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論文

 最近、急速に話題になってきた週休3日制について考えてみたいと思います。
 一昨年6月に通称「働き方改革関連法」という法律が成立し、昨年4月から施行されています。
 主要な目的は3つあり、第一は「長時間労働の是正」、第二は「正規・非正規の処遇差の解消」、第三は「多様な働き方の実現」ですが、最初の長時間労働の是正が今後、どのように進むかを考えてみます。
 まず世界各国と比較して日本の労働時間は長いかをOECDの調査結果によってヨーロッパの主要な先進諸国と比べてみると、確かに長いことがわかります。
 フルタイム労働者、パートタイム労働者、自営業を合わせた数値では、各国が同じ基準ではありませんが、確かに日本は長いことがわかります。
 数字が揃っている1975年では日本は年間2110時間ですが、イギリスは1880時間、フランスは1830時間、ドイツも1830時間、オランダは1630時間、スウェーデンは1600時間でしたから、日本はスウェーデンよりも510時間も長いという状態でした。
 日本の1ヶ月の平均労働時間が175時間ですから、スウェーデンは3ヶ月分も短かったのです。
 日本もバブル経済が崩壊しはじめた1990年頃から短くなりはじめ、2017年には1700時間になりましたが、他国も減ってきましたから差は縮まりません。
 もっとも少なくなったドイツは2017年に1360時間ですから、日本の2ヶ月半に相当する340時間も短いという状態です。

 このような状態を改善しようと日本の企業にも登場してきた第一歩が「働き方改革」の第三の目的である「多様な働き方の実現」を達成するための週休3日制です。
 これには2種類あり、従来1日8時間で週5日間働いて1週間に40時間であった勤務形態を1日10時間にして週4日働き、週40時間は変えずに週休3日制にするという方法です。この場合、給与は従来と同額です。
 もう一つはこれまでのように1日8時間で週4日の勤務とし、勤務時間が減るので、給与も減るという方法です。
 前者ではそれほど労働時間は変わらないので、朝三暮四の感がなきにしもあらずですが、第一歩として日本でも採用する企業が増えてきました。
 それを採用している会社はユニクロを展開している「ファーストリテイリング」で、販売を仕事としていますから、1日10時間で土日も含めて4日の出勤で給与は従来と同じです。
 他にもスポーツ用品を販売する「アルペン」、保育所を運営している「トットメイト」、介護施設を運営している「ウチヤマホールディングス」など、次第に増えてきています。
 これによって従来は年間104日程度であった休日が、159日になり、過ごし方によってはゆったりとした休日を過ごせることになります。
 後者は「日本IBM」「ヤフー」「日本KFCホールディングス」などが試験導入しており、次第に増加傾向にあります。

 このような傾向が進んでいくとどのような社会が実現するかが気になりますが、何人か予言している人がいます。
 有名な例は有名な経済学者メイナード・ケインズが90年前の1930年に行った講演で、その時点から100年後になる2030年には労働時間が週15時間なると予言しました。
 年間にすれば780時間ですから、現状の西欧諸国で最も短いドイツの1360時間の6割程度になります。
 これから10年後に実現するか疑問ですが、最近、同じような見解を発表して話題になっている学者がいます。
 オランダの歴史学者ルトガー・ブレグマンが2017年に『隷属なき道:AIとの競争に勝つベーシックインカムと1日3時間労働』という本を出版し、国民に一定の給与を平等に与えるベーシックインカムと、1日3時間、毎週15時間の労働で社会は維持できるという見解を発表しました。
 ケインズの予言が実現しそうにない原因は所得格差が急速に拡大することを考慮しなかったことなので、それを補正するためにベーシックインカムを導入して格差を是正すればケインズの予言は実現するというわけです。

 さらに大胆な予測が55年前に発表されています。
 1965年にフランスの経済学者ジャン・フーラスティエが『四万時間:未来の労働を予測する』という本を出版しました。
 これは先ほどご紹介した週休3日制を前提にして、1日8時間働くと24年間で労働時間4万時間となって、40代後半で引退して余生を自由に過ごせると予言した内容です。
 さらに2007年になってスポーツ用品の開発販売をするパタゴニアの創業者イボン・ショイナードが『社員をサーフィンに行かせよう』という本を出版し、サーフィンに限らないけれど、好きな趣味を持つことが、社員が責任感を持ち、仕事の効率も向上し、仕事の融通性も上がると言っています。
 私はショイナードのワイオミングにある別荘に遊びに行ったことがありますが、周囲の豪華な別荘とは異質の質素な木造の山小屋で趣味のフライフィッシングの毛針(フライ)を老眼鏡を掛けながら作っている姿は、これからの働き方を象徴していました。

 私が大学1年生の時に受講した「文化人類学」の授業で、教授が戦前に満州のオロチョン族の調査をした時の経験を紹介されましたが、野生の獣を1頭仕留めると、洞窟に持ち込んで全員で食べつくし、満腹になったら数週間は横になったままで生活しているという話でした。
 このように狩猟時代の労働は数週間でわずか1日、ほとんどは休みという生活でしたが、農耕時代になって種蒔きから刈り入れまでかなりの日数を働かなければならなくなりました。
 次に工業が産業の中心になり、さらに三次産業で7割近い人々がオフィスで働く時代になると、週休1日が普通になりました。
 このように人間の歴史の直近の1%は労働時間がひたすら増えるという社会で人間は生活してきたのですが、ついに労働時間が減少していくという歴史的転換を迎えたのが現在ではないかと思います。
 この未体験の時代で、どのように生活していくかがこれからの勝負になると思います。





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