TOPページへ論文ページへ
論文

 ここ数年、ダイバーシティという言葉が社会で使われるようになっています。例えば、経済産業省では2012年から「ダイバーシティ経営企業100選」という表彰制度を行なっていますし、社団法人ジャパン・ダイバーシティ・ネットワーク、社団法人日本ダイバーシティ推進協会、財団法人ダイバーシティ研究所なども設立され、活動を推進しています。

 ダイバーシティは多様性と翻訳されますが、1980年代に生態学の分野で「バイオダイバーシティ(生物多様性)」という概念が誕生し、1992年に「生物多様性条約」が成立し、194カ国が締結する世界的な動きになったという背景があります。
 そもそも1860年代にドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルが、生物の研究は従来のように特定の生物を単独に研究するだけではなく、様々な生物の関係を研究する必要があるという意味で「エコロジー」という学問分野を提唱したことが発端ですが、そこから発展し、生物が生存するためには多様であることが必須だということになってきました。
 その理由は生物の棲息する環境は安定している訳ではなく、気象条件が変化したり、様々な生物の間の関係が乱れたりすると、危機に直面しますが、それでも生き延びるためには、様々な種類の生物が存在し、それぞれの生物には様々な特徴を備えた個体が存在することが重要だということです。
 地球は何度も全球凍結(スノーボール)になり、赤道でもマイナス50度になり、海も深さ1000m位まで凍結したと推測されていますが、生物が全滅しなかったのは、そのような環境でも生存できる生物が存在し、数千万年の凍結状態が終わってから再度、種類が増えたからとされています。

 実際の例を御紹介すると分かりやすいと思います。
 現在、ニュージーランドはオーストラリア大陸から2500km離れた洋上にありますが、1億年前には大陸の一部でした。
 それが地殻変動により切離されて島になったのですが、そのときオーストラリア大陸には哺乳類が誕生していなかったので、ニュージーランドは1億年間、捕食動物が存在しない平和な環境でした。
 その結果、ニュージーランドの鳥の多くは飛ぶことを放棄し、ニュージーランドの国鳥であるキウイをはじめ、大半が地上を歩く鳥になってしまいました。
 ところが、この無人の島に、約1000年前、マオリ族が渡来し、約150年前にイギリスから移民が押し寄せ、人間と同伴したイヌ、ネコ、キツネなどによって、短期間で40%近くの鳥が絶滅してしまったのです。
 もし、平和な島でも飛ぶ鳥や速く走る鳥など、へそ曲がりな個体が棲息していれば生残る可能性が高まったという訳です。

 このような現象は人間社会、とりわけ企業社会にも当てはまるのではないかという考えから登場したのが、現在のダイバーシティ・ブームです。
 企業環境にも、ITのように革新技術が浸透して経営形態が激変する、中国のような巨大市場が登場して市場構造が変化する、高齢者比率が急増して消費構造が変化するなど、絶えず環境変化が発生しています。
 そのような変化が発生すると、従来の環境で成功した経験のある社員や経営者では対応できないどころか、間違った判断をする可能性さえあり、様々な種に相当する変わり種の社員が存在することが重要だということになります。

 しかし、日本の経済社会のダイバーシティ政策は偏っているのが現状です。
 ダイバーシティというと女性の活躍を推進することが中心で、経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」なども、女性が活躍する社会を拡大することが主眼になっています。
 実際、その点で日本は後進国で、女性国会議員比率は世界163位、企業の女性管理職比率は20位、女性研究者比率は36位などと芳しくなく、それらの指標を総合した男女平等指数では101位ですから、変化への対応の一手段として女性活躍社会を推進することは重要です。
 しかし、多様性は性別だけではなく、年齢、人種、国籍や、出身地、専門分野、家族構成、政治信条、宗教など様々な分野があります。
 一例として、日本企業の外国人労働者の比率は1%程度で、オーストラリアの29%、スイスの22%、スペインの15%と比較すると大差で、主要国の中の30位です。
 また、大企業では依然として学閥なども存在しています。

 社会環境だけではなく、地球温暖化など自然環境の激変も発生する21世紀には、それに対応できる人材を備えることが重要ですが、単純に女性や外国人を増やせば良いというほど簡単ではないことを紹介したいと思います。
 スウェーデンでは労働力不足の対策として移民促進をし、2000年には移民比率が11%でしたが、2011年には15%になっています。
 ノルウェーも同様に7%から12%に増加しています。
 それは労働力不足には一定の対応ができましたが、移民による暴動の発生や移民によって失業した人々の反撥が多発しています。

 女性の重用についても、各国の女性管理職比率と離婚率の関係を調べると、明らかな正の相関関係があります。
 例えば、日本の女性管理職比率は11%で、離婚率は1・9%ですが、アメリカは44%で2・8%、スウェーデンは36%で2・5%です。
 未婚率についても同様の相関関係があります。
 日本は女性管理職比率が11%で40代の未婚率は12%ですが、フランスは39%で16%、スウェーデンは36%と17%です。

 これらに明確な因果関係かあるか偶然かは分かりませんが、これまで社会に浸透していなかったダイバーシティを推進していけば、長年維持されてきた社会秩序を部分的にせよ壊して、当面は混乱が発生する可能性もあります。
 それらを予測しながらダイバーシティを高めることが、これからの企業の重要な戦略になると思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.