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論文

 明日、10月7日は「バーコードの日」です。
 衣料品のタグや菓子袋の裏側に十数本の幅の違う線が印刷してあるのがバーコードですが、これはアメリカのドレクセル大学の2人の大学院生が64年前の1952年の10月7日に特許を取得したことに由来します。
 かなり以前のことですが、これは最近、流行しているIoTという概念の基礎となるような技術なのです。
 IoTは「インターネット・オブ・シングス」の頭文字を集めた言葉で、モノのインターネットと訳されています。
 さらにIoE(インターネット・オブ・エブリシング)、万物のインターネットという言葉も誕生しています。

 古くは狼煙や手旗から、手紙や電話、さらにはインターネットまで、通信技術は人間と人間が情報を交換するために開発された手段でした。
 ところが最近では、人間とモノとか、人間と場所の通信が登場してきました。
 例えば、流行している「ポケモンGO」は人間がポケモンの出現する場所と通信して楽しんでいるということになります。
 さらに、人間に関係なくモノが他のモノや場所と通信する例も増えています。
 DVDを手にして代金を支払わないで店を出ようとすると、出口で検知されて捕まるような仕組がありますが、これはDVDというモノと出口という場所が通信している例です。

 日本の通信量の内訳を分類してみると、これまでの通信の中心であった人間同士が情報を交換する量は全体の4%でしかなく、人間とモノや場所との通信が9%で、モノとモノ、モノと場所が勝手に通信している量が87%にもなっており、IoTが主流になっていることが分かります。
 しかし、DVDそのままでは通信ができませんので、通信機能を付加する必要がありますが、それがセンサーといわれる素子です。
 このセンサーの元祖ともいうべき技術がバーコードや、日本の企業デンソーが1994年に発明したQRコードですが、このような印刷された模様で内容を表現する技術から、電子的に情報を発信したり記録するセンサーが一気に重要な役割を果たすようになったのがIoT時代なのです。

 今年はスマートフォンの出荷台数が世界全体で17億台になると推定されていますが、装置の向きを変えると画面が縦から横に変わりますが、これはジャイロセンサーのおかげですし、自分の現在位置が地図に示されますが、これはGPSの信号を感知する位置センサーの効果、写真を撮影できるのは組込まれている画像センサーのおかげというように、センサーは種類も数も急速に増えています。
 それを象徴するのが「トリリオン・センサー・ユニバース」という構想です。
 トリリオンは1兆という単位を示す言葉で、2023年までに地球全体に1兆個のセンサーが存在するような社会を実現しようという構想です。
 業界の推計では、2014年に532億個のセンサーが出荷され、2020年に913億個、2025年に1522億個になり、それらを推計していくと、2023年には1兆個を突破するというわけです。
 これは2013年にアメリカの技術者ヤヌシュ・ブリゼックが提案した構想ですが、目的はセンサーを人類が直面する医療問題、農業問題、環境問題、水問題、教育問題などを解決する手段にしようということです。
 膨大なセンサーを世界全体にばらまくと、それらの問題の解決に貢献するというと「風が吹けば桶屋が儲かる」のような話ですが、一例を御紹介するとご理解いただけると思います。

 すでにアメリカの農機具メーカーのジョン・ディア社は畑の中に様々なセンサーをまとめた「フィールド・コネクト」といわれる装置を設置して、土壌の水分や化学物質の含有度、二酸化炭素の濃度、日光の照度などと同時に、植物の生育状況も測定します。
 その多数のセンサーが時々刻々と送信してくる膨大なデータをビッグデータの技術で解析すると、どのような条件のときに作物が最大に成長するかということが発見できるので、それに合わせて水や肥料を与えるようにします。
 そうすると、最小の水分や肥料で最大の収穫を得ることが出来るので、水問題、農業問題、環境問題に貢献できることになるという訳です。
 オランダの植物工場では、このような技術を駆使した結果、ほとんど人手を掛けずに、面積あたりで、トマトは日本の6倍、キュウリは13倍、ナスは15倍も収穫があり、農地面積は日本の半分以下ですが、農産物の輸出額が日本の12倍の9兆円にもなり、アメリカに次いで世界第2位の農産物輸出国になっています。

 現在、心臓の状態を調べるために、心電図を24時間測定し記録する「ホルター」という装置を使います。
 これは多数の電極を胸に取付け、小型テープレコーダー位の大きさの装置をベルトに挟んで記録していますが、最近、アメリカで開発された「バイオスタンプ」という技術では、伸縮するセンサーを皮膚に貼付けるだけで記録を取ることができ、高度な医療が可能になるとともに、医療費の削減にも貢献しています。
 今年の8月に、東京大学医科学研究所が導入したIBMのワトソンという人工知能に特化したコンピュータが特殊な白血病の患者の病名を10分ほどの計算で見抜き、それまでの人間の医師のおこなっていた治療方法では効果がなかった病気の治療を発見したという発表がありました。
 トリリオン・センサー・ユニバースでは、人間がほとんど作業をしなくても、従来の10倍以上の収穫がある農業や、人間の医師よりも適確な診断や治療ができる可能性が出てくることになります。

 このセンサー産業は現在3兆円産業ですが、2025年には9兆円になる有望な分野です。
 現在、日本は画像センサーの特許では世界の60%、磁気センサーでは45%、加速度センサーでは40%を占有する先進国です。
 これは家庭電化製品や携帯電話など電子機器で劣勢になってきた日本にとって有望な産業ですが、残念なことは、それらのセンサーを組合わせて新しいサービスを創り出す特許ではアメリカが8割以上を抑え、日本は5%でしかありません。
 人口が減少していく日本で、農業や介護など人手不足になる問題を解決できる手段にもなりますので、ぜひ発展していって欲しいと思います。





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