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論文

 いよいよ花見の季節が近づいてきました。
 東京などで咲く「ソメイヨシノ」とは種類が違う「ヒカンザクラ」は、南西諸島で、すでに1月末から2月初めに満開になっており、それ以外の地域では高知が最も早く、来週後半に開花し、最後の北海道は5月初旬と、およそ2ヶ月弱をかけて桜前線が北上していきます。
 この花見という風習は日本だけではなく、世界各地に存在しますが、日本の特徴はサクラの木の下で宴会をし、酒を飲むという風習です。
 この風習には外国人にも人気があり、2月、3月は1ヶ月の外国人観光客は200万人を切っていますが、4月になると一気に230万人に増え、5月、6月には200万人前後に戻るという数字からも分かります。
 これはネット上の外国人の投書にも現れており、アメリカ人の「エデンの園は日本にあったんだ!」というのは大袈裟にしても、フィンランド人の「日本に引っ越したい理由と言ってもいいくらい好き」とか、アルジェリア人の「このように季節を愛でる文化がある国は本当に素晴らしい」など賞賛されています。

 この賞賛される重要な原因は、地域ごとに一斉にサクラが咲き、10日前後で散ってしまうという特徴にあるのですが、それは特定のサクラが大量に植えられてきたということにあります。
 公園などに植えられる樹木ではなく、街路樹の種類について国土政策綜合研究所が5年ごとに調査をしていますが、2012年の調査では、全国の道路沿いに植えられている675万本の高木のうち、1位はイチョウの57万本で全体の8.4%、2位のサクラは52万本で7.7%でした。
 ところが25年前にはイチョウが49万本で13.1%、サクラは26万本で7.0%でしたから、サクラが急速に追い上げてきたことがわかります。

 問題は植えられているサクラの種類です。
 日本には野生のサクラが9種か10種あるとされていますが、現在、園芸用に販売されているサクラは600種類以上もあります。
 それは人工的に交配させて作り出したものですが、販売されている苗木の3分の2を占めるのが「ソメイヨシノ」という種類です。
 この名前が付けられたのは1900年ですが、幕末に江戸の染井村(東京都豊島区駒込)の植木屋が作り出し、「ヨシノザクラ」という名前で販売し始めた種類と言われています。
 どのような種類のサクラを交配させて作ったかが明確ではありませんでしたが、最近の遺伝子研究で、両親は「エドヒガン」と「オオシマザクラ」ということがわかりました。
 特徴は成長が早く、苗木を植えてから早ければ数年で花が咲き、葉が目立たないなどの特徴から人気が出て、一気に普及しました。
 ソメイヨシノは接木で増やしてきましたので、すべて同じ性質を持ったクローンです。
 つまり数組の両親から生まれた子供が日本中に浸透したというわけです。
 そのおかげで、各地域で一定の気温になると一斉に開花するため気候の長期変化がわかるという効果もありますが、一方で問題も顕著になってきました。

 日本三大桜は福島県三春町にある樹齢1000年を超える「三春滝桜(みはるたきざくら)(ベニシダレザクラ)」、岐阜県根尾村にある樹齢1500年以上の「淡墨桜(うすずみざくら)(エドヒガン)」、山梨県北杜市にある樹齢2000年とも言われる「山高神代桜(やまたかじんだいざくら)(エドヒガン)」で、このように長寿ですが、ソメイヨシノは一般に60年くらいの寿命です。
 したがって、明治初期に各地に植えられたソメイヨシノが1930年代に一斉に枯れて、植え替えられましたし、戦後に植えられたソメイヨシノが現在、寿命になりつつあり、また植え替える必要が出てきています。
 さらに病気にもなりやすく、最近では特定外来生物に指定された「クビアカツヤカミキリ」という天敵も登場してきました。
 そのような状況を反映し、これまで長年にわたってソメイヨシノの苗木を配布してきた「日本花の会」は2005年から東京都調布市にある神代植物園の「神代曙(じんだいあけぼの)」を原木とする苗木を配布するように方向転換さえしています。

 このように特定の種類に依存する問題は観賞用植物だけではなく食用の作物にも発生しています。
 江戸時代には全国で700種類ほどのコメが生産されていましたが、現在は300種類ほどになり、そのうち主食用として栽培されているコメは260種類ほどになります。
 しかし、作付面積上位の10種類だけで8割程度になり、寡占化が進んでいます。
 これは新潟県魚沼産のコシヒカリが昨年の「食味ランキング」で特Aを取れなかった原因の一つが夏の低温や日照不足の影響とされているように、気候条件が変化すると影響を受けるので、気候変動が激しくなる時代を見据えると、様々な品種が存在することが必要です。

 そのためコメ以外にも、ムギや大豆などの主要作物の趣旨について「主要作物種子法」という法律が1952年に制定され、それらの作物の優秀な種子の生産と普及は国の果たすべき役割とし、その実務を都道府県が責任を持つことと定めてきました。
 北海道で特Aに選ばれた「ゆめぴりか」は上川農業試験場が、「ななつぼし」は札幌にある中央農業試験場が開発して普及させたものです。
 ところが規制改革推進会議が種子法の廃案を提起し、昨年3月の国会で、この法律の廃止が決定し、この4月1日から廃止されます。
 そうすると種子の開発や生産に民間企業が積極的に参入してきますが、それによって巨大な種子企業がF1といわれる翌年の種子を採集できない一代限りの種子を販売し、すでに野菜では日本にも浸透しています。
 さらに特定の地域に適した穀物や野菜の種子を開発し供給することは採算が取れないために民間企業は対応しません。
 つまり作物の均質化が進むとともに、栽培の権限を企業が左右することになりかねません。
 満開のソメイヨシノを眺めながら、このような問題を考えていただければと思います。





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