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論文

 明日は東日本大震災が発生してから5年目にあたり、様々な報道がされていますが、それほど紹介されていない東北地方太平洋側の漁業に関係する話題を紹介させていただきたいと思います。
 世界三大漁場という概念があります。
 一つはイギリス北部からスカンジナビア半島西側にかけての大西洋北東部、もう一つは北米大陸のアメリカとカナダの沖合に展開するグランドバンクと言われる大西洋北西部、残る一つが日本の東北地方の三陸沖の太平洋北西部です。
 共通する特徴は、寒流と暖流が入り交じっている海域で、大西洋北東部では寒流の東グリーンランド海流と暖流の北大西洋海流、大西洋北西部では寒流のラブラドル海流と暖流のメキシコ湾流、そして三陸沖では寒流の親潮と暖流の黒潮が出会っているため、魚の量も種類も豊富な海域です。
 実際、大西洋北東部では世界の海洋での漁獲高の11%、大西洋北西部では4%ですが、東北地方の沖合の太平洋北西部は26%、世界の4分の1の漁獲高ですから、本当に魚介類の宝庫と言えます。
 さらに素晴らしいことは、ノルウェーやアイスランドが漁場としている大西洋北東部では、漁獲量の8割がタラやニシン、サバなど5、6種類の魚で占められていますが、日本の漁場である北西太平洋では18種類の魚で8割というように、種類も豊富なのです。

 それを裏付ける調査があります。
 世界の科学者360人が10年間に700億円近い研究費を投じて、世界の25カ所の海域に棲息する海洋生物の種類の調査をし、その結果を2010年に発表しています。
 その結果、日本近海とオーストラリアのグレート・バリアリーフが3万3000種類で世界一多様な海洋生物の棲息する海域だということが分かりました。
 このような恵まれた海のおかげで、1990年頃までは、日本の水産業は世界一の漁獲高を誇り、漁業大国でした。
 ところが、2000年には中国、ペルーに抜かれて3位、東日本大震災の発生する前年の2010年には、インドネシア、インド、アメリカにも抜かれて6位にまで低下していました。
 さらに2011年と2012年にはロシアに抜かれて7位、2013年にはミャンマーにも越されて8位と、順位が低下してきました。

 その主要な原因が世界三大漁場に面する岩手、宮城、福島の三県の漁獲量が東日本大震災の影響で急激に低下したことです。
 長年、三県の海面漁獲量は年間50万トン強で日本全体の11%から12%でしたが、大震災の年には26万トンと半減し、比率も日本全体の6・8%に激減し、翌年以後も30万トン、33万トンと十分には回復せず、大震災以前10年間の6割程度でしかありません。
 そのような背景もあり、かつては魚介の輸出国であった日本が、1970年代中頃以後は輸入国になり、最近の自給率は60%前後で世界全体の水産物貿易の14%を購入する最大の輸入国になっています。

 何とか復活してもらいたいのですが、さらに日本は魚食大国の地位も失いつつあります。
 一人一日に食べる魚介類の量を比較すると、人口の少ない島国のモルディブ、アイスランドなどが上位ですが、一定の人口以上の国では日本が一位でした。
 ところが2007年にポルトガルに抜かれて2位、最近は韓国にも抜かれて3位になっています。
 その順位はともかく、日本にとって重要な変化は国民が魚よりも肉を好むようになったことです。
 2001年には一人一日に食べる魚の量が94グラムで肉は76グラムでしたが、2006年に両者がほぼ同じになり、以後、差が開く一方で、2011年には魚73グラムと肉84グラムと完全に逆転してしまいました。
 これは家計消費にも反映しており、2000年頃には魚は肉の1・4倍購入されていましたが、急速に接近し、最近ではほぼ同額になっています。
 とりわけ若い世代で顕著で、2011年の数字ですが、世帯主が70歳以上では魚と肉の購入費用に比率は魚が55%ですが、60歳台では50%、50歳台では40%と減っていき、20歳台では24%でしかありません。

 これは国民の嗜好だから、とやかく言うなという考え方もありますが、国民の健康に影響するという問題があります。
 1970年代にアメリカで、アメリカ人が肉を食べ過ぎて生活習慣病になるため、医療財政が破綻すると危惧し、世界の食糧事情を調べたところ、魚と海草を食べる日本の伝統的な食事が最適だという結論になり、アメリカから和食ブームが世界に波及しました。
 その結果、アメリカとカナダには現在、和食店が2万5000店以上、世界には8万8650店以上が存在するようになりました。
 日本では電話帳で調べる範囲では4万2500店しかありませんから、大逆転です。

 1970年代まで、日本の死亡の原因の1位は脳血管疾患、2位が悪性新生物(がん)、3位が心疾患でしたが、現在は悪性新生物が断然1位で、心疾患が2位、脳血管疾患が3位と逆転しています。
 がんと肉食の関係については諸説ありますが、国立がん研究センターの研究では、肉を毎日100グラム以上食べる男性と、それ以下の男性と比較すると、前者は大腸がんリスクが44%高い、女性の場合は48%高いという報告もありますが、反対の意見の医師もいます。
 しかし、心疾患については関係があるという論文が多く、魚に含まれるEPAとDHAの一日あたり摂取量が0・3グラムの場合の心疾患の危険性を1・0とすると、0・9グラムでは0・6、2・1グラムでは0・35に低下するという論文があります。
 あまり神経質になる必要もありませんが、少なくとも魚を中心とする最近の和食ブームを反映し、日本の伝統的な魚食を見直すことは重要だと思います。





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