TOPページへ論文ページへ
論文

 今週月曜日の27日に中国の習近平国家主席が「トイレ革命」を指示したことが話題になっています。
 国家主席が指示をするような問題かという意見もあるようですが、1950年代に毛沢東国家主席が、ハエ、カ、ネズミ、スズメという四害を駆除する国民運動を展開した前例もあり、習近平国家主席も「トイレは決して小さい問題ではない。観光地や都市だけではなく、農村部でもこうした大衆生活の品質の足りない部分を補っていかなければならない」と強調しているようです。
 中国は2008年の北京オリンピックを契機に大都市のトイレは整備されましたが、現在でも多くの地方都市の公衆トイレは広い部屋に間仕切りもなく大便器が並んでおり、みんな仲良く並んで使っています。
 しかし、古代には同じようなトイレが世界各地で使われていました。
 現在のトルコの地中海に面した海岸沿いにエフェソスという古代ギリシャ時代からの都市がありますが、その遺跡には公衆トイレが残っています。
 現在は屋根がありませんが、広い部屋に30くらいの穴が空いた大理石の長椅子があり、そこに仲良く座って使っていたようです。
 素晴らしいことは長椅子の下は水路になっており、絶えず水が流れる水洗式でした。
 日本にも似たような施設があります。京都の東福寺に禅宗の言葉で「東司(とうす)」と言われるトイレがあり、国の重要文化財に指定されています。
 見学に行ったことがありますが、専用の建物の内部に瓶が二列に埋められており、修行するお坊さんは並んで用を足していたようで、古代ギリシャやローマと同じ形式でした。

 私が行った世界各地の僻地では色々な経験をしましたが、モンゴルの遊牧民の人たちの移動式住居である「ゲル」で寝泊まりしていた時には、見渡す限りの草原すべてがトイレでした。
 何しろ周囲はヒツジやラクダのフンが至る所にあるので、どこでもいいわけですが、慣れると恥ずかしいという感覚は次第になくなり、満天の星を眺めながらの体験などは爽快でした。
 現地の女性も同様のスタイルですが、最近、日本から草原で乗馬をするために旅行してくる女性が増え、そのようなツアーでは女性用に長いスカートが用意してあり、それを着て用を足すようになっているそうです。
 後半はモンゴルの砂漠地帯に行きましたが、ここも場所は自由ですが、砂地なのであらかじめ手で穴を掘って、終わってから埋めて処理をしていました。

 インドネシアの水上生活をしているバジャウ族の人々を訪ねた時は、竹を編んだ床に穴が空いており、そのまま海中に向けて用を足すのですが、魚のエサになっていました。
 同じことは南米最南端のケープホーンでカヤックをした時で、人が生活していない無人地帯のため、環境を汚染しないように、長靴を履いて波打ち際に行き、水中に用を足し、トイレットペーパーを使うと、これも環境を汚染するというので、手で海水をすくって洗うという生活をしていました。
 日本でも知床半島や孤島にカヤックに行くと、同じように海岸の岩の間などで処理するのですが、しばらくすると波が来て洗って行くという方式でまさに水洗便所です。

 意外だったのは、40年ほど前の経験なので、現在も残っているのかはわかりませんが、エジプトのカイロのレストランなどのトイレには、日本の温水洗浄便座の元祖のような便器がありました。
 日本のように洗うときだけノズルが出てくるという高級な仕掛けではなく、便器の中央まで金属製のノズルが出ており、終わって栓をひねると水が吹き出てお尻を洗ってくれるという方式ですが、エジプト人は如何に自分たちが清潔な国民かと自慢していました。
 日本でウォシュレットが発売されたのが1980年ですから、それよりかなり前から存在していたことになります。

 アマゾン川の源流地域や北極圏のイヌイットの人がアザラシ猟に行く氷原には、もちろんトイレはないので、どこでも自由ですが、なかなか怖い思いをします。
 アマゾン川の源流地帯は密林ですから、どこでもいいのですが、ダニが大量にいるので、のんびりしていると刺されてしまうので、素早く済ませる必要がありますし、北極圏の氷の上はそもそも零下10度近い上に、案内してくれた現地のイヌイットの人がホッキョクグマの住処だから周りを注意しながら用を足せというので、なかなか落ち着かない作業でした。
 実際、翌日、付近でホッキョクグマを2頭仕留めましたので、冗談ではなかったのです。

 このように世界のトイレ事情をご紹介してくると、日本の家庭の80%にまで普及し、場所によっては公衆トイレや飛行機の中にまで用意されている日本の温水洗浄便座は、清潔好きの日本人の面目躍如という気がします。
 先日、イルカ漁で有名な和歌山県の太地町(たいじちょう)に行きましたが、ここは町長さんの政策で日本一清潔な公衆トイレが道の駅に用意されていました。
 入ってみて本当に驚きましたが、一流ホテルのトイレも負けるほどの美しい石貼りのトイレでした。

 もう一つ日本の特徴はトイレットペーパーが優れていることです。
 実際に経験しておられる方も多いと思いますが、外国ではトイレットペーパーを水洗便器に流してはいけない国が数多くあります。
 ペルーに行った時に首都のリマのホテルで、同行した何人かが部屋のトイレを詰まらせ、従業員に怒られるという出来事がありました。
 使用した紙は水に溶けないので、トイレの中にある屑篭に捨てなければいけないことを知らなかったせいです。
 温水洗浄便座にしても、柔らかくて水に溶けるトイレットペーパーにしても、日本の誇るべき清潔文化の象徴だと思います。
 中国は観光政策の一環としてトイレ革命を目指しているようですが、ぜひ日本の技術を参考にして欲しいと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.