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論文

 今日はエネルギーハーベストという技術についてご紹介したいと思います。
 文明の進歩は簡単に説明するとエネルギーの消費を増加させることです。
 人類の歴史を500万年とすると、その99%の期間は狩猟採集生活で、1人の人間が1日に消費するエネルギーは2500キロカロリー程度でした。
 1万年前くらいに農業を手中にすると、耕作に牛馬を使ったり、灌漑に風車を使ったりするようになり、消費エネルギーは1万キロカロリー程度に増加しましたが、それでも使用するエネルギーはすべて自然エネネルギーでした。
 19世紀になって蒸気機関やガソリンエンジンを発明し、工業社会が到来しますが、石炭や石油など化石燃料を利用するようになり、そのため使用するエネルギーは7万5000キロカロリーになり、現在では25万キロカロリーを消費して便利な生活をしています。
 500万年という人類の歴史の最後の0・005%という一瞬のような時間に1人あたり100倍のエネルギーを使って生活しているというのが現代社会です。

 現在は情報社会になっていますが、情報技術はエネルギーを節約することに役立っているように思われるかもしれません。
 確かに通信手段を使ってテレワークをすれば移動エネルギーは節約できるし、電子ブックで本を読めば、紙を作る、印刷する、配本するなどのエネルギーも節約できます。
 ところが、テレワークのためや電子ブックをどこでも、いつでも読むことができるようにするためには、情報ネットワークが整備され、そのネットワークを通じて情報を伝達できるようにする必要があり、情報システムの維持ための大量のエネルギーが必要になります。
 現在、世界の電力消費のうち情報通信手段のために使用されているのは8%程度ですが、5年後には15%になり、日本のような先進国では13%から20%に増加するという予測があります。

 しかし、情報社会の内部にその予測を上回るような需要が登場してきました。
 第一は仮想通貨です。仮想通貨は一定期間ごとに、その期間内に発生したすべての取引を多数のコンピュータに分散して記録されている取引台帳に記録することで、安全な取引が成立しているのですが、このマイニング(採掘)といわれる作業のためには膨大な計算が必要になります。
 その電力量の推計はいくつかありますが、ビットコイン、イーサリアム、ライトコイン、モネロの主要な4種類の仮想通貨のマイニングだけでキューバの使用電力と同じ程度になっていると推計されており、電力消費の限界で仮想通貨は破綻するという予想もあります。

 第二は「トリリオン・センサーズ・ユニバース」という構想です。
 IoT(インターネット・オブ・シングス)が情報社会の合言葉になっていますが、これは万物が通信ネットワークに接続されて情報を送受信する社会ですが、そのためには万物にセンサーが付けられている必要があります。
 そこで5年後の2023年までに、毎年、1兆(トリリオン)個のセンサーをモノに付けていこうという世界規模の構想が登場しました。
 これは人口あたりにすれば1人に150個のセンサー、面責あたりにすれば地球の陸地の100メートル角にセンサー1個という状態になりますが、毎年、1兆個を増やしていく構想ですから、あらゆるモノや場所にセンサーが分布することになります。

 そこで問題になるのが電力供給をどうするかということです。
 環境から情報を収集するのは温度計を考えても分かるように、電気の不要なセンサーもありますが、その測定した情報を送信しなければ役に立ちませんから電気が必要になります。
 そこで登場したのが発電所などで大量に発電した電気を送電するのではなく、センサーなどの機器の周辺から電気を集めようという考えで、それをエネルギーハーベスト、すなわち環境からエネルギーを収穫すると名付けたのです。
 太陽発電や風力発電も自然環境から電気を作るという意味ではエネルギーハーベスティングの一種ですが、注目されているのは、そのような高密度のエネルギー源ではない非常に低密度のエネルギー源から発電する技術です。

 現在では太陽電池で作動する電子式腕時計が主流ですが、根強い人気がある機械式腕時計では、腕を振ると時計の内部のローターが回転してゼンマイを巻き、使っている限り永久に動く腕時計がありますが、これはエネルギーハーベスティングの古典的事例です。
 道路や橋は自動車が通過すると振動しますが、その振動で発電し、橋のイルミネーションを点灯させる実験が実際に行われていますし、構造物の劣化も管理事務所に連絡できます。
 建物の床に圧電素子という圧力が加わると発電する材料を敷き詰め、停電でも人が歩けば床が明るくなる例も実用になっています。
 同じように雨傘に圧電素子を組み込んでおき、雨が傘に当たる振動でLEDが光るようにし、雨の時に暗い場所を安全に歩く用具も実験されています。
 最近のように異常な豪雨が多くなると下水が氾濫する災害が発生します、そこでマンホールの蓋の裏側に水位を測定するセンサーを取り付けておき、水位が上がって来れば下水の熱で発電する電気を使って無線で自動的に氾濫の可能性を知らせるという技術も開発されています。
 膨大な数のマンホールに電池を用意して、時々取り替えることは不可能ですが、エネルギーハーベスティングで可能になっています。
 テレビジョンのリモコンは電池で作動していますが、リモコンを押すときの振動で発電して電池不要にした装置も開発されています。
 携帯電話を頻繁に使っていると電池が減ってきて困ることがありますが、話し声というエネルギー源を使って発電すれば、話している限り通話ができるという携帯電話も夢ではありません。

 これまでの技術は集中することで効率を上げることを目指してきました。
 しかし、昨年9月に北海道で発生した北海道胆振東部地震では、苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所に発電能力を集中していたため、離島を除く北海道全域で停電になるブラックアウトが発生してしまいました。
 集中させることによって効率が上がることは確かですが、問題が発生すれば、一気に全体が破綻するという事態になります。
 これまでの集中型の技術の欠点を見直して、必要な場合は分散型に転換する戦略を検討することも必要な時代だと思います。





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