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論文

 格差社会という言葉が流行しているように、所得格差が広がっていることが世界全体で問題になっています。
 今年5月に、OECDが加盟34カ国について、所得上位10%の富裕層と下位10%の貧困層の所得を比べた結果を発表しました。
 それによると1980年代には約7倍でしたが、90年代には約8倍、2000年代には約9倍と年毎に拡大しています。
 さらに最近だけでは、2007年の9.2倍から2013年には9.6倍になっています。

 別の調査で、2010年の人口3000万人以上の国について同様の計算をした結果がありますが、世界最大はブラジルで56倍、南アフリカが44倍、アルゼンチンが22倍、中国が18倍、アメリカが16倍などで、日本は8倍と格差が少ない部類に属します。
 このような国全体の所得格差ではなく、企業の経営者と従業員の所得についても格差は急速に拡大しています。
 アメリカの『フォーチュン』という雑誌が、企業の総収入の上位500社を「フォーチュン・グローバル500」として発表していますが、それらの経営者と従業員の所得格差は1950年が20倍、1980年が42倍、2000年は120倍、2013年は204倍に広がっています。
 格付会社のスタンダード・アンド・プアーズがアメリカの証券取引所に上場している代表的な500社について同様の調査結果を発表していますが、1982年に42倍、2002年に281倍、2013年には354倍という数字です。
 これはあまりにも大きいということで、アメリカでは金融改革法が制定され、2017年から経営者の報酬と従業員の平均給与を開示することが義務づけられるようになりました。

 この開示制度は、日本では2010年から始まっていますが、2014年3月期の役員報酬が高額の上位100社については44倍ですから、アメリカと比べれば格差が小さい社会といえますが、別の格差が存在します。
 正規雇用者と非正規雇用者の賃金格差です。
 2012年の計算では男性の場合、正規雇用者の平均年収は520万円に対して非正規雇用者は226万円、女性は350万円と144万円となっています。
 しかも、全体のうち非正規雇用者の比率が、男性では2000年の11.7%から、2015年は21・3%と増加し、女性では46・2%から56・9%と増加しています。
 その結果、年収300万円以下の就業者の比率が2002年には35%でしたが、2013年位は41%に増大しています。

 このような格差の拡大は社会を不安定にしますから是正が必要ですが、一般には、政府による富裕層への直接税と、貧困層への社会保障給付や現物支給によって再配分して格差是正をしています。
 ところが今年4月にアメリカで、企業が大胆な格差是正をするという注目すべき発表がありました。
 シアトルに立地している2004年創業の決済代行会社グラビティ・ペイメントの30歳のダン・プライス社長が、これまで1億2000万円であった年収を93%減額して840万円にし、120人の社員の最低給与を840万円に引き上げると発表したのです。
 その結果、社員のうち30人は一気に給与が倍増することになりました。
 なぜそのような決断をしたかについて、プライス社長は「現在の所得格差は1930年代の世界恐慌時代以上になっており、何とかしたいと考えていた」「そこで検討した結果、2010年にプリンストン大学が「幸せになるための理想的な年収の最高額」は900万円という研究結果を発表しており、また2012年に「キャリアビルダー」が行なった調査によると、28%の人が「自分が成功したと思える年収」を840万円と答えているから、840万円にした」と答えています。
 さらに「自分は創業以来の蓄えがあるし、自動車は12年間乗っている愛車があるから十分である」とも答えています。

 実は、これを同じことをしてきた政治家がいます。
 今年2月末まで人口340万人の南米の小国ウルグアイの大統領であったホセ・ムヒカです。
 かつては極左ゲリラ組織ツパマロスに所属し、4度逮捕され、2度脱獄し、合計13年間収監されていた政治家で、2010年から5年間、大統領でした。
 その間、給与のうち国民の平均給与と同額は自分で使用し、それ以外は財団に寄付し、大統領専用車はなく、1987年製のフォルクスワーゲンを自分で運転して通勤していました。
 余談ですが、そのフォルクスワーゲンをアラブの富豪が1億2000万円で買い取りたいと言ったとき「友人たちから貰ったモノを売れば友人たちを傷付けることになる」と言って断ったというエピソードもあります。
 世界でもっとも貧しい大統領と呼ばれていたムヒカ前大統領が格差について興味深い発言をしています。
 2012年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた国際連合の持続可能な開発会議で各国代表の最後に講演したムヒカ大統領は「貧乏な人は少ししかモノを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことである」と言っています。

 論語には為政者の心得として「貧しきを憂えず、等狩らざるを憂う」という言葉があり、仏教の経典には「吾唯知足」という言葉もあるように、現在の拡大する格差を政府と国民の両方から解決していくことが必要だと思います。





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