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論文

 福島第一原子力発電所の事故から5年が経過しましたが、いつ収束するか分からない状況です。
 その対策として被災地への賠償、汚染地域の除染、汚染水対策の費用などが膨らんでいますが、2014年に発表された見通しでは、それらの費用の合計は11兆1600億円でした。
 これには除染費用の2500億円、廃棄物の中間貯蔵施設の整備の1兆1000億円、汚染水対策の2兆円、被災地への賠償の5兆円、復興のための交付金の1600億円、県民の健康管理費用の960億円、公営住宅の建設費の730億円などが含まれていますが、除染された土の最終処分の費用、対応した公務員の人件費などは含まれていませんし、40年近くはかかると推定される廃炉費用も含まれていません。
 事故が発生した2011年12月には5兆8000億円と見積もられていましたから、2年3ヶ月で2倍近くの増加になっています。
 事故から30年が経過したチェルノブイリ原子力発電所の事故では、現在までに約43兆円かかっているとされていますから、福島もまだまだ費用が嵩んでいくと思います。

 原子力関係では、福井県敦賀市に建設され1991年から試験運転をしてきた高速増殖炉「もんじゅ」はナトリウム漏れによる火災事故や炉内で装置が落下する事故で運転中止となっています。
 今後も研究開発に使用する予定ですが、廃炉にするとなると約3000億円が必要という試算もあります。
 これまで建設から実験に1兆円をかけてきましたから、損失は1兆3000億円以上になります。

 このような例を御紹介したのは、社会には失敗による損失が数多くあり、そのような側面も考慮して物事を考えるべきであるという意味です。
 ささやかな例から始めたいと思いますが、まず東京オリンピック・パラリンピック大会のエンブレムの盗作問題です。
 今年1月、大会組織委員会が最初のデザインを白紙撤回したために生じた損失を1億900万円と発表しました。
 内訳は発表のイベントに6800万円、商標登録などに3100万円、応募と選考の事務に900万円などですが、ここには再審査のための費用や国際的評価を失墜させたという損失の金額は入っていません。

 先月、宮崎謙介衆議院議員が辞職しましたが、そのため4月24日に京都3区で補欠選挙が実施されます。
 京都3区の有権者数は34万4000人ほどですが、1票につき、選挙費用は1000円程度がかかるとされていますから、3億4000万円ほどの費用が発生することになります。
 2014年の前回の選挙では投票率が56%でしたから、投票した有権者だけで計算しても1億9300万円程度が補欠選挙にかかるうえ、立候補者の使用する選挙運動費も含めれば、さらに費用は膨らみます。
 本人が辞職するだけでは済まない社会的損失があるということです。

 また情報社会が発展し、その負の側面として情報流出による損害があります。
 1999年に京都府宇治市の住民基本台帳の22万人分の情報をアルバイト学生が光磁気ディスクにコピーして流出させた事件がありました。
 最高裁まで争われ、1件あたり1万5000円の損害賠償が認められましたが、訴えたのは3人だけでしたので、4万5000円プラス遅延損害金で済みましたが、全員であれば総額33億円になるところでした。
 ちなみに訴訟費用は宇治市の負担になっています。

 2004年にはコンビニエンスストア大手「ローソン」のカード会員56万人の情報が流出し、会員全員の115万人に500円の商品券を送付していますので、郵送費や事務手続の費用は別にして5億7500万円を支払っています。
 同じ2004年には「ヤフーBB」の登録者451万人の個人情報が流出し、一人あたり500円、総額22億5500万円の見舞金が支払われています。
 さらに2014年の教育サービス会社「ベネッセホールディングス」の顧客名簿の流出は、当初、2000万人分程度と推定されていましたが、詳細な調査で約3500万人と分かり、利用者への補償として1人あたり500円の金券を配布するため、合計200億円の原資を用意していると会社が発表しました。

 古典的な例は飲酒や喫煙による社会的損失です。
 2008年の数字で、やや古いのですが、アルコールの飲み過ぎによる病気の治療費と労働損失、飲酒運転による自動車事故の被害などを合計すると4兆1500億円と算出されています。
 一方、酒税は1兆5000億円程度ですから、社会的には2兆6500億円の赤字ということになります。
 喫煙についても同様の計算がされており、肺癌などの医療費、病気による労働機会の損失などを合計すると社会的損失は5兆6000億円ですが、タバコの税収やタバコ産業の賃金などを合計しても2兆8000億円ですから、毎年2兆8000億円の損失になっています。
 日本のタバコの売上は年間3000億本なので、タバコ1本につき社会的損失は約10円になります。
 したがって、現在、セブンスターは20本で460円ですが、この社会的損失と均衡させるとすれば、値段は10円X20本の200円を追加した660円が妥当な値段ということになります。

 ネットショッピングが急増し、その影響で宅配便の個数も2007年の32億個から2013年には36億個に増えています。
 ところが1回で届けることが出来ず再配達している荷物が約20%にもなり、3回以上の再配達も1%になっています。
 これは9万人分の仕事に相当し、人手不足の業界にとっては厄介な課題ですし、営業用トラックの二酸化炭素排出量の1%に相当し、環境問題にも影響します。

 社会は経済利益の視点からだけで判断しますが、社会全体としては損失も含めて見ることが重要だということです。





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