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論文

 アメリカの大統領選挙はトランプ氏の当選の衝撃の陰で、それほど話題になりませんでしたが、もう一つ関心を持たれていたのが、ヒラリー・クリントンが「ガラスの天井」を打ち破るかどうかということでした。
 念のため説明しますと、上を見上げると何も障害がなさそうなのに、実際に登っていくと、見えない障害があって、それ以上は上に行けないという状態を「ガラスの天井」と言います。
 制度では男女の差別はないけれど、実際に挑戦すると女性が活躍することが困難だという状況のことです。
 アメリカの大統領はトランプで45人目ですが、女性は1人も当選しておらず、クリントンは2008年の大統領選挙で挑戦しました。
 民主党候補としての支持率はオバマ候補の21%、ジョン・エドワーズ候補の11%を大きく上回る40%でしたが、実際に選挙が始まってみるとオバマ候補に負けて予備選挙で敗退しました。
 今回、予備選挙は勝ち上がったのですが、優勢と予測されながらトランプに敗退し、ガラスの天井は破れませんでした。

 しかし、世界では国家元首やそれに相当する役職で、次第にガラスの天井が破られつつあります。
 戦後だけでも、有名な女性国家元首はアルゼンチンのイサベラ・ペロン大統領(74−76)、フィリピンのコラソン・アキノ大統領(86−92)、ブラジルのジルマ・ルセフ大統領(11−16)などをはじめ80名近い女性が国家元首になっています。
 また政府の代表としては、インドのインディラ・ガンジー首相(66−77/80−84)、イスラエルのゴルダ・メイヤ首相(69−74)、イギリスのマーガレット・サッチャー首相(79−90)、ノルウェーのグロ・ハーレム・ブルントラント首相(81/86−89/90−96)など80名以上が就任しています。
 現職でも韓国のパク・ウネ大統領、チリのミシェル・バチェレ大統領など14名の国家元首と、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、イギリスのテリーザ・メイ首相など8名の政府の代表が存在します。
 しかし、国連加盟国は193カ国ですから、国家元首と政府代表を合計しても女性は11%ですから、ガラスの天井は存在しているようです。

 日本は最近、何人かの女性国会議員が総理大臣を目指している雰囲気になりましたが、これまでのところ初代の伊藤博文総理大臣から96代の安倍晋三総理大臣まで131年間で女性首相はゼロです。
 アメリカも227年間でゼロですから、日本も仕方がないとしても、日本の見えない天井は国会議員の女性の比率です。

 列国議会同盟という国際組織が189カ国の国会議員の女性比率を比較していますが、日本は11.6%で147番です。
 多い国では1位のルワンダが57.5%、2位のボリビアが51.8%、3位のアンドラが50%、4位のキューバが48.9%、以下、主要な国では6位のスウェーデンが43.6%、8位のフィンランドが42.5%、9位のベルギーが42.4%と、日本とは大差です。
 また189カ国の平均も20.5%ですから、日本は平均以下です。  

 これには理由があり、それらの国々の多くにはクオータ制という、女性の国会議員の比率を一定以上にしなければいけないという制度があるからです。
 一般に先進国といわれる35カ国で構成されるOECDでは、クオータ制を採用していないのはフィンランド、ニュージーランド、デンマーク、アメリカ、日本、トルコの6カ国ですが、それぞれ女性議員の比率はフィンランド(41.5%)、デンマーク(37.4%)、ニュージーランド(31.4%)、アメリカ(19.5%)、トルコ(14.4%)、日本(11.6%)です。
 フィンランドは女性大統領や首相が選ばれ、女性国会議員比率も世界9位ですし、ニュージーランドは国家元首代理の総督は代々女性、首相も女性が何回か就任している国で、実際に女性議員の比率も36位ですから、クオータ制が必要ないと思いますが、日本は検討するべきかもしれません。

 それ以外にも、日本は女性の参加が少ない国で、研究者の女性比率は14.4%でOECD加盟国中最下位です。
 これでも2000年の10.6%からは増加していますが、上位のリトアニアは49.3%、ラトビアは47.5%、ブルガリアは44.6%などと比較すると、きわめて低い比率です。

 企業の管理職の比率も少なく、部長級は5.1%、課長級は8.5%で、管理職全体では11.2%ですが、世界を見ると1位のフィリッピンは47.6%、2位のアメリカが43.7%、3位のフランスが39.4%で大差です。

 このような職業の天井について「セルロイドの天井」という言葉もあります。
 女優で監督もしているジュディ・フォスターの言葉ですが、ハリウッドでは女性の就業者が増えているが、監督だけはほとんど増加していないということで、かつては映画フィルムがセルロイドで出来ていたために、そのように名付けたという次第です。
 アメリカには「竹の天王」という言葉もあります。アメリカにはアジア系の人口が5%生活していますが、フォーチュン500に入っている大企業の役員は2%でしかないことです。

 これらの天井は何が問題かというと、流行しているダイバーシティの阻害要因になるということです。
 ダイバーシティは多様性ということですが、社会が固定していた時代には、性別も国籍も年齢も同じような人々が集団で社会を維持することが可能でしたが、人々の好みも多様になり、企業の活動も国際展開し、高齢者の比率が増加してくると、それに対応するためには企業も役所も議会も様々な人で構成されることが重要になります。
 世界で日本の存在感が低下しているのは、経済力が低下してきたからだけではなく、他国と比較して多様性が低いことも影響していると思います。
 ぜひ様々な天井を破る人が増えてくることを期待したいと思います。





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