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論文

 東京の都心に時々訪問するフランス料理のレストランがある。御客が十人も来店すれば満席という規模のせいもあるが、料理が美味しいために雑誌にも度々紹介され、座席の予約は容易ではないほどの人気である。ここを経営しておられる夫婦と、カヤックをするために二度ほど一緒に釧路を訪問したことがあるが、現在では大変な道東ファンである。

 最近では、毎月のように二人で釧路を中心に道東一帯を訪問しておられるが、それは観光のためではなく、この地域でしか入手することのできない食材を発見し、入手するためである。料理の出来は料理する人間の腕前によることは当然であるが、素材も重要である。このレストランでは両方が見事に一体となっている。

 ある夕食の代表料理を紹介してみよう。前菜は自家製造のベーコンでくるんだ厚岸のシングルシードのカキのソテー、スープは釧路のケガニのミソを素材としたビスク、主菜は白糠の牧場で飼育されている子羊のローストというところであるが、一緒に調理される野菜も北海道産の有機栽培のものが豊富に使用されている。

 主人は一流ホテルのレストランで修行され、腕前は一流であるから美味しいのは当然として、一品一品が素材への愛着とでもいうべき気持を実感できる仕上がりになっている。普通の御客でも感激するが、筆者のように素材の産地を熟知していると感激も一入である。レストランの名前は「ル・ゴロワ」、東京出張のときは立寄られることを推奨する。

 地産地消が話題になっている。これは地域で生産した素材を地域で消費しようという運動で、道内の公共建築は道内の木材で建設し、学校の給食は地域の農水産品で用意しようということである。地域の一次産業の振興ということが第一の目標であるが、素材の素性が明確なものを消費して安心できる生活をしようという意図もある。

 アメリカの牛肉の輸入の是非が社会問題になっているが、何万キロメートルの彼方で生産された食品よりは、地元で生産される食品のほうが安心というわけである。そして食品であれば、新鮮かつ安価であり、一石三鳥にも一石四鳥にもなる。しかし、道東のように生産する食品と消費する人口がアンバランスであると地産地消は成立しない。

 そこで期待されるのが、特定の地域の特徴ある産品を遠隔の場所で使用してもらう仕組みである。今回は偶然に道東に異常ともいうべき愛情をもつ夫妻の個人の努力で、東京に道東の地産地消が実現しているのであるが、地域からも各地へ活動を展開するといい。それは消費されるモノとしては微量であるが、情報の発信としては多大の効果があり、消費の拡大に貢献する。

 この二人は道東にレストランを開店したいという希望をもって着々と準備しておられるが、東京では美味しいレストランが消滅すると危惧して反対する活動が発生している。しかし、地元では一部の人々を例外に冷淡であり、一度は実現しかけた開店計画が頓挫したこともある。目先の利益に左右されない長期の発展を一緒に検討する姿勢が期待される。



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