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論文

 先週、ある場所で大変に贅沢な鉄道旅行をしてきました。
 「ななつ星in九州」や「トランスイート四季島」など超高級列車ではなく、北海道にある留萌本線で出発地点の深川から終点の留萌まで乗ったのです。
 北海道に馴染みのない方々にご説明しますと、札幌から旭川に向けて特急に乗ると、約1時間で旭川の一つ手前の深川に到着します。
 ここから西に約50kmの日本海に面した留萌まで運行しているのがJR北海道の留萌本線です。
私は鉄道マニアではありませんが、飛行機や自動車のように窮屈な座席にシートベルトに縛られて乗るよりは、ゆったりと過ごせるので可能な場合は鉄道を利用しており、留萌本線は景色が好みで毎年1回か2回は乗っています。
 今回は平日の昼間でしたが、深川では乗車した3名のうち、2人は2つ目の駅で降りて、車内は私1人になったのですが、それ以後の駅では誰も乗ってこなかったので、終点まで1両の車両を独占して旅行しました。
 お召列車とは言いませんが、1人の運転士さんが私1人のために運転してくれていると思うと、古びた車両ですが贅沢な気分でした。

 鉄道に関心のある方はご存知と思いますが、留萌本線は昨年12月に全国的な話題になったことがあります。
 それ以前、留萌本線の終点は留萌からさらに16kmほど先の増毛(ましけ)までの路線だったのですが、留萌から増毛までの区間が廃線になったのです。
 ちなみに終点の増毛駅は高倉健主演の映画「駅・ステーション」(1981)の舞台として使われた駅です。
 廃線の理由は明瞭で乗客が激減したということです。
 1975年には留萌-増毛間の輸送密度は1日1200人ほどでしたが、年ごとに減っていき、2014年には39人になってしまいました。
 留萌と増毛の間には往復で13本の列車が運行していましたから、単純に平均すれば1列車といっても1両ですが、3人しか乗っていない状態でしたし、増毛駅の乗降客数が1日ゼロという日さえありました。
 鉄道には営業係数という数字があります。
 ある路線を運行させた時の収入と支出の比率です。
 2014年の留萌-増毛間では年間500万円の収入があったのですが、必要な経費は2億3200万円でした。
 100円を稼ぐために4554円の費用がかかっていたということです。

 一般に鉄道は1日1kmあたり1500人の乗客が営業収益の分岐点とされていますが、JR北海道では1500人未満の区間が15もあり、そのうち500人以下は廃線にすることを検討しています。
 私が1人だけで乗せてもらった深川-留萌間も177人で、営業係数も1342、すなわち100円を稼ぐのに1342円かかっていますから、廃線の危機に直面しています。

 そこでどうするかということですが、第一は総合的な交通体系の構想が必要ではないかと思います。
 留萌本線から外を眺めていると、ほぼ並行して高規格幹線道路(無料の高速道路)の建設が進み、2年後に完成予定で一部は開通して利用されています。
 しかし、自動車はときどき走っている程度でした。
 一般道路も並行して走っていますが、自動車はわずかしか走っていません。
 道路は北海道開発局、鉄道はJR北海道で、広く見れば国土交通省の所管ということになりますが、どのように鉄道と道路が分担するかという総合計画はなさそうで、現状では道路が鉄道の需要を減らしているという状態です。

 第二は地域の人々の情熱だと思います。
 確かに1日に往復で15本しか運行していない鉄道よりは自動車の方が便利ですが、特別に観光需要がある地域でもないので、沿線の人々が利用しなければ鉄道の経営は悪化して行かざるを得ません。

 そこで、地域の人々の情熱が蘇らせた鉄道をご紹介したいと思います。
 茨城県の常磐線の勝田駅から東の方の太平洋に向かって「ひたちなか海浜鉄道」という第三セクターが運営する鉄道が走っています。
 2008年までは茨城交通株式会社が経営していましたが、維持できないということで廃線を申請しました。
 そこで「ひたちなか市」が出資して茨城交通と共同で「ひたちなか海浜鉄道」として再出発しました。
 その結果、第三セクターに転換してから8年間で輸送人員は30%増加、営業収益は12%増加を実現しています。
 民間から社長を公募しましたが、50名以上の候補者から選ばれた吉田千秋社長が、メイドトレイン、バレンタイン列車、記念乗車券や記念商品の販売など次々と繰り出したアイデアが効果を発揮しました。
 また経営が潤沢ではないので全国から中古車両を買い集めたのですが、塗装を新しくする費用も節約して、以前の塗装のままで走らせていたところ、すでに消えてしまった幻の車両に乗ることができるというので、全国から鉄道マニアが集まってくるという副次効果も応援しました。
 しかし、最大の力は、沿線の人々が折角廃止を免れたから、なんとか維持したいという情熱を持って「おらが湊鉄道応援団」を結成し、線路の両横の草むしりをする、駅に案内所を作って観光できた人の案内をする、フェースブックで宣伝をするなどの熱心な応援の効果です。

 さらに素晴らしい話があります。
 奥様に先立たれた沿線に住む高齢の方が、奥様の遺品を整理していたら1000万円の残金のある預金通帳が見つかりました。
 自分は生活に困っていないということで、その預金をひたちなか市に寄付されました。
 かねてから駅を新設してほしいという要望が地元からあったのですが、市の財政状況で実現できなかったのですが、その寄付金を元に新駅を作ることになったのです。
 このような住民の応援が経営不振で廃線になる直前の地方鉄道を再生したのです。
 最近は、住民が国や地方自治体に要求をするばかりの風潮がありますが、自分たちで地域を維持するという発想が必要だと思います。





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