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論文

 本年一○月二四日、道内一八番目のコミュニティ放送である「FMもえる」(七六・九メガヘルツ)が留萌に誕生した。コミュニティ放送は電波利用の規制緩和を反映して平成四年一月から可能になった超短波放送局で、特定の市町村域だけを対象にして、その地域の行政・福祉・医療・経済・産業などの情報を提供することを目的にしている。

 現在、国内では一七○局程度が開局しており、道内には一九の地域で放送がおこなわれている。この「FMもえる」の開局は筆者もお手伝いさせていただき、現在、毎週土曜の午前に電話で出演しているということで、コミュニティ放送というものが地域の活動に影響する様子を観察してきたが、着実に地域を変化させているようである。

 全国各地のコミュニティ放送の大半は、それぞれの地域の中心人物といわれるような人々や、経済団体などが主力となって開局し運営しているが、「FMもえる」の場合は三○歳台の一人の若者の地域を元気にしたいという意欲から誕生したものである。しかも、その若者は、どちらかといえば地域の若者仲間の傍流であった。

 しかし、自分が誕生し今後も生活していかなければならない留萌を中心とした地域の将来を見通すと、人口の減少や経済の縮小は回避できないものであり、そうであれば、量的には減少であっても、質的には元気のある地域にしたい、そのためには地域の人々が情報を交換することだという、単純といえば単純な発想から一気に活動しはじめた。

 まず開局資金であるが、役所などに依存しない資金が重要だということで、地域の経営者十数人を説得して一○○○万円を調達した。しかし、一般にコミュニティ放送の設備には三○○○万円程度が必要とされる。そこで中古の機材を調達し、家具やコンピュータなどは寄付してもらい、苦労しながら今年一月から四月までの試験放送にまず到達した。

 さらに毎日の番組を制作するためには、出演する人々や裏方をする人々が多数必要であるが、これも若者が地域で関心のある老若男女を説得してまわり、毎週一○○人以上の地域の住民が無償で協力する体制が実現した。筆者も留萌駅舎の二階に開局した局内を訪問したことがあるが、地域の将来に意欲をもつ人々の熱気が充満していた。

 これまでの最高では約三○%というラジオ放送では想像もできない聴取比率であり、放送開始から一○週間も経過していない現在、すでに地域の人々が日常生活で話題にする情報素材の主力になりつつあり、当初の目的のように、地域の人々が情報交換するための媒体に成長し、コミュニティ放送の主旨を十分に具現している。

道東でも「FMくしろ」と「FMねむろ」が以前から開局しているが、それらの地域を訪問しても、あまり話題になることがない。地域の人々が自分たちで地域の将来を決定し実現していくという地方主権の時代に、コミュニティ放送は有力な手段になるということを「FMもえる」は示唆している。道東でも既存の財産の活用が期待される。



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