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論文

 インターネットが誕生した日時については、どの段階を誕生とするかによって諸説ありますが、1969年10月29日にアメリカの西海岸で最初の通信に成功したことを根拠に、2日後がインターネット誕生日とされています。
 現在ではインターネットが存在しない社会は想像できませんが、この技術の誕生の背景を記念日に因んで紹介させていただきます。

 インターネットは通信手段としては世界最速で普及した技術です。
 例えば、有線の電話が通信サービスを始めたのは、アメリカで1877年のことですが、そこから世界の20%の人が利用できるようになったのは2006年で129年かかりました。
 現在のような携帯電話が最初に実用になってから世界の20%の人々に普及したのは2001年で35年間が必要でした。
 インターネットが商用サービスを開始したのは1988年ですが、世界の20%の人が利用できるようになったのは2007年で、わずか19年で世界に浸透し、現在では利用者数が30億人を突破していますから、42%の人が利用していることになります。
 日本でも同様で、国民の50%に浸透するまでの年数は、電話が106年、携帯電話が22年ですが、インターネットは9年で到達しています。
 アメリカはさらに速く、5年で国民の半数に普及しています。
 普及だけではなく、利用も急速に拡大し、2011年にアメリカの『サイエンス』という雑誌に掲載された論文によると、電気通信で送受信される情報の総量のうちインターネット経由の比率は1993年には1%でしかなかったのですが、2000年には51%、2007年には97%になっています。
 まさにインターネットでなければ「夜も日も明けぬ」という時代です。

 この技術の誕生は、10月のもう一つの記念日「宇宙開発記念日」と密接な関係があります。
 1957年10月4日にソビエト連邦が「スプートニク1号」という人類最初の人工衛星を打上げた日です。
 これはアメリカにスプートニク・ショックをもたらしました。
 アメリカは急遽、人工衛星を打上げるヴァンガード計画を前倒しにして、2ヶ月遅れの12月6日に打上げることにしましたが、発射2秒後に爆発し、アメリカの威信は傷付きました。

 しかし、このような精神的なショックだけではなく、現実的なショックのほうが重大でした。
 戦後の冷戦時代の開始とともに、アメリカはソビエトが核爆弾を搭載した爆撃機で攻撃してきたときに対応するSAGE(セージ)という防空システムを構築していましたが、爆撃機の20倍近い速度で飛行する人工衛星で核爆弾が運搬されてくると役に立たないため、ソビエトの核攻撃が現実のものとしてアメリカにパニックを発生させたのです。

 アメリカは翌年に宇宙開発を推進するNASAを創設し、対抗手段として潜水艦から核弾頭搭載ミサイルを発射するポラリス計画を開始、ソビエトが保有する以上の大陸間弾道ミサイルを配備などの対策を講じますが、その一つがインターネットの開発でした。
 もし上空で核爆発が起こると、強力な電磁波が発生して、地上での通信が無線も有線も出来なくなってしまうため、戦闘が不能になるし、それまでの電気通信の主力であった電話は交換局が破壊されるとネットワーク全体の通信ができなくなってしまうという大問題を解決する必要があったのです。
 そこで通信網が交換局に集中しない分散型の通信技術としてインターネットの原型が開発されました。
 当然、これは軍事技術であるため公開されず、軍用通信と研究機関の通信として利用されてきましたが、1988年頃から商用の通信にも一部許可が出るようになったのです。

 しかし、それが現在のように爆発的に普及する切っ掛けは日本にありました。
 1990年にNTTが25年先までの長期計画として「VI&P」という構想を発表しました。
 Vはビジュアルで音声から画像の通信を主流にする、Iはインテリジェントで様々な便利な機能を付加する、Pはパーソナルで一家に一台ではなく一人に一台の端末を行き渡るようにする計画です。
 その具体的な手段として、放送も通信も従来のアナログ技術からデジタル技術に転換することと、明治以来、敷設してきた銅線を25年かけて光ファイバーに置き換えるという大胆な構想でした。

 この大構想に仰天したのが情報大国を自任していたアメリカで、対抗策として、それまで公開を抑制してきたインターネットの技術を公開して世界が自由に利用できる政策を発表したのです。
 その時期は私も通信政策の渦中にありましたが、残念ながら、日本は革命的な技術の本質を見抜くことが出来ず、通信の大御所とされていた人々が、インターネットのような不確実な技術を国家として利用すべきではないと言ったり、政治家や役人も技術の本質を理解できずに中途半端な対応をしてきたため、日本は情報後進国になっていきました。

 最近でこそ、ブロードバンドの回線普及率も4Gの携帯電話の普及率も世界1位になりましたが、インターネットを利用したビジネスやサービスでは大きく出遅れています。
 現在の企業の株式時価評価総額の世界の順位では、1位がアップル、2位がグーグルの持株会社であるアルファベット、3位がマイクロソフト、6位がフェイスブック、9位がアマゾンと、10位までにアメリカの情報サービスのベンチャー企業が5社も入っていますが、日本の企業は跡形もありません。
 1830年代の有線通信の発明、1890年代の無線通信の発明と並んで、インターネットは人類の通信技術の革命的な変化ですが、あまりにも巨大な変化に対応できなかった結果です。
 遅まきながら、インターネットの発明からほぼ50年が経過した現在、通信基盤は世界上位に追いついてきましたので、それを利用する分野で発展してほしいと期待します。





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