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論文

 明日12月16日は「紙の記念日」になっていますので、今日は紙の今後について考えてみたいと思います。
 なぜ明日が紙の記念日なのかは、東京瓦斯、秩父セメント、帝国ホテル、キリンビール、東洋紡績,京阪電気鉄道など明治から昭和にかけて500以上の企業を設立した実業家の渋沢栄一が明治5(1872)年11月に設立した「抄紙(しょうし)会社」が、苦心惨憺して3年後の明治8(1875)年12月15日に、ようやく紙を生産できるようになって正式の開業日を迎えたことに由来します。
 この抄紙会社から発展したのが現在の王子製紙や日本製紙です。

 人類は言葉と文字を発明し、さらにそれらを記録する技術を発明しました。その記録媒体として発明されたのが紙です。
 最初は古代エジプトでパピルスの茎を広げた素材が使われていましたが、現在の紙に近い素材は中国で発明され、紀元前150年頃と推定されるものが発掘されています。
 この製法が8世紀にはイスラム世界に伝わり、12世紀にはヨーロッパに伝わり、15世紀の活版印刷の発明により、人間の言葉を記録する中心の材料になり、文化は紙が維持してきたといっても過言ではないほど重要な役割を果たしてきました。
 かつて紙の消費量が国の文化水準のバロメーターと言われていましたが、最近、その地位が揺らぎ始めています。

 具体的に数字で見ると、まず紙の生産量が減りはじめています。
 世界の主要先進諸国の紙の生産量は2000年代に入って頭打ちになり、2006年ころから減りはじめていますし、一人あたりの消費量もフィンランドでは2006年から2012年までで45%減、アメリカでは25%減、日本でも15%減という状態です。
 紙は大きく、荷物の梱包などに使われる板紙と印刷などに使われる紙に分けられますが、日本では、板紙も2000年から最近では約10%減っていますし、印刷に使用される紙は同じ期間に20%以上も減っています。

 後者の大きな原因は紙で情報を流通させる新聞と書籍の減少です。
 日本の新聞の発行部数は2000年から昨年までに約18%減っていますし、日本の2015年の調査では、平日に新聞に目を通す人の比率は70歳以上では66%ですが、60歳代では53%、40歳代では20%、20歳代では8%でしかありません。
 書籍も新刊の点数こそ増えていますが、売上は1997年の1兆6000億円から最近では半減という状態です。
 それを反映して国内の書店の数は1999年の2万2300店から昨年には1万3500店と40%も減ってしまいました。

 その原因は情報の記録も流通も急速に電子媒体に移行しはじめたことです。
 それを象徴するのが今回のアメリカ大統領選挙で、アメリカの主要新聞のほとんどがクリントン候補の支持を主張して記事を書きましたが、フェイスブックやツイッターで情報を流通させたトランプ候補が勝つという結果になりました。
 アメリカの一般の人々が新聞を読まないか信用せず、テレビジョンやインターネットに移行しはじめたのです。
 実際、2013年の「国際通信市場調査報告」によると、ニュースを入手する媒体の比率は、アメリカではテレビジョン(43%)、インターネット(39%)、新聞雑誌(9%)ですし、日本ではインターネット(39%)、テレビジョン(35%)、新聞雑誌(20%)で、いずれも新聞雑誌は第三の媒体になっています。

 今後、電子技術が創り出す情報は爆発的に増えていき、2005年を1とすると、2010年には8倍、2015年には60倍、2020年には315倍になると推計されていますから、ますます紙媒体は劣勢になります。
 現在からでも5倍以上に増えることになりますが、その情報を書籍や新聞や雑誌の形で保存するとすれば、大英図書館に保存されている書物の33億倍の量になりますから、紙では蓄積不能になります。

 そこで登場したのが電子機器ですが、新しく発売された「アイフォン7」の最高仕様のモデルには500年分の新聞、普通の書籍であれば25万冊、音楽であれば5万曲、映画であれば32時間分が記録できます。
 しかし、実際には記録しておく必要はなく、サーバーから新聞の記事を毎秒100MBの通信回線でダウンロードすれば4〜5秒で1日分の記事が入手できますし、小説やコミックは1冊1秒、5分の音楽であれば10分の1秒程度で1曲を送ってもらうことができます。
 しかも、この技術は急速に進歩していき、2020年には携帯端末に保存できる量は急速に拡大していき、最低でも10倍には能力が拡大しますから、紙という媒体はますます危機に直面すると思います。

 さらなる逆風が環境問題です。
 紙を生産するためには材料の木材が必要ですが、世界では紙の材料のパルプのための木材は全木材生産量の17%で、これは森林の面積に換算すると140万ヘクタールで四国の面積に匹敵します。
 さらに新聞や書籍は印刷し配達するためにエネルギーを使用しますが、紙の新聞は電子新聞の20倍、紙の書籍は電子書籍の40倍が必要です。

 紙にとっては明るくない未来ですが、このような巨大な転換点は世界の技術の歴史では何度も発生しています。
 陸上交通では鉄道から自動車への転換、通信手段では手紙から電話、そしてインターネットへの転換、エネルギーでは木材から石炭、そして石油への転換が代表です。
 しかし、鉄道も手紙も木材も完全に消滅した訳ではなく、独自の特徴を活かした利用の場所を見つけていますし、部分的には豪華な旅行には列車、丁寧な気持の表現には手紙、バイオマスエネルギーへの期待というように復活もしています。
 情報媒体としての紙も、そのような新しい位置を発見する時代に来ていると思います。





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