはファクシミリというように、情報の形態に対応して別々の通信手段が用意されていたが、情報をデジタル変換して送信するようになると、一台の端末で音声も文字も画像も送信や受信ができるようになった。その代表が携帯電話であり、最新の端末機器では動画さえ送信できるようになっている。 インターネット時代 このマルチメディアが普及しはじめた時期に、VI&P計画が唯一見通すことのできなかった新規の技術が1990年代中頃に登場してきた。インターネットである。周知のように、アメリカの国防総省の意向で、非常事態のときでも通信が確保できるような通信方式として開発されたのがインターネットであるが、それが突然のように一般社会に登場してきたのである。これは従来の通信技術とは根本から発想が相違する革新技術であった。 第一は電話のように交換施設に回線を集中させて接続するのではなく、多数のルーターといわれる設備が次々と信号を適当な回線に転送していくことにより相手に到達する仕組である。電話の場合は回線が集中している交換施設が破壊されれば、一切の通信が不能になるが、インターネットの仕組では、一部が使用不能になっても、どこかを経由して信号が到達できるという柔軟かつ強靭な通信方式である。 第二は伝達する情報をデジタル信号に転換し、それをパケットといわれる細分された単位に分割し、それぞれを別々の回線を経由して相手の端末装置に送信し、受信した端末装置で本来の情報に構成しなおすという仕組である。この方式では、電話のように使用している回線が占有されて、それ以外の通信ができないわけではなく、様々な情報を混合して送信できるという特徴があり、後述の通信料金の低下の根拠となった。 第三はネットワークの運営が特定の組織ではなく、多数の組織によって分散管理されていることである。電話の場合には巨大な企業がすべての回線を敷設し、統合して管理するが、インターネットの場合には、無数の部分ネットワークが相互に接続され、しかも全体を管理する組織はどこにもないという構造である。通信施設は国家の枢要な社会基盤として国営企業が運営するという、それまでの常識が打破されたのである。 この技術革新とともに経済革新も発生した。まず、通信料金が均一料金かつ定額料金に移行したことである。電話は距離と時間に比例する料金体系であったが、インターネットでは一定の料金を支払えば、会社の内部の通信も地球の裏側までの通信も同一で、しかも連続して使用しても一日に一回しか使用しなくても、その定額料金以上の費用は不要ということになった。しかも、その料金自体が大幅に低下した。 過去5年で、パーソナル・コンピュータの処理速度あたりの価格は1000分の1になり、記憶装置の単位容量あたりの価格も同様の比率で下落した。同一価格で購入できるコンピュータの能力が5年で1000倍になったのである。実際、最近の最高性能のパーソナル・コンピュータは5年以前のスーパー・コンピュータに匹敵する。また、インターネットの回線料金も過去5年で通信容量あたりの価格は1000分の1以下になっている。 その効果により、インターネットを使用する人々は爆発といってもいいほどの速度で普及しはじめ、日本では過去5年で5倍になり、現在では世帯の9割以上、国民の6割以上が利用できる環境にあるし(表1)(注2)、普及比率が最高水準の北欧諸国などでは国民の7割以上になっている。世界全体については正確な統計はないが、約6億人と推定されているから、人口の1割に普及していることになる。
ブロードバンド時代 2001年1月22日、日本政府は「eジャパン戦略」を発表した。日本のIT社会の出遅れを回復するための政策である。その目玉は、従来の回線よりも通信容量で大幅に上回るブロードバンド回線の普及であり、2005年度までに、ADSL水準の回線を利用できる環境を3000万世帯に、FTTH水準の回線を利用できる環境を1000万世帯に用意することであった。ここにブロードバンド時代が出発した。 日本はハードウェアの整備については得意であり、この通信環境整備は早々と目標を達成した。そして実際の利用も急増し、2000年度には約86万であったブロードバンド回線の利用者数は2003年度には1500万弱になった(表2)(注3)。しかし、ADSLの普及を国家として強力に推進した韓国、香港、台湾などには大差で出遅れ、世界9位というのが現状である(表3)(注4)。 日本が自慢できる特徴もある。競争政策の成功により、ADSL水準の通信回線の利用料金が世界でもっとも安価になっていることである。毎秒100キロビットあたりの通信能力の料金は、日本では9セントであり、2位の韓国の25セントを大幅に下回っているし、アメリカの3ドル53セントと比較すれば、約40分の1である(表4)(注5)。この安価な料金はブロードバンド時代を発展させる重要な要因になる。 携帯電話についてもブロードバンド時代への移行が推進されている。携帯電話はアナログ方式であった時代が第一世代、デジタル方式に転換した時代が第二世代、そして通信容量が毎秒数百キロビットに飛躍した時代が第三世代と区分され、現在は第二世代から第三世代に移行している最中である。すでに通信容量を毎秒数百メガビットにする第四世代の研究開発も進行しており、移動通信もブロードバンド時代になりつつある。 このようなブロードバンド時代の変化の第一は通信に画像が使用されるようになることである。その象徴がデジタルカメラ内臓の携帯電話の急速な増加である。このような端末装置が登場した4年程前には携帯電話全体の数%であったが、現在では6割以上がデジタルカメラを搭載している(表5)(注6)。若者が物珍しさから利用するという側面もあるが、やはり人間のコミュニケーションに便利な画像が評価されているということである。 第二はモノの移動が情報の移動によって代替される社会が現実のものになってきたことである。一例として、日本の過去4年でCDなど音楽のパッケージ媒体の売上は0.8倍と減少したが、ネットワークでの配信は1.2倍に増大している。同様にDVDなど映像のパッケージ媒体の売上は2.0倍であるのに、ネットワーク配信は約30倍に飛躍している。ゲームについても1.0倍と約27倍という状態である(表6)(注7)。 第三はヒトの移動も通信手段で代替される社会の登場である。現状では、毎日会社へ通勤するという仕事形態が人々の慣習になっているが、ブロードバンドネットワークの普及によって、在宅勤務(テレワーク)や通信会議が増大すると推測される。日本では在宅勤務の比率は数%であるが、アメリカでは日本の数倍といわれている。そしてテロ事件が頻発し、環境問題が深刻になってくると、この傾向は加速されるはずである。
ユビキタス時代 そして現在、話題になっているのがユビキタス社会である。ユビキタスの原義は普遍とか遍在ということであるが、当初はメインフレーム・コンピュータ、パーソナル・コンピュータの後継となる次代のコンピュータの概念として、80年代後半に提唱されたものであった。しかし、携帯電話や小型携帯端末装置が登場したことによって、いつでも・どこでもコンピュータにアクセスできる社会を象徴する言葉となった。 これには様々な技術が投入されている。日本ではインターネットに接続できる携帯電話の普及が顕著であり、2004年3月末の時点で、8152万台の携帯電話のうち6973万台と約86%がインターネット接続契約をしている(表7)(注8)。また公共空間で高速通信ネットワークへ接続できるホットスポットも急速に増加しており、過去2年で1624箇所から5350箇所へと3倍以上になっている(注9)。 また現在、道路交通状況をリアルタイムで車両に通信するVICSが1000万台を突破し、有料道路の料金を自動支払できるETCが約400万台に到達するなど、ITS(高度交通システム)が日本で急速に普及しているが、これは情報社会から孤立していた車両をユビキタス社会の一員にする技術である。さらに現在、自動車側から情報を発信できる第二世代のITSも登場しており、完全なユビキタス状態に移行する。 しかし、ユビキタス社会の目玉は「RFID」もしくは「ICタグ」といわれる技術である。これはアンテナを内蔵した集積回路で、電源を内蔵して自身で電波を発信する形式と、外部からの電波を電源として情報を発信する形式があるが、後者では約1ミリメートル平方の極微の部品も登場している。すでに鉄道では「SUIKA」や「IKOKA」が実用になっており、改札機械に接近させるだけで通過できるようになっている。 この技術の応用は広範であり、いくつかを列挙してみる。日本の書店での万引き被害は年間で約500億円、平均すれば書店あたりで約210万円になると推定されている。そこで一冊ごとにICタグを添付して、出口で料金の支払いの有無を自動検査すれば被害を防止できるし、転売されても、その書物の経路を調査することも可能である。ICタグの値段が5円以下になれば、十分に実用になると期待されている。 前向きに利用すれば、生産場所、生産日時、生産者名など情報を記録したICタグを商品に添付しておき、顧客が端末装置を商品に接近させるだけで、それらの情報を入手することができるようになる。また、家庭電化製品などのプラスチック部品にICタグを添付しておけば、回収してリサイクルするときに、その部品の組成を自動識別し、相互に混合してもいいかどうかを判断して処理することも可能になる。 このようなユビキタス技術の最大の特徴は、これまでの通信技術の中心がヒトとヒトの情報交換を目指したものであったのに対比し、ヒトとモノ、ヒトと場所、さらにはモノとモノ、モノと場所、場所と場所の情報交換を可能にすることである。清涼飲料の自動販売装置は特定の飲料が不足していることを認識すれば、その情報を自動倉庫に送信し、それによって飲料の補充をするというような処理がすでに実現している。 この特徴を大規模本格的に利用しようとしているのが「自律移動支援プロジェクト」である。歩道の点字ブロックや道路標識などにICタグを添付しておき、全盲や弱視の人々が特殊なツエで接触していくと、音声で道路案内をしてくれるシステムである。もちろん一般の人々も利用可能であるが、まさに人間が周囲のありとあらゆるモノや場所と情報交換ができる社会を実現しようという構想である。
IT社会の特徴 このように発展してきたIT社会は従来の社会とは根底から相違する特徴がある。第一に、これまでの社会を性格づけてきた地理空間の特性が希薄になることである。地理空間では、特定の地域の全体での位置や面積、そして二点相互の距離などという物理的量が生活や仕事にとって重要であった。日本でいえば、東京という中心に近接している地域ほど発展の機会があり、縁辺になればなるほど不利であった。 しかし、前述のように通信料金が遠近格差のない均一料金かつ使用時間に関係しない定額料金になることにより、地理空間に影響される度合いが低減してきた。かつて電話番号案内は東京や大阪など巨大都市に中心となる施設が設置されていたが、現在では沖縄などに中心が移動し、東京で電話番号案内を依頼すると、その3割は東京の地理などを熟知していない沖縄の人々がコンピュータを利用して回答しているのが実情である。 通信だけで商品の受注をしたり、商品についての苦情に対応したりするコールセンター業務といわれる仕事が、札幌、旭川、那覇どころか、時差のない中国やオーストラリアにまで移動している。その理由は賃金やオフィス賃料が安価ということであり、地理空間の特性とは関係ない条件が社会の動向を支配するようになりつつある。このような単純労働だけではなく、創造作業も地域へ移動しつつある。 アニメーションの制作、ウェブサイトのデザイン、ポストプロダクションといわれる映像の編集などの仕事も、コンピュータと通信ネットワークを駆使すればどこでも可能であるため、地方に展開しつつある。実際、筆者のウェブサイトの管理は北海道北見市にあるベンチャー企業に依頼しているが、最初の打合せで出会った以外は、通信でのやりとりだけで順調に運営されている。 第二は、やはりこれまでの社会で有力な特徴であった規模というものの影響が希薄になることである。「集積の利益」という言葉がある。人口が増大するほど生活での利便も増大するという意味である。巨大都市では世界各国の料理を提供するレストランがあるが、都市規模が縮小するにつれて種類も減少する。買物についても同様である。巨大都市への人口や経済や情報の集中が加速されたのは、この要因の影響が多大である。 ところがITの普及により、この構造が変化しはじめた。書店は全国に数万存在しているが、豊富な品揃えの書店は都市に集中しており、地方になるほど不利であった。ところがインターネット内部には多数の書店が出店しており、端末装置から発注すれば数日で自宅まで配達してくれ、大半は送料無料である。古書もCDも花束も洋服も、場合によっては住宅までも、このような方法で購入でき、生活の側面で集積の利益は希薄になってきた。 仕事の側面では「規模の経済」という言葉がある。設備集約産業が中心であった工業社会では、大量生産により同一の製品をより安価に生産し、それをより広範な市場に流通させることが競争で有利となる原則であった。したがって、巨額の資金を調達して設備投資をし、大量の社員を雇用できる企業が有利であった。ところが生産の分野でも流通の分野でも、ITが秩序を破壊しつつある。 生産の分野では、あらかじめ同一の製品を大量に生産するのではなく、受注した直後から製品を生産する受注かつ個別の生産が登場してきた。ニット製品や仕立洋服などでも技術が開発されているが、最大の成功はデル・コンピュータである。インターネット経由で注文された仕様のコンピュータを数日以内に生産して相手まで配達する技術を開発し、現在、世界最大のパーソナル・コンピュータ製造会社に成長した。 仙台にプロ野球球団「東北楽天ゴールデンイーグルス」を設立する楽天は年商約200億円の販売会社で、小型のスーパーマーケット・チェーンに匹敵する規模であるが、物理空間としての店舗もなく、従業員数も数百人程である。ヤフーオークションでは毎月数百万点の商品が売買され、売上も約500億円になっているが、同様に物理施設を運営しているわけではない。IT社会では規模という要素が重要ではなくなってきた証拠である。 さらに重要な構造変化は経済が供給主導(サプライサイド)から需要主導(デマンドサイド)に逆転することである。大量生産時代には供給企業が身近な商店に提供する商品を選択することしかできなかったが、IT社会ではネットワーク内部のインターネット商店の膨大な情報を検索して、本当に希望する商品を選択し、場合によっては、自分の必要とする製品を注文して生産してもらうことさえ可能になってきたのである。 このような構造変化は日常生活や経済活動の範囲に限定されず、行政や政治の分野にも波及していく。ここ10年間で地方行政が急速に活発になっている。それは地方分権の潮流のなかで、明確に行動する知事や市町村長が登場してきたことが原因であるが、その背後にあるのが情報公開の威力である。住民が容易に行政の内容を確認できる情報技術が従来の観客民主主義を主演民主主義に変革し、それに呼応している地域が元気なのである。 この変化のなかで、中央の行政と政治が大幅に出遅れており、情報公開にしても中央省庁は地方公共団体と比較すると公開比率は低位であるし、政治では様々な不祥事態が発生しても説明責任を放棄したままである。しかし、電子投票が実施されはじめ、いずれはユビキタス社会のなかで、どこからでも投票できるようになれば、直接民主主義への移行も検討されるようになり、この分野でも需要主導になると期待される。 環境問題を救済するIT ITに期待される重要な役割は、ここまで説明したような閉塞状況の社会を構造改革することであるが、もうひとつ重要な役割がある。地球規模の環境問題の解決への貢献である。現在の速度で人間が森林を伐採していけば世界の森林は400年程度で消滅する。生物は15分間で1種が絶滅している。このまま推移すれば100年で大気の温度は6度上昇する。環境問題は21世紀の人類にとって緊急かつ最大の課題である その原因は人口が過去10万年で千倍に増加し、その人間1人が使用するエネルギーが百倍に増加したことである。掛算すれば10万倍のエネルギー消費の増大であるが、その増加は人類が発明してきた技術によってもたらされた。唯一残念なことに、その技術には生活の水準を向上させるが、それに比例して資源消費も増大するという特徴があった。自家用車は歩行に比較すれば何倍も便利であるが、資源も何倍も消費するのである。 ところが、ITと総称される技術は利便の向上と資源の消費が比例しない最初の技術である。新聞という歴史のある情報提供手段と、電子新聞というITを利用した情報提供手段を比較してみると、同一の情報を提供するのに必要なエネルギーは5%で可能という計算結果がある。この数字は電子書籍では2%にまで激減する。そして、新聞や書籍に使用される用紙の消費も減少するから森林資源の保護にも貢献する。 定義によって数字が相違するが、日本では就業人口の5%程度の約300万人、アメリカでは1000万人程度が在宅勤務をしていると推計されている。また画像通信を使用して、人間が集合しないで会議を進行するテレビジョン会議も増加している。このようなITを利用した仕事の方法は通勤や出張に必要なエネルギーを削減して、炭酸ガスの排出を抑制する効果がある。日本での試算では、数%の削減効果になるといわれる。 大量生産の社会では豊富な商品を安価に入手できる一方、購入されないムダも膨大になっている。その象徴がコンビニエンス・ストアである。24時間開店し、たいていの日用雑貨や食料が用意されているが、その利便の裏側で賞味期限を超過した食料が大量に廃棄され、それは小国一国の食料需要に匹敵する数量になっている。見込生産で供給される工業製品についても同様である。ITはこのムダを排除する流通構造を実現できる。 IT社会を推進することは、中心のみが繁栄してきた地域構造を方向転換させ、巨大企業中心の経済構造を方向転換させ、大量生産で供給主導の消費社会を方向転換させ、観客民主主義の政治や行政を方向転換させるなど、限界に接近していた20世紀までの社会構造を改革するとともに、より巨大な限界である21世紀の環境問題の解決についても貢献することである。そのような認識をもってITを利用することが重要である。 日本のIT社会の課題 日本は鎖国から開国に転換した明治維新の時点で、先行する欧米の工業社会に大幅に出遅れた状態であった。そこから百年以上の努力によって、鉄鋼、車両、集積回路の生産などでは世界の首位に躍進し、全体でも世界で二位の経済国家に到達するまでの成功を達成した。しかし、工業社会から情報社会に巨大な方向転換をしている現在、再度の出遅れが懸念される状態にある。 いくつかの数字を列挙してみると、固定電話の人口あたりの普及比率では世界の13番目、携帯電話では29番目、コンピュータでは18番目、インターネットでは12番目というのが現状である(注10)。この状態からの脱却を目指したのが「eジャパン戦略」であり、その結果、ブロードバンドネットワークの普及では、数年で世界9位になるまで回復してきた。しかし、問題はこのような社会基盤を活用する国民の意欲にある。 アンケート調査結果なので、数字だけで簡単には判断できないが、以下のような統計がある(注11)。三次産業の生産効率は世界で15番目、企業の社会変化への適応能力は37番目、新規に起業する精神は51番目、銀行制度の適性機能は46番目、ベンチャー資金の調達の容易さは44番目、管理者増の国際経験は51番目である。ちなみに51カ国の比較であるから、51番目というのは世界最低という評価である。 70年代に鉄鋼生産など工業社会の競争で日本に逆転されたアメリカは、80年代から情報社会で優位になるべく戦略を推進しはじめた。その詳細は拙論(注12)を参照されたいが、一例として知的財産専門の連邦巡回区控訴裁判所を82年に設立した。日本の対応する制度は来年4月にようやく創設される。約23年の出遅れであるが、ドッグイヤーで計算すれば150年の格差である。まさに明治に開国時期の状況に酷似している。 90年春に「VI&P計画」が発表された時点では、日本はIT社会の将来を世界でもっとも明確に展望していた国家であった。そこからわずか10数年で、先進諸国では最低といってもいい状態になっている。それは社会基盤に問題があるのではなく、この21世紀に登場してきたフロンティアを開拓していくという国民意識に課題がある。明治維新時代の若者の気概を想起し、再度の挑戦が期待される現状である。 注1:月尾嘉男・濱野保樹・武邑光裕『原典メディア環境1851−2000』(東京大学出版会 2001)pp.592−597 注2:総務省『平成16年度情報通信白書』p.26 注3:総務省『平成16年度情報通信白書』p.4 注4:Institute of Management Development「World Competitiveness Yearbook 2004」 p.700 注5:総務省『平成16年度情報通信白書』p.6 注6:総務省『平成16年度情報通信白書』p.10 注7:(財)デジタルコンテンツ協会『デジタルコンテンツ白書2004』p.64 注8:総務省『平成16年度情報通信白書』p.9 注9:総務省『平成16年度情報通信白書』p.12 注10:Institute of Management Development「World Competitiveness Yearbook 2004」 pp.695-699 注11:Institute of Management Development「World Competitiveness Yearbook 2004」 注12:月尾嘉男「戦略が欠如した国家の停滞」『無限大』(日本アイ・ビー・エム株式会社 2004 n.115 pp.10−14) |
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