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論文

 今日8月17日は「プロ野球ナイター記念日」とされています。
 69年前の1948年の今日、当時は横浜ゲーリック球場と言われた野球場で東京巨人軍と中日ドラゴンズのプロ野球公式戦が日本で初めてナイターで行われたことを記念した日です。
 この野球場は現在、横浜DeNAベイスターズの本拠地になっている横浜スタジアムの場所にあった施設です。
 翌日の新聞には「周囲8ケ所から放射される30万燭光の強烈なライトに真昼のような明るさ」と書かれましたが、連合軍の兵士が遊びで野球をするために設置された照明設備で、現在のナイターの照明の10分の1程度の明るさしかなく、1回表の巨人軍の守備の時、外野フライがよく見えず、青田昇選手の顔面に当たって負傷退場になるような明るさでした。
 また、当時の電球は照明している最中に雨が当たると、急に冷えて割れてしまうので、「雨が強くなりましたら一斉消灯します。身の回りの品に気をつけて下さい」と場内アナウンスがあったという時代でした。

 このように説明してきましたが、今日は野球の話ではなく「ナイター」という言葉の話です。
 この言葉は1950年の「週間ベースボール」で使われたとされていますが、英語には「ナイター」という言葉はなく、夜間試合は「ナイトゲーム」と言われており、日本で作られた英語です。
 このような言葉を和製英語と言いますが、日本は古くから外国の文化を日本に馴染む形で取り入れて来た国です。

 古代には中国から数多くの文物が輸入されますが、その名前を日本読みにした言葉が数多くあります。
 例えば「スイカ」は中国語では「西瓜」と書いて「シーグア」と発音しますが、日本に漢字で入って来て、日本風に「スイカ」と読んで定着しました。
 このように中国語の文字を日本読みにした単語は社会に浸透し、ある研究によると、14世紀に書かれた「徒然草」に使われている語彙の3分の1は漢語に由来する単語だそうです。

 16世紀になると、ポルトガル人がキリスト教の宣教と貿易のため日本に到来しますが、彼らがもたらした文物が日本的発音で定着した言葉が多数あります。
 ポルトガル語の「ビスカウト」が「ビスケット」、「コンフェイト」が「コンペイト」、「テンペラル」が「テンプラ」はほぼそのままですが、肩を意味する「オンブロ」が「おんぶ」、水が噴き出すことを意味する「ジョロ」が「じょうろ」になった例もあります。
 日本語で最上から最低までを意味する「ピンキリ」という言葉は、ポルトガル語の「点」である「ピンタ」がサイコロの「一の目」に似ているので「一」となり、「十字架」の「クルス」が漢字の「十」の形に似ていることから「10」となり、1から10まで、すなわち「ピンタ・クルス」が訛ってピンキリになったという説があります。

 さらにオランダとの交易が中心になると、オランダ語由来が増加します。
 船員を「マドロス」と言いますが、語源はオランダ語の「マートロース」、
 土曜日を「半ドン」と言いますが、丸一日休みの日曜日が「ゾンタフ」なので、半日休みの土曜日は「半分ゾンタフ」から訛って「半ドン」というわけです。
 明治以後になると、英独仏が輸入文化の中心になり、ドイツ語では「登る鉄」という意味の「シュタイクアイゼン」の後半だけを使って、雪山を登るときの鉄の爪を「アイゼン」、演劇や音楽の仕上げの練習の総合稽古「ゲネラールプローベ」を省略して「ゲネプロ」、本来は労働を意味する「アルバイト」を臨時の仕事の意味に転用するなど、なかなかの創意工夫です。

 フランス語では、「一緒に」を意味する「アベック」が「恋人同士」、破壊活動を意味する「サボタージュ」が変じて略して「サボる」、日本語の「ランデブー」は恋人同士の逢瀬ですが、フランス語では単に「人と会う約束」です。

 しかし、圧倒的に多い日本製の外国語は英語で、本場では通用しない単語が数多く創作されています。
 「ナイター」は英語では「ナイトゲーム」、「サラリーマン」は「オフィス・ワーカー」、「プレイガイド」は「チケット・エージェンシー」、「ベッドタウン」は「コミューター・タウン」、「ヘルスメーター」は「バスルーム・スケール」、「ライブハウス」は「ミュージック・パブ」、「モーニングコール」は「ウェイクアップ・コール」など限りがありません。

 しかし英語として認知されている和製英語も登場しています。
 もちろん「アイキドー(合気道)」「ブシドー(武士道)」「チョーチン(提灯)」「ゲイシャ(芸者)」「イケバナ(生け花)」「カブキ(歌舞伎)」「ナットー(納豆)」「ハイク(俳句)」など、日本の伝統文化がそのまま通用するのはわかりますが、最近の現象も英語に取り入れられています。

 例えば「アニメ」「コスプレ」「ビショージョ(美少女)」「エッチ」「ギャル」「ヘンタイ(変態)」「かわいい」「もえ(萌え)」「オタク」など若者文化に関係する言葉で英語になっているものも多数ありますが、「エモジ(絵文字)」「ベントー(弁当)」「エキデン(駅伝)」「ジュク(学習塾)」「カンバン(看板システム)」「ネマワシ(根回し)」「シンカンセン(新幹線)」など日本が発明した技術や制度も英語社会に浸透し始めています。

 このような事例をご紹介すると、日本語が乱れているという意見もありますが、奈良時代の「古事記」や「日本書紀」、平安時代の「枕草子」や「源氏物語」は、大半の現代人にとって解説なしでは理解できませんし、100年前の明治時代の小説でもしっくりとしないように、言葉は時代とともに絶えず変化しています。
 和製英語も日本社会の文化や制度が背景にある言葉であれば、非難するよりも、現代の日本社会の価値を広く知ってもらう手段と考えればいいと思います。
 3年後の東京五輪大会では多くの方々が外国の人と会話する機会が増えますが、そのような気持ちで接することも重要だと思います。





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