TOPページへ論文ページへ
論文

 昨年の日本の一人あたりGDPは世界187カ国中27位です。
 上を見れば切りがありませんが、世界全体では豊かな方だと思います。
 しかし、その豊かさの内容がここ数十年で大きく変わってきています。
 総理府が毎年「あなたは物の豊かさと心の豊かさのどちらを重視しますか」という調査をしていますが、1980年頃までは物の豊さを求める人が多数でした。ところが、その頃から逆転が始まり、最近では心派が65%、物派が30%と2倍以上の差になりました。
 かつて物の豊かさを求める時代には、カラーテレビ、クーラー、カーの3Cが憧れの的になったこともありました。  
 しかし、それらの物が行き渡ってしまうと、物を持つことの無駄に気付く人が増えてきました。
 一例として、価格250万円の自動車を購入し,毎月1万円の駐車場を借りて10年間使用すると、自動車の償却が年間25万円、駐車場の代金が12万円、それ以外に自動車税、車検代、保険料、修理費、ガソリン代などを合計すると、年間72万円で一ヶ月あたり6万円の費用になります。
 さらに事故などを起こせば、その始末に、お金だけではなく時間も浪費することになります。
 鉄道などのない地方都市では自動車なしでは生活できませんが、大都会では日常で必要な場合はタクシーを使うとすると、毎月6万円分は乗ることができますし、事故処理を心配することもありません。               

 同様にもう一つの新しいCのコテージ、別荘を構えると、これもお金がかかる割には1年に何度も使う訳でもないので、ホテルに泊まった方が、色々な場所に滞在でき、しかも割安という利点もあります。

 そのような背景から繁盛しているのがレンタルビジネスで、自動車や別荘は以前からありますし、最近では冷蔵庫、洗濯機、テレビジョン受像機などの家庭電化製品のレンタルとか、パーティに着ていくドレスやハンドバッグのレンタルなどに人気が出てきました。
 しかし、これらのレンタルビジネスは「B2C」、ビジネス・ツー・コンシューマーと呼ばれ、企業が消費者に物を貸すとか、人を貸すという仕組です。

 しかし、最近の情報社会の発展とともに、「P2P」、ピア・ツー・ピアというレンタルビジネスが登場してきました。
 ピアというのは対等の者という意味ですが、ネットワークに接続された多数の端末装置が対等の立場で通信をする仕組を表現しています。
 B2Cの場合は、レンタカー会社(B)が自動車を多数用意して、借りにきた人(C)に貸すのですが、P2Pの場合は、例えば、ある人(P)が2ヶ月ほど出張するので、その期間、誰か(P)に自分の自動車を貸したいとすると、インターネットの掲示板に情報を出し、それを見た人が借りたいと連絡する仕組です。
 上手く交渉が成立すれば、その掲示板を用意した会社が手数料を貸した人から貰うということになります。

 成功している例を紹介すると分かりやすいと思います。
 「Airbnb(エアビーアンドビー)」という空き部屋を斡旋するサービスが2008年から世界規模でビジネスを展開しています。
 しばらく留守をするので、その期間、自分の部屋を貸したいと思えば、エアビーアンドビーに情報を送って掲示板に掲示してもらいます。
 実際にアクセスしてみると、パリ、ニューヨーク、ロンドン、ベルリン、京都、大阪などの物件が出ています。
 分かりやすいので、京都で探してみると、京都市中京区の町屋の畳の部屋の写真があり、1泊5000円という値段、ベッドが2つあり、宿泊人数は2人などの基本情報以外に、ワイファイ、暖房、風呂もあるという情報が掲載されています。
 気に入れば、チェックインする日とチュエックアウトする日、利用人数を入力して予約をリクエストするという手順になります。   

 自動車については2009年から「Getaround(ゲータラウンド)」というサービスがあり、フェースブックを利用して会員登録をすると、身元を偽っていないかを調べるために、全米の運転免許のデータから申込者を特定し、運転履歴やフェースブックで使用しているクレジットカードの履歴など16項目を調べて、問題がなければ登録され、サイトに掲載されている自動車を見て利用を申込むことが出来るという仕組です。
 これ以外に自動車には「zipcar」(1999)、スクータを貸し借りする「Scoot」(2011)、サンフランシスコで自転車を貸し借りする「Bay Area Bike Share」、自分の駐車場が空いている時間だけ貸す「Carmanation」(2013)などがあります。
 自動車を持っている人が空いている時間に乗客を運ぶ、日本で言えば「白タク」に相当するサービスの仲介をする「Lyft」(2007)や「Uber」(2009)などもあります。

 このようなサービスは「シェアリング・エコノミー」、翻訳すれば「共有経済」ということになりますが、これまで人々は物を購入しても、それほど使う訳でもなく、その保管のために場所を占有し、大都会では駐車スペースも見つからないという問題の原因となってきましたし、物の維持のために無駄なお金を使ってきました。
 そこで無駄を有効に利用しようという発想です。

 30歳の日本女性の近藤麻理恵さんが書いた「人生がときめく片づけの魔法」という本が世界31カ国で出版され、アメリカだけでも67万部も売れ、今年の雑誌「タイム」の「世界でもっとも影響のある100人」に、ローマ法皇やプーチン大統領と並んで近藤さんが選ばれています。
 これは先進諸国では物が氾濫し、それが豊かだと思ってきたのですが、そうでもないということを多くの人が実感してきたことを反映しているのだと思います。
 その反動として登場してきたのがシェアリング・エコノミーだと理解すると、単なる節約を越えた、新しい経済活動が登場してきたと考えるべきだと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.