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論文

 中国と台湾の関係は複雑ですが、とりわけ昨年5月に台湾が蔡英文(ツァイインウェン)政権になってからは、中国が台湾に対して様々な牽制をしています。
 今年8月に台北で開かれるユニバシアード夏季大会の団体競技に中国が参加しないということもありますが、最近話題になっているのが、来週、スイスのジュネーブで開かれる国際連合世界保健機構(WHO)の総会に、台湾がオブザーバーで出席することが了解されなかったことです。
 2009年から2016年までは「中華台北(チャイニーズ・タイペイ)」という名称でオブザーバー参加していたのですが、WHOが「一つの中国」という原則を巡る中国と台湾の合意がない限り参加は認められない」と説明しているようです。

 同様の出来事が昨年も2回ありました。
 2016年9月に開かれた国際民間航空機関(ICAO)の総会にもオブザーバー出席が許されず、さらに11月に開かれた国際刑事警察機構(ICPO)、通称インターポールの総会にもオブザーバー出席が許されなかったのです。
 理由はWHOと同様、蔡英文政権が「一つの中国」の原則を認めないということですが、実はもう一つ、これら3例に共有の理由があります。

 WHOもICAOもICPOも事務局長や総裁という組織のトップが中国人ということです。
 WHOは英語ではマーガレット・チャンと呼ばれている陳馮富珍(チャンフォンフチャン)という名前の香港出身の女性の中国人が2007年から事務局長に就任しています。
 ICAOは2015年3月から中国人の柳芳(リュウファン)という女性が事務局長に就任し、それ以後、台湾のオブザーバー参加を認めないということになりました。
 ICPOは2016年11月に中国人の孟宏偉(モンホンウェイ)が総裁に就任し、就任直後に早速、台湾のオブザーパー参加を認めないことにしました。

 事務局長という肩書きだけを聞くと、円滑に組織を運営するという程度の仕事という印象ですが、実際は大変な権限があります。
 例えば、WHOのチャン事務局長は、組織内部で台湾を「中華台北」ではなく「中国台湾省」と呼ぶようにと内部通達を出しています。
 また、ICPOのモン総裁は今年4月中旬に郭文貴(グオウェングイ)という中国人について国際逮捕手配書を発行しています。
 この人物は2008年の北京五輪大会の時に、関連施設の開発などで大儲けし、2014年の中国の長者番付で74番になる資産家でした。
 当然、中国共産党の高官などと深い付き合いがあり、多くの秘密情報を握っていました。
 ところが習近平政権の腐敗摘発活動で親友の国家安全省次官が失脚したため、自分にも累が及ぶと察知し、家族を残したままアメリカに亡命しました。
 当然、中国に残した資産は没収され政府高官の名義に書き換えられて行きました。
 そこで恨みを晴らすべくアメリカでマスメディアに登場し、中国の内実を暴露してきましたが、とりわけ重大な情報は、習近平(シーチンピン)国家主席の腹心で腐敗を摘発してきた中心人物の王岐山(ワンチーシャン)を、習首席が別の腹心を使って内偵しているという情報でした。
 これほど指導部にとって不都合な真実はありませんから、ICPOから国際逮捕手配書を出させたというわけです。

 中国が国際機関の事務局長の獲得を目指し始めた契機があります。
 2014年2月にスペインの裁判所が江沢民(チャンツォーミン)元国家主席をチベットでの大虐殺に関与したという理由で有罪とし、その結果、ICPOから国際指名手配になったことがあります。
 これに驚愕した中国は国際組織の事務局長の地位の重要さを認識して運動し始めたと言われています。
 それは国際機関の事務局長の国籍を調べると明瞭です。
 国際連合の補助機関と専門機関と関連機関は90くらいありますが、主要な約40の機関の事務局長の国籍を調べてみると、大半の国は1名を出しているだけですが、フランスが3名、アメリカ、ノルウェー、イタリア、ヨルダン、ブラジル、日本が2名です。
 ところが中国だけが飛び抜けて6名も出しているのです。
 機関としては、これまで話題にした3機関以外に、国際電気通信連合(ITU)、国際連合工業開発機関(UNIDO)、国際標準化機構(ISO)を押さえていますが、いずれも中国の産業発展にとって重要な機関です。

 これまで日本も、ICPO、国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)、ITUなどの事務局長を勤めていますが、東京に施設がある国際連合大学の学長などにさえ就任していません。
 国際連合の分担金は国民総所得(GNI)を基準として、発展途上国などには割引措置などを入れた一定の計算方式で計算しますが、上限は22%となっています。
 今年はアメリカが上限の22%で6億1100万ドル、2位が日本の9.7%で2億4400万ドル、3位が中国の7.9%で2億ドルとなっています。
 それにもかかわらず日本は名古屋市に本部のある国際連合地域開発センターの所長とウィーンにある国際原子力機関の事務局長のみであるのに、中国は重要な役割のある組織の事務局長を6つも占めているのです。

 国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)についても、分担金比率は同じです。
 しかも、アメリカはパレスチナがユネスコに加盟したことに反発し、2011年から分担金を支払っていません。2年間、支払わないと投票権が無くなりますが、構わず支払いを停止したままです。
 したがって日本は最も払っていることになりますが、世界遺産の登録件数はイタリアが51件、中国が50件、スペインが45件で、日本は12位で20件でしかありません。
 しかも、記憶遺産では正確ではない情報で「南京大虐殺の記録」が登録されてしまったという失敗もあります。
 日本は反発して支払いを停止していましたが、結局、昨年の暮れに支払うことにしています。
 日本はもはや優雅な金持ちの旦那ではいられない状況ですから、国際組織に人材を送り込んで、分担金に見合う成果を得る戦略が必要だと思います。





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