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論文

 台風21号は日本列島の東側をかすめて縦断し、各地に大量の雨を降らせて温帯低気圧になりました。
 10名近くの方が亡くなられ残念なことでしたが、大型台風にしては被害が少ない方でした。
 今年は1月と2月の東北地方の大雪、7月の福岡県と大分県での集中豪雨、8月の台風5号の停滞、9月の台風18号の日本列島を縦断、そして今回の台風21号の通過という状態で、気象災害が集中しています。
 これは日本だけではなく、アメリカでは8月にハリケーン・ハービー、9月にはハリケーン・イルマが上陸、同じ9月にハリケーン・マリアがプエルトリコに襲来、10月にはカリフォルニア州の山火事というように自然災害が続発しています。

 第一に心配になるのは地球温暖化の影響により世界全体で自然災害が増加しているかということです。
 これについてはドイツのミュンヘンに本社がある「ミュンヘン再保険」という会社が発表した統計があります。
 地震、津波、火山爆発など地質学的災害、台風、暴風などの気象災害、洪水や地滑りなどの災害、干魃、山火事など異常気象による災害の4種類を合計した自然災害は1980年代には1年平均で290件、90年代には430件、2000年代には475件、2010年代には610件と着実に増えています。

 当然ですが、これは経済的な被害も発生させています。
 同じく「ミュンヘン再保険」会社の推定によると、1980年代は平均して1年に4兆4000億円、90年代は9兆3000億円、2000年代になると11兆6000億円、2010年代は13兆9000億円と増加しています。
 自然災害ですから年毎に増減がありますが、わずか35年程度という短期間で3倍以上に増加しているのは、偶然ではなく、人口の増加や貧富の拡大により、居住環境が敵地ではない場所に拡張していることも影響しているかもしれませんが、やはり地球温暖化の影響も大きいと思います。

 この問題に挑戦していくことは日本にとって重要なことです。
 国連大学が「ワールド・リスク・レポート」という災害についての報告書を毎年発行し、世界の171カ国について、各国の自然災害に遭遇する危険度を評価して順位を付けています。
 最新の2016年版では、日本は危険な方から17番目になっているのです。
 日本より上位にある国は1位のバヌアツ、2位のトンガ、6位のソロモン諸島、13位のモーリシャス、16位のフィジーなど、小さな島国や、3位のフィリピン、4位のグアテマラ、5位のバングラディシュ、8位のコスタリカなど発展途上国であり、先進諸国で最初に登場するのが日本なのです。
 OECDに加盟している先進諸国では、22位にチリ、49位にオランダが登場しますが、チリは地震と津波の多発地帯のために危険とされ、オランダは国土の25%が海面下のため海面上昇の影響が大きいという理由です。
 しかし、それ以外は76位にギリシャ、95位にメキシコ、113位に韓国、121位にオーストラリア、127位にアメリカ、131位にイギリス、147位にドイツ、152位にフランス、162位にスウェーデンという状態です。

 この日本の17位という順位は人命の損失は当然として、経済的損失も巨額であることを意味し、国家にとって真剣に対処すべき課題です。
 自然災害による経済的損失を計算してみると、1995年の阪神淡路大震災は9兆6000億円でGDPの1.9%、東日本大震災は16兆9000億円でGDPの3.5%、これに人災とされる福島第一原子力発電所の被害は最低でも10兆円とされているので、追加すればGDPの5.6%にもなります。    

 このような巨額の経済損失は、他の社会発展のための投資ができないなど、国家の発展を大きく阻害します。
 国連の防災事務局(UNISDR)が発表している『世界防災白書』がありますが、その2015年版に、自然災害の被害額が国の発展に影響する深刻度を相対的に表した指標を発表しています。
 ドイツのように災害に強く(147位)経済規模が大きい国は40点、アメリカ(127位)は経済規模はドイツ以上ですが、台風や山火事の被害が多いので56点になっています。
 参考までに2005年にアメリカ東部を襲ったハリケーン・カトリーナの被害額は13兆円ですが、それでもGDPの0.6%でしかありませんし、今回のカリフォルニアの山火事の被害額は1200億円と推定されていますが、GDPの0.006%ですから、大変な災害のようですが、アメリカ経済の視点からは影響は少ないのです。
 一方、2011年にタイで、進出している日本企業も被害を受けた大洪水がありましたが、この被害額は4兆円でタイのGDPの13%にもなり、国の発展を停滞させる原因になりました。
 日本は東日本大震災の被害額でもGDPの3.5%ですから基礎体力はありますが、脆弱の順番で17位でということが影響して、アメリカ以上の58点です。

 このような災害大国日本はどのように対処して行ったらいいかですが、現在の政府は国土強靭化という目標を掲げて巨大な防潮堤の建造、河川の堤防を嵩上げするような土木事業を推進していますが、台風や洪水のエネルギーは人工物が耐えられるような規模ではないことは、東日本大震災の時に崩壊した防潮堤が証明しています。
 中国の古典にもある「36計逃げるに如かず」の言葉のように、安全な場所に生活することを検討するべきだと思います。
 かつて人口が増え、産業が発展する時代には安全ではない場所にも住宅や工場が建設されましたが、人口が減少し、産業はオフィスの内部で可能な情報産業が中心になった現在、大きな方向転換をすべきだと思います。





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