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論文

 公共投資に大幅に依存してきた道内の産業は国家の緊縮財政の影響で苦境にある。それを打開するために、高橋知事は今後の産業政策として農業と観光を目玉にすると発表しているが、いずれも対象としては妥当な分野である。今回は観光の将来について検討してみたいが、妥当である第一の理由は、道内に観光資源が大量に存在していることである。

 まず国立公園は日本にある二八のうち六公園が北海道内に存在している。それ以外の観光資源でも、スキー場数は当然として、キャンプ施設、ゴルフコース、サイクリングコース、動植物園、温泉など、観光資源といわれるものの数量は軒並み全国一位であり、宿泊施設の収容人数も静岡に僅差の二位であり、観光を推進するには絶好の基盤がある。

 そして第二の理由は、それにもかかわらず現状では観光が地域の主要な産業になっていないことである。観光の定義にもよるため、観光の正確な産業規模は不明であるが、一例として道内の宿泊施設従業者数の比率は従業者数全体の約二・一%と全国で十二番目程度であり、観光資源の数量、宿泊施設の規模には見合わないのが実情である。

 とりわけ観光を経済活動という視点で発展させようとすれば、道外そして海外からの来訪が重要であるが、年間五千万人ほどの観光客数のうち、ほとんどは北海道民であり、道外からの比率は約一二%にすぎない。外国人観光客も日本に来訪する人数の三%程度が北海道観光客で、これは都道府県単位では第一四位でしかない。

 もちろん、これは日本全体についてもいえる問題であり、日本から国外への観光客数は一六○○万人以上であるのに、海外からの観光客数は五○○万人強でしかないし、国民総生産額における観光による外貨獲得の比率は○・○八八%と世界最低であるから、この地域だけが出遅れているわけではなく、高橋知事の政策に期待される所以である。

 しかし、重大な問題がある。道民気質を、素材は一流、加工は二流、サービスは三流と揶揄することがある。料理でいうと、農業や漁業で豊富な特産があるにもかかわらず際立った料理がない。加工次第で付加価値はいくらでも増大するが、道民はナマが美味しいと反論する。そして、さらに付加価値を増大させるサービス精神が欠如している。

 サービスとは感謝の気持の表現であるが、その表現の欠如を実感することが過去に何度もある。道内に友人は多数いるが、礼状というものが送付されてこないのである。友人に拙著を贈呈することがあるが、礼状が送付されてこないだけではなく、それ以後に出会ったときに御礼の言葉もなく、釈然としない気持ちになったことを何度も経験している。

 開拓から百年程度の歴史では繊細な文化が成熟していないからだということかもしれないが、観光を主要な産業にしていこうということであれば、観光というサービス産業の根本にある感謝の気持の表現する方法を育成することが重要である。日本で最高の観光資源を産業の目玉にするために、まずサービス精神を育成してほしいと期待している。




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