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論文

 今週初めの9月3日に北朝鮮が水爆と推定される核実験を行ったため、アメリカと北朝鮮の間で核戦争にも発展しかねない緊張関係が続いていますが、アメリカの一部の人々の間で、北朝鮮に核兵器を放棄させることは困難なので、日本や韓国にアメリカの核兵器を配備するか、この両国が核兵器を開発し、核武装することを容認すべきだという「核ドミノ現象」を誘発するような意見が出始めています。
 アメリカの公式見解は、オバマ大統領時代の2010年に策定された方針で、1991年のソビエト連邦の崩壊を契機に、アメリカ軍がアジア太平洋地域に配備していた核戦力を撤去したが、東アジアの情勢によって、必要になれば再配備する態勢は維持するという内容で、トランプ政権が間もなく発表する指針でも、その内容を踏襲すると予想されています。

 ところが、そのアメリカで「日本が自前の核兵器を持てば、すべての民主国家は安全になる。強い日本は中国の膨張を阻止するし、アメリカ軍が各地に駐屯しなくてもすむようになる」という発言をする軍事評論家も登場しています。
 このような緊迫した状況ですが、先月29日、北朝鮮のミサイルが北海道上空を横断して行ったときも、一部の自治体では緊張した場面もありましたが、大半の国民は緊迫感なく過ごしていました。
 また韓国では8月23日に防空訓練が実施されましたが、国民にはほとんど危機感がなく、インタビューに「いつ起こるか分からないのに備えるのは無駄」とか「北との戦争は日本の大地震の可能性より低い」という答えさえあったというようなニュースも伝えられています。

 しかし、かつてのアメリカでは国民の多くがパニック状態になるような事態がありました。
 最初は1957年10月4日に、ソビエトが世界最初の人工衛星「スプートニク1号」の打上げに成功した時です。
 これは宇宙開発競争にアメリカが負けたという自尊心が傷ついたということでも衝撃でしたが、さらに重大な危機がありました。
 冷戦時代の開始とともに、アメリカはSAGE(セージ)という名前の全土をカバーする防空体制を整備していました。
 これはソビエトの北極圏にある基地から戦略爆撃機が核弾頭を積んでアメリカを目指して襲来するという前提で構築されたシステムでした。
 戦略爆撃機が出発し、北極圏、カナダの上空を通過してアメリカに到達するのに8時間以上かかるので、その間に反撃体制を整えるという想定でしたが、人工衛星が核弾頭を積んで飛来すれば1時間程度でアメリカ上空に来てしまうので、SAGEが役立たないという衝撃でした。

 さらに5年後の1962年に、キューバ危機が発生します。
 1959年にキューバ革命が発生し、カストロ兄弟を中心とする人々が親米政権を打倒して新しい政権が誕生しますが、新政権に対するアメリカの対応が冷淡であったため、キューバはソビエトに接近します。
 そのソビエトが密かにキューバに核ミサイルを搬入し、ミサイル基地まで建設していたことが判明し、ケネディ大統領はキューバを海上封鎖し、基地の撤去を要求する一発触発状態になりました。
 結果は、フルシチョフ第一書記がミサイル撤去をして、危機が回避されますが、その間の13日間はアメリカが核戦争も覚悟するほどの危機感でした。

 当時はそのような情勢を反映した映画が多数製作されていますが、現在の緊張感のない状態から目覚めるためにも、ご覧いただいた方がいいのではないかと思う歴史的名画をご紹介します。
 まず冷戦の真最中の1959年に公開された、監督スタンリー・クレイマー、出演グレゴリー・ペック、エヴァ・ガードナー、フレッド・アステア、アンソニー・パーキンスなどの『渚にて』です。これは2年前に書かれた小説を映画化した作品です。
 粗筋は1964年に第三次世界大戦が勃発し、米ソの核攻撃で北半球は全滅しますが、潜航中であった原子力潜水艦が難を逃れ、南半球のオーストラリアのメルボルンに寄港します。
 ところが死の街となったはずのサンディアゴからモールス符号が発信されていることがわかり、調べに行ってみると、吊るされていたコーラ瓶が風で揺れて発信器を叩いていたというエピソードも紹介されます。
 放射能は次第に南半球にも及び、人々が次々に死んでいき、潜水艦も死を覚悟で海に向かうという悲劇的な最後で終わります。

 『2001年宇宙の旅』を製作した奇才スタンリー・キューブリック監督が製作し、1964年に公開された『博士の異常な愛情:または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』という長い題名の映画で、ピーター・セラーズが一人三役で活躍します。
 この映画の冒頭では、アメリカ空軍による「映画はフィクションであり、現実には起こりえない」という字幕が出るようなブラックコメディです。
 空軍基地の司令官が精神異常になり、指揮下にあるB52戦略爆撃機34機にソビエトへの核攻撃を命令し、全機が発進してしまいます。
 急遽、国防総省本部の戦略会議室に集まった大統領や軍の高官などがソビエトの第一書記と電話で連絡すると、ソビエトは核攻撃を受けると自動的に地球の全生物を絶滅させる爆弾が起爆する体制にあることを伝えられます。
 そこでソビエトを目指して飛行する爆撃機に何とか暗号を送信して爆撃を中止しますが、1機だけは暗号受信装置が壊れて通信ができず、ついにソビエトに核弾頭が投下され、ソビエトの全生物絶滅装置が起動し、夜空に花火のように核弾頭が次々と炸裂する場面で終わるという映画です。

 それ以外にも1964年に公開されたシドニー・ルメット監督の『フェイル・セイフ(日本題名:未知への飛行)』、1983年に公開された『ウォーゲーム』、アメリカのABCで1983年に放送され、視聴率46%にもなった『ザ・デイ・アフター』など、核戦争の恐怖を題材にした映画は数多くあります。
 このような事態が発生することを何が何でも避けて欲しいわけですが、映画の描いた近未来を知って、緊張感を持って世界を知ることも重要だと思います。





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