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論文

 2020年の東京五輪大会の準備では、エンブレムの問題、新国立競技場の問題、開催都市である東京都知事の問題などが続発し、前途多難を思わせますが、その一方で着実な準備も進んでいます。
 すでにいくつかの番組でも紹介されていますが、ピクトグラムといわれる案内表示などに使用される記号について、今週、所管の経済産業省が国際標準に改正する検討会を発足させました。
 例えば、丸い湯船から3本の湯気が上がっている有名な温泉マークがありますが、これを外国人が見ると、ラーメンのドンブリから湯気が上がっているようで、レストランなどを連想する可能性があります。
 しかし、国際標準では湯船に3人の人間が入っている図柄になっており、これに変更しようというわけです。
 同様に、今年3月には国土地理院が地図に使用する表示記号を外国人向けに変更しています。
 例えば、ホテルは◯の中にHを入れたものでしたが、ヘリポートと思われてしまうので、人がベッドに寝ている図にし、それだけでは病院と間違えるので、電気スタンドを加えています。
 さらに国土交通省は道路上部の道路標識の表示も変更を進めています。これまでは「総理官邸前」であれが、そのままローマ字にしていただけでしたが、現在では「プライム・ミニスターズ・オフィス」に変更されています。

 このような情報の表示以外に、最近では大都会だけではなく、地方都市や田舎に興味をもつ外国人観光客も増えていますから、全国どこでも外国人旅行者に出会う機会が増え、そのときに無用のトラブルや誤解による不愉快な出来事が起きないようにすることも求められます。
 旅行者から路上で質問されたとき、外国語が流暢であれば問題ありませんが、身振り手振りも必要という方も多いと思いますが、手振りには注意が必要です。
 日本人は「OK」という意思表示をするときに、親指と人差し指で丸をつくります。これが「OK」を示す外国はほとんどなく、大半の民族では「お金」を意味します。
 ところが、フランスでは「ゼロ」を意味し、役に立たないことを表すときに使いますので、相手が手助けなどをしてくれたときに「OK」のつもりで示すと、折角親切にしたのに何だということになりかねません。
 ギリシャでは「同性愛」を意味しますので、日本の男性がギリシャの男性に示すと追いかけられることになります。
 さらに一部の国では、公には使わない方がいい意味で使われています。例えば、ブラジル、ベネズエラ、トルコなどでは、下品な性的意味で使われます。
 私が40年ほど前にブラジルの大学で講演をしたとき、プロジェクターのピントが合っていなかったので、ピントを合わせて欲しいと頼んだところ、鮮明になったので、壇上から「OK」サインを送ったところ、600人ほどの学生から拍手喝采されました。
 まだ話しもしていないのに、人気があるなあと思い、意気揚々と講演し終わったところ、現地の人から教えられ、赤面した経験があります。

 日本では最近、子供だけではなく老人までカメラを向けると人差し指と中指でVサインを作り「ピース」と声を挙げます。
 しかし、ギリシャでは相手を侮辱するときの意思表示になり注意が必要です。
 イギリスやオーストラリアでは手の甲を手前にした場合は「ヴィクトリー(勝利)」の最初の文字「V」を示すので問題が無いのですが、反対に、相手に手の甲を見せた場合は性的な意味になり、使い方を間違うと面倒なことになります。

 日本では、右手と左手の区別はせず、野球やテニスではサウスポーのほうが有利という考えまでありますが、民族や宗教によっては右手と左手を厳密に区別しています。
 インドやインドネシアでは左手は不浄とされていますので、モノを渡すときや握手のときに左手を使うのは厳禁ですし、食事も右手でする必要があります。
 またインドやタイやネパールでは子供の頭には神が宿っていると考えていますので、子供の頭をなでることは厳禁です。
 日本では、人差し指というくらい、2番目の指で相手を指し示しますが、中国では一本指ではなく、開いた手で示しますし、インドでは顎で示します。
 日本では「顎で人を使う」という言葉もあるように、失礼な印象ですが、所変われば所作変わるということです。

 もう一つの厄介な問題は食事です。
 日本人は個人の好き嫌いは別にして、食べることを禁止している食材はありませんが、海外では宗教の規律で、食べてはいけない食材が決められています。
 イスラム教によるブタの禁止とか、ヒンズー教によるウシの禁止は有名ですが、ユダヤ教ではブタ、ラクダ、ウサギなどの獣、クジラ、イルカ、ウナギ、タコ、イカなどの鱗のない水棲動物も禁止です。
 イスラム教には「ハラール」という食品の規定があり、屠殺から加工、調理まで規定を満足しているというハラール認証がないと食べることが出来ませんし、調理器具や食器も専用にしなければいけないとされています。
 食事の作法にも様々な慣例があり、知られた例では、中国では出された料理をすべて食べると足りないという意思表示とされるので、必ず残すことになっています。
 ご馳走してあげたのに、残すなんて失礼なと思ってはいけないのです。

 外国人のために面倒なことだと思われるかも知れませんが、1970年代から80年代にかけて、訪日外国人が年間100万人から200万人の時代なら「郷に入れば郷に従え」と言えたかもしれません。
 しかし、昨年は2000万人になり、4年後の東京五輪の年には4000万人になり、その来訪者からの外貨収入が10兆円にもなるという、捕らぬタヌキの皮算用もありますから、それらの人々が理解しやすく、不満に思わない日本を用意するということも必要だと思います。





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