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論文

 2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会の開催に向けた準備が進んでいますが、この4月1日から、あるプロジェクトが始まりました。
 名前は「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」です。
 オリンピック・パラリンピック大会では、金・銀・銅を合計して約5000個のメダルが授与されますが、その材料となる金属を都市鉱山から確保しようというプロジェクトです。
 これはすでに2014年10月に岩手県の一関市長から組織委員会に提案され、さらに2015年7月に青森県八戸市、秋田県大館市、岩手県一関市から、当時の遠藤利明担当大臣に提案されていた企画で、昨年11月9日には組織委員会が仮称「みんなでつくる!エコメダルプロジェクト」として発表していたものです。
 そしてこの4月1日から全国のドコモショップと参加自治体が窓口として都市鉱山の鉱石である情報機器の回収を開始したというわけです。

 都市鉱山は御存知の方も多いと思いますので、簡単に説明します。
 金属資源は一般には地下から鉱石を掘って、それを精錬して生産しますが、廃棄される家庭電化製品や情報機器などの部品に含まれている金属を回収して利用しようという考え方です。
 日本は鉄、銅、鉛、アルミニウムなどベースメタルといわれる金属も、金、銀、プラチナなどの貴金属も、さらにはリチウム、チタン、ガリウムなどのレアメタルも、ほとんど国内では産出しない資源小国です。
 ところが、長年、海外から輸入して製品に使用している金属は大量に国内に存在しており、それらが廃棄されるときに回収すれば相当な量になるということで、1980年代に日本で提言された概念です。

 例えば、金は6800トンが都市鉱山として国内に存在し、世界の埋蔵量の16%に匹敵、銀は6万トン存在し、世界の埋蔵量の22%という数字があります。
 とりわけ携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、パーソナル・コンピュータには大量の金、銀、レアメタルが含まれているので、不要になって廃棄される製品を集め、そこから金、銀、銅を回収し、メダルに加工しようというわけです。

 都市鉱山の利点はいくつかあります。
 第一に都市鉱山は含有率が非常に大きいという特徴があります。
 世界最高の品位の金の鉱石を産出する鉱山は九州にある菱刈鉱山です。ここの金鉱石1トンからは40グラムの金が採集できますが、世界の主要な金鉱山の平均では5グラム程度です。
 ところが1台100グラムの携帯電話を1万台集めると1トンになりますが、そこからは280〜300グラムの金が回収できるのです。
 菱刈鉱山の7倍、世界の平均の60倍という高品位の鉱石なのです。

 第二は環境への影響が少ないということです。
 普通の鉱山は採掘方法にもよりますが、森林を伐採し、地下水脈も壊しかねません。
 さらにブラジルやペルーでは水銀が金と結びつく性質を利用して、採掘した鉱石を砕いて水銀を塗った板の上を流して金との化合物を作って採集しています。
 化合物にならなかった水銀は川に流れ込んで有機水銀になり、川を汚染し、人体にも影響するという問題があります。
 都市鉱山も有用な金属を回収するときに化学薬品などを使いますので、注意は必要ですが、工場内で処理されますので環境を破壊することはありません。

 このような都市鉱山から回収した金、銀、銅でメダルを製造するためには、どの程度の情報端末装置を回収する必要があるかを計算してみます。
 まずメダルの数ですが、金メダルと銀メダルは1600個、銅メダルは競技によっては2人に贈呈することもあるので1800個とします。
 メダルの大きさや素材については国際オリンピック委員会の規定があり、最小で直径60mm以上、厚さ3mm以上となっていますので、この基準を満たす最小のメダルで計算してみます。
 金メダルは、残念ながら金無垢ではなく、360グラムの銀で作った土台の表面に6グラムの金を被せて作ります。
 1600個の金メダルのためには、6グラム X 1600 = 9.6キログラムが必要になります。
 現在の価格はグラムあたり4800円ほどですから、市場から購入すれば4600万円ほどの値段になります。
 1トンの携帯電話から280〜300グラムの金が回収できますから、9.6キログラムの金を回収するためには32トンの携帯電話、台数にして32万台程度が必要になります。

 銀メダルは純度92.5%の銀で作りますから、最小の360グラムのメダルとして、純銀は333グラムで、金メダルの土台の分と合計して3200個が必要になり、約1100キログラムが必要です。
 1トンの携帯電話からは1.9キログラムの銀が回収できますので、580万台が必要になります。

 銅メダルは規定の最小寸法で作ると290グラムで作ることが出来ますので、1800個では522キログラムの銅が必要です。
 1トンの携帯電話からは137キログラムの銅が回収できますので、3.8トンの携帯電話、台数にして3万8000台ほどの携帯電話で十分ということになります。

 銀の需要が最大なので、580万台の携帯電話が回収できれば2020年の大会のメダルはすべて都市鉱山の金属で供給できることになります。
 2014年に廃棄された電気製品から回収された金属は、金が143キログラム、銀が1566キログラム、銅は1112トンになっていますから、供給は可能です。
 ただし、最近は使用済みの携帯電話を写真機や記憶装置に使い、廃棄しない人が増えて回収台数が減っていますが、それでも年間600万台は回収されていますので、目標の580万台は達成不可能ではありません。
 4月1日から始まった「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」は約2年間行なわれ、目標の台数に達成した段階で終了になります。
 これはオリンピック史上、最初の試みで、十分にレガシーになると思いますので、応援される価値はあると思います。
 なおメダルのために回収する製品には制約がありますので、ドコモショップや自治体に問い合わせて下さい。





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