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論文

 自動車のエアバッグやシートベルトで世界の約20%を供給していた日本の企業「タカタ」が製品の欠陥により、約1億個のリコールが必要となり、その費用が1兆3000億円になると想定され、今週にも民事再生法を申請することになりました。
 この再建には中国の電子部品大手「寧波均勝電子」傘下のアメリカ企業「キー・セーフティ・システムズ」が候補企業になっています。
 これは既視感(デジャブ)のある現象です。
 家庭電化製品や太陽電池などで有名であった三洋電機が中越地震の被害や経営に不慣れな女性ジャーナリストを最高経営責任者にするなどの失敗により経営再建が必要になり、2009年にパナソニックが子会社にしましたが、2011年に洗濯機や冷蔵庫などの白物家庭電化製品部門を中国のハイアール・グループに売却しました。
 また液晶パネルの生産で世界的に有名であったシャープは2004年から2012年にかけて三重県亀山市に巨大な生産工場を建設し、世界最強の液晶パネルメーカーになりましたが、経営不振で債務超過になり、2016年に台湾の鴻海(ほんはい)精密工業の傘下に入ることになりました。
 この3例に共通するのは、製品の質でも販売の額でも世界有数であった日本企業が経営破綻し、中国の企業の傘下に入るという結果になっていることです。

 さらに現在、東芝グループの東芝メモリもグループ全体の債務超過から売却されることになり、最終的にどこに売却されるか未定ですが、日本の産業革新機構、アメリカの投資ファンド、韓国の半導体企業の連合が有力になっています。
 1980年代中頃には、世界の半導体の売上げ順位の1位はNEC、2位東芝、3位日立、6位富士通、9位三菱電機で、その合計は世界の8割にもなっていましたが、現在では東芝メモリが辛うじて11位に残っているだけになってしまい、首位のインテルの7分の1程度の規模でしかありません。

 この日本の凋落の原因は2つあると思います。
 第一は20世紀から21世紀にかけて、産業の中心がモノから情報に移行するという巨大転換に日本の産業界が対応できなかったことです。
 1989年の世界の企業の時価評価総額の順位を20位まで調べてみると、1位がNTT、6位がIBM、8位がエクソン、11位がトヨタ自動車、13位が新日本製鉄、14位がGE、15位が松下電器産業、17位が日立製作所、18位がAT&T、19位がロイヤルダッチシェルというように、半分が製造業、通信業、エネルギー産業で、残りは金融業でした。
 その金融業も含めると、日本企業が20位までの15を占めており、まさにバブル経済の絶頂期でした。
 ところが今年の5月の順位は、1位がアップル、2位がグーグルの持株会社であるアルファベット、3位がマイクロソフト、4位がアマゾン・ドット・コム、5位がフェイスブックとアメリカの情報産業の新興企業が独占し、9位がテンセント、10位がアリババという中国の新興の情報産業になっています。

 日本企業はようやく47位に製造業のトヨタ自動車が登場するだけです。
 そこで日本企業だけを調べてみると、1位トヨタ自動車、2位NTT、3位NTTドコモ、6位JT、7位KDDI、8位キーエンス、12位本田技研工業など老舗の通信業と製造業が中心で、新興の情報産業は4位にソフトバンクが入っている程度です。
 情報を扱うベンチャー企業が登場してこない構造を変えていかないと、日本の産業の将来は明るくならないと思います。

 第二は新しい産業の基礎となる研究分野で日本が凋落していることです。
 外国の調査機関による2012年から2014年の平均の年間論文数を22分野について調べた結果を見ると、17分野でアメリカが1位、5分野で中国が1位と、全分野を2国で抑えています。
 日本は薬学と生化学の3位が最高で、情報分野に関係するコンピュータ科学では11位で、韓国の4位、台湾の9位にも負けています。
 これを反映して、世界のスーパーコンピュータの速度の順位を調べて見ると、昨年11月の時点で1位と2位が中国、3位から5位がアメリカで、日本は6位と7位に落ちています。
 しかも、1位の中国の「神威」と6位の日本の「オークフォレスト」の計算速度を比較すると、1位の中国のコンピュータは日本の最高速度のコンピュータの7倍の速度です。
 「2位では駄目ですか?」と言っている間に6位になってしまったのです。

 論文は数ではない、質だという意見もあると思いますが、その比較でも日本は劣勢です。
 論文の質は、どれだけ他の論文に引用されるかで判断されます。
 そこで2012年から2014年の3年間の各研究分野の引用回数の上位10%の論文の数を比べて見ると、アメリカが1位で40%、中国が2位で17%、以下、イギリス、ドイツ、フランスなどが続き、日本は10位で5%でしかありません。
 これまでの推移は、日本は2000年頃まではアメリカと近い2位でしたが、中国が研究投資を急速に増やすとともに、先進諸国に留学生を送って優秀な研究者を本国に呼び戻している効果で、一気に躍進しました。
 トランプ大統領は研究開発投資を大幅に減らすと宣言していますから、このままでは中国が1位を独占するかもしれません。

 昨年、大隅良典(おおすみよしのり)博士がノーベル生理学医学賞を受賞され、日本は3年連続で科学分野のノーベル賞を受賞したと浮かれていたときに、大隅博士が「これからは日本の科学分野のノーベル賞受賞者はあまり出てこないだろう」という趣旨の発言をされ、「それは役に立つということを社会が期待しすぎ、何の役に立つか分からない基礎研究に予算を投入しないからだ」と発言しておられます。
 グーグル、アマゾン、フェイスブックなどの情報企業が時価評価総額で世界の1位から5位を独占しているのは、一見、役に立たない購買記録、検索記録、交信記録を創業の時からすべて記録し、それを分析して新しいビジネスを発見しているからで、基礎研究の重要さと共通する考え方です。
 科学立国日本を表明するためには研究は最大の資源ですから、ここ10年程度で急速に低下してきた日本の研究能力を向上させる戦略が必要です。





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