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論文

 今日は「カーボン・フットプリント」をご紹介したいと思います。
 トランプ大統領が何度も「温暖化は人間の活動とは無関係」と主張しても、昨年の猛暑や今年の雪不足を経験すると、やはりじわじわと進んでいると感じます。
 その対策として、2015年のパリ協定に基づいて各国が温室効果ガスの排出を減らして行くということが重要ですが、その目標を達成するためには、個人も意識して減らす努力をしなければ達成できません。
 その意識をしてもらうために考え出されたのがカーボン・フットプリントという概念です。
 フットプリントは足跡という意味ですが、この言葉は1990年代に話題になったことがあります。
 カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の教授たちが提案した「エコロジカル・フットプリント」です。
 これは人間が生活や仕事をするために利用する生産可能な土地と水域の面積のことで、食料を生産するための農地や水面の面積、鉱物資源などを確保するための面積、社会生活をするための基盤や施設を建設するための面積の合計です。
 すなわち、人間は生きるために自然環境を踏みつけているという意味です。
 その計算結果が話題になったのは、大半の先進諸国では自国の面積だけでは社会を維持することができず、発展途上諸国の土地を利用しているということでした。
 例えば、日本人1人の1年間の生活のために必要な陸地は2.8ヘクタール、水面は1.9ヘクタールですが、日本の国土面積を人口で割算すると、1人あたり0.3ヘクタール、領海も0.3ヘクタールしかありませんから、どちらも大幅に不足しています。
 それでも生活が成り立っているのは、食料の60%、エネルギー資源の90%、鉱物資源は100%近くを外国から輸入している、すなわち外国の土地や水面を使って生活しているからです。
 それでは世界全体ではどうかというと、南米やアフリカなど一部の国は自国の面積で賄えていますが、世界全体ではすでに不足しているという驚くべき結果になりました。
 それでも何とかなっているのは、世界では人口の11%に相当する8億人以上が食料不足で飢餓状態にあり、17%に相当する13億人が1日に2ドル未満の収入しかないという貧困状態で生活しているからです。

 この手法を地球温暖化に当てはめて世界の人々に考えて欲しいという趣旨で考え出されたのが「カーボン・フットプリント」で、人間が便利な生活をするために地球環境を踏みつけていることを意識してもらおうという趣旨です。
 私たちはスーパーマーケットへ行って何気なくコメを買いますが、そのコメが売り場に並ぶまでの経路を振り返ってみると、農家がイネを育てて刈り取るまでに農機具を使い肥料や薬剤を使い、それを精米して袋に詰め、その袋を輸送してスーパーマーケットの棚に並べるという作業が必要です。
 その作業にはすべてエネルギーを使いますが、それぞれの段階で二酸化炭素を発生しています。
 大変に面倒な計算が必要ですが、それぞれの作業にどれだけのエネルギーを使用したかを計算し、単位あたりに換算した数値の合計を単位重量あたりに換算すると、コメがスーパーマーケットの棚に並ぶまでに発生した二酸化炭素が計算できます。
 その数字がカーボン・フットプリントで、まだまだ一部の商品でしかありませんが、それを表示した商品が並び始めています。

 この制度は10年前から日本にも導入されましたが、世界では先を行っている国があります。
 イギリスでは2007年3月から、ポテトチップス、スムージー、シャンプーで表示が始まり、1年で70以上の商品に表示されるようになっています。
 フランスでも同じ時期から表示を開始し、3000以上の商品について計算し表示を開始しています。
 日本では第一号として2009年10月からイオンがコメ、植物油、洗剤に表示を始めましたし、一部の缶ビールも表示しています。
 このような商品だけではなく、牛肉、豚肉、鶏肉を比べると、鶏肉を1とすると豚肉は2倍、牛肉は4倍のカーボン・フットプリントになります。
 この数字で商品の価値を判断すると、既存の固定観念を変える結果も登場しています。

 例えば、狭いケージに閉じ込められたニワトリの卵より、放し飼いのニワトリの卵の方が環境への負荷が少ないと思いがちですが、生産効率が落ちるのでカーボン・フットプリントは逆になります。
 同様に地産地消の商品の方が遠方から輸入された商品よりもカーボン・フットプリントが少ないと思いがちですが、ラムの場合、地元で輸入飼料で育てられたヒツジよりニュージーランドの天然の牧草で育ったヒツジの肉の方が輸送エネルギーを考えても、カーボン・フットプリントは小さいという結果になります。
 野菜についても、冬の間に地産地消の温室栽培の野菜よりも、温暖な地域の露地物の野菜の方がカーボン・フットプリントが小さい場合もあります。
 現在、プラスチックの容器や包装が海洋汚染の原因として目の敵にされていますが、輸送するときの重量を考えると、ブリキやガラスの容器の方がカーボン・フットプリントは大きいという結果になります。

 これまで地球が無限の環境と考えて支障のなかった時代には、食べ物は美味しいもの、好みのものを選び、地球環境まで考えることはありませんでした。
 しかし、価値の根底の基準が変わり始めたのです。
 スウェーデンの17歳の少女グレタ・トゥンベリさんの影響で、ヨーロッパでは「鉄道自慢」という概念が登場してきました。
 これまで移動は長距離であれば短時間で到着する飛行機、短距離であれば好きな時間に出発できる自動車がいいという判断基準でした。
 しかし、環境への負荷が小さい鉄道を選ぶということが格好いいという社会が登場してきたのです。
 好みの合わない缶ビールでも、表示してあるカーボン・フットプリントの数字を見て選べ、牛肉ではなく好きではない鶏肉を選べとまでは言いませんが、急速に深刻になってきた地球環境の異変を考慮すれば、モノの選び方にも基準の変更が必要な時代かもしれません。





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