TOPページへ論文ページへ
論文

 先週末(5月15日)、アメリカの検索サービスの企業グーグルが今年の夏から自社で開発した自動運転車を本社のあるカリフォルニア州のマウンテンビューの一般道路で試験走行を開始すると発表しました。
 一般道路を走ることが制度として可能かと疑問をもたれる方も居られると思いますが、4年前の2011年6月からネバダ州では、運転席に運転免許を持った人間が坐り、助手席に技術者が坐れば試験走行していいという条例が成立し、カリフォルニア州とフロリダ州でも同様の制度になっているために可能なのです。
 実際、グーグルは2012年5月にネバダ州で許可を取って試験運転をしており、またこれから試験運転をする自動運転車は、すでにテストコースで160万km、地球を40周するほどの距離を走っており、現在でも1週間に1万6000km、鹿児島と青森の間の高速道路を4往復するほど走っているそうですから、技術には自信があると想像できます。

 私は50年近く前の大学院の学生時代に、大学の自動運転車の研究チームに参加していたこともあり、近々、自動運転になれば運転免許は要らないと思って免許を取りませんでしたので、何とか早く実現してほしいと思っています。
 自動運転車が実現した場合の効果は色々と試算されており、アメリカの交通に関する非営利団体の調査結果による現状は、自動車事故の9割は飲酒運転、経験不足、スピードの出し過ぎなど人間が原因なので、自動運転車の比率が90%になったと仮定すると、現在、年間3万5000人ほどの自動車事故の死者が6割以上減って1万3000人ほどになり、その結果、被害総額が50兆円ほど減るとなっています。

 最近では、高速道路の入口などで進入路を誤って逆走して入ってくる自動車が増えていますし、アクセルとブレーキを誤って踏んで建物に突入する事故も増えていますが、高齢者の運転の場合が多いようです。
 実際、東京都内での交通事故を分析すると、2004年を100として、2013年には50と半分に減っていますが、65歳以上の高齢者が運転して起こした事故はほぼ横這いですから、交通事故全体で高齢者の運転による事故が増えていることになります。
 そのため、警視庁だけではなく、各県警でも運転免許自主返納運動を奨めています。
 しかし、公共交通機関が近くにある場所では、それほど困らないにしても、地方都市では移動の自由が奪われてしまいます。

 また渋滞によって停止している時間の合計は日本国内で年間40億時間くらいになっていますが、仮に時間単価を3000円とすると、12兆円の労働時間が失われていることになります。
 自動運転車であれが、その時間に仕事をすることも出来ますから、損失が減ることにもなります。

 そのような意味で自動運転車は高齢社会にも意義がありますし、社会の生産性を上げることにも貢献します。
 グーグルは5年後には実用にすることを目標にしているようなので、社会的にも期待されますし、運転免許のない私も個人的には期待していますが、それほど簡単ではない問題があります。
 第一は当然ですが、十分に安全かという問題です。
 一昨年5月までにグーグルはネバダ州で合計80万kmの試験運転をしていますが、2回、事故が発生しているそうです。
 そら!危険ではないか!と思われるかも知れませんが、1回は人間が運転しているとき、1回は赤信号で停止したときに、後から来た人間が運転する自動車に追突されたときで、自動運転車が起こした事故ではないのです。
 それなら安心ということではなく、これが実現に向けての大問題で、すべての自動車が自動運転であれば相互に通信しながら安全を確保できますが、自動運転車専用道路を作る訳にはいかないので、遠い未来はともかく、当分は人間運転車と自動運転車が混在した道路を走ることになり、上手な自動運転車と下手な人間運転車が混乱を引き起こすことになりかねません。
 アメリカの自動車評価ウェブサイトの編集者が以下のように言っています。「人間運転車が間違って自動運転車に向かってきたとき、自動運転車は避けることが出来るが、それをすれば反対レーンのオートバイや歩道の歩行者をはねるかも知れない。それならば自動車どうしがぶつかった方が良い。したがって100%無事故は無理で、95%無事故というのが現実的な数字ではないか」と言っています。

 第二の問題は、事故が発生したときの責任の所在です。
 現在の交通事故は、ほとんどの場合、運転していた人間の責任ということで処理され、自動車の製造会社の製造物責任になることは例外です。
 しかし、自動運転車では人間は操縦に関与していませんから、事故が発生すれば、ほとんどが製造会社の責任になり、そのような製品を製造するためには新しい保険制度や補償制度が必要になります。
 さらに心配されるのがサイバー攻撃です。
 これは自動車の操縦を制御している電子制御装置への攻撃もあるし、衝突防止などに車間通信を使うようになると、その通信回線を攻撃されることもあります。
 パナソニックなどが2017年以後の実現を目指して研究を開始したという情報もありますが、完全に防ぐということは困難な状況です。

 色々と否定的なことを紹介してきましたが、蒸気機関車が登場したときも、沿線が火事になる、牧場のウシの乳が出なくなるなど反対がありましたし、列車事故も数多く発生しました。
 これらは人類が発明したほとんどの技術につきまとうことなので、問題を解決しながら社会に浸透させていく必要があると思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.