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論文

 今年は「国際サンゴ礁年」です。
 1994年に日本、フランス、オーストラリア、アメリカなど8カ国(現在は37カ国)の政府が共同で創設した「国際サンゴ礁イニシアチブ(ICRI)」という組織が指定したものです。
 実は今年が最初ではなく、10年前の2008年にも指定されているのですが、なぜサンゴ礁を世界全体で考えることが重要かというと、サンゴ礁は地球環境にとって重要な存在だからです。
 まずサンゴとは、どのような生物なのかを簡単に説明します。
 サンゴは2種類に分類され、浅い海に群生してサンゴ礁を造るサンゴと、宝石として珍重される赤サンゴのように比較的深い海に生息しサンゴ礁を造らないサンゴに分けられます。
 テレビジョンの自然番組などでサンゴ礁を見ると海中に固定されて動かないし、赤サンゴは木の枝のように見えますので植物と思われるかもしれませんが、クラゲやイソギンチャクと同じ刺胞(しほう)動物に分類される動物で、800種ほどが存在します。
 サンゴの一体一体は「ポリプ」と言われ、石灰質の骨格を作り、その上に柔軟な部分があります。これが群生したのがサンゴ礁です。
 サンゴはポリプの先端の触手を使って海中を流れているプランクトンを捕まえて栄養にしているのですが、もう一つの栄養源があります。
 サンゴの内部に褐虫藻(かっちゅうそう)という単細胞の植物が同居しており、これが海中に溶けている二酸化炭素と太陽光を使って光合成を行なって酸素とともに有機物を作るので、サンゴはそれも食料にしています。

 このサンゴ礁は地球環境にとって重要な役割を果たしています。
 第一の役割は海洋生物の棲家になっていることです。
 サンゴ礁は世界100カ国以上の国の海岸の浅い海に展開していますが、その面積は60万平方キロメートルで、地球の海の面積の0.2%でしかありません。しかし、そこに50万種類と推定される海洋生物の4分の1近くが生息しており、海のオアシスと言われるほど海中生物にとって重要な場所です。
 第二は二酸化炭素を酸素に変換してくれることです。
 人間の活動により排出される二酸化炭素の3割は海中に溶け込みますが、褐虫藻をはじめとする植物プランクトンが二酸化炭素を酸素に変換しているのです。
 第三は人間にとっての都合ですが、バリアリーフという言葉があるように、波浪によって海岸が侵食されないように沖合で防御していることです。  

 今年が国際サンゴ礁年に指定されたのは、このサンゴ礁が危機に直面しているからです。
 先ほど説明したサンゴ礁の役割はサンゴと共生する褐虫藻の効果ですが、この植物は水温が上昇し、太陽光が減ると、サンゴから抜け出てしまい、サンゴが白っぽくなる白化(はっか)現象が発生し、やがて栄養不足でサンゴは死滅してしまうのです。
 そこで思い出していただきたいのが、昨年、世界気象機関(WMO)が発表した、エルニーニョ現象が発生しなかった年では海水温が過去最高になったとか、東北大学の研究者が発表した海水の温度が100年間で1度上昇しているという情報です。
 サンゴ礁を作るサンゴの生育に適した海水温は25度から28度なので、それ以上になると褐虫藻が抜け出してしまい、水温が上がると水中のプランクトンが増加して太陽光が減少するため、光合成が十分できなくなり、やはり褐虫藻が抜けていってしまうのです。
 その結果、世界のサンゴ礁の面積の6割近くを占めるオーストラリアのグレートバリアリーフでは、昨年、サンゴ礁の3分の2が白化してしまい、回復できるかどうか微妙な状態になっているようです。
 日本でも石垣島と西表島の間にある日本最大のサンゴ礁の石西礁湖(せきせいしょうこ)が一昨年の夏に9割が死滅しています。
 世界自然保護基金(WWF)は「このまま温暖化が続けば、2050年には世界のサンゴ礁が全て消滅する」とも警告しているほどです。
 また水温が上がると海水に溶ける酸素は減る一方、魚の活動は活発になって酸素を必要としますが十分に摂取することができません。
 そのため魚の成長が妨げられ、昨年の科学雑誌『ナショナル・ジオグラフィック』には、水温が1度上昇すると、魚の大きさが20%から30%減るという論文も発表されています。

 このように自然環境にとってだけではなく、人間の生活にとっても重要なサンゴ礁を守るということを考えるために「国際サンゴ礁年」が設けられた訳ですが、日本が重要な貢献をできそうな技術が登場しました。
 昨年2月にNHKがテレビジョンで放送した番組の内容を紹介させていただきます。
 サンゴ礁を回復させるための手段として、水槽で養殖したサンゴを海中に移植する活動が世界各地で行われています。
 沖縄に養殖場を自前で作られ、サンゴ養殖の第一人者と言われる金城(きんじょう)浩二さんが「ウスエダミドリイシ」という、ごく普通のサンゴを養殖場の水槽の深い場所から水温の高い浅い場所に移し、生き残ったサンゴを繰り返し増やしていったところ、水温の高い海中でも白化しないサンゴが誕生しました。
 これを海中に移植したところ、水温が高くなっても白化しないことがわかったのです。
 研究者が調べたところ「エンドゾイコモナス」というバクテリアがサンゴの体内にいることがわかりました。
 この研究を応用していけば、違う種類のサンゴでも高温に強い種類が育てられるかもしれません。
 それを海中に移植していけば、日本の技術が世界のサンゴ礁を救うという画期的なことになるかもしれません。





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