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論文

 先月末、韓国にサッカーの練習試合に行っていた埼玉県の私立高校のサッカー部員が帰国前の自由時間に、ソウルの繁華街「東大門(とんでむん)市場」のショッピングモールの土産物店で合計73点(68点説もあり)の商品を万引きしたことで問題になりました。
 4月早々、万引きした生徒23人と監督がソウルに謝罪に行き、盗品を返却するとともに被害金額26万円(為替レートで28万円説もあり)を弁償し示談になりました。
 万引きした品物はイタリアやフランスの高級ブランド品の小銭入れやベルト、キーケースなどですが、平均すると一点あたり3600円程度で意外に安いのです。
 その理由は『週刊新潮』4月23日号によると、すべてコピー商品であったからだということです。
 最近は外国から日本に持込まれるコピー商品の9割以上が中国製ですが、1980年代は8割が韓国製であった時代の名残かも知れません。

 このような偽物を作る歴史はニューヨークのメトロポリタン美術館の館長であったトマス・ ホーヴィングによると「贋作の歴史は人類のそれと同じくらい古い」そうです。
 一例として、19世紀に、古代ローマ帝国の遺跡から素焼きの鉢が発掘され、その表面に描かれた絵から、紀元前19世紀から18世紀にエジプトからイタリア半島に輸出された陶器だと大騒ぎになりました。
 しかし、詳しく調べたところ、紀元前6世紀頃まで地中海で貿易により繁栄していたフェニキアの商人が作った偽物と分かりました。
 ナポレオンのエジプト遠征の行なわれた18世紀末以後、ヨーロッパはエジプトブームになりますが、その時代からエジプトには古代の彫刻、絵画、パピルス文書などの骨董品を作る工房がいくつも登場し、ヨーロッパの人々の期待に応えて偽物を提供していました。
 私も35年ほど前にエジプトに1ヶ月くらい滞在していたときには、贋作工房が集中しているカルナ村を見学に行きましたが、暗い部屋の中でカイロの土産物店に並んでいるような彫刻などが作られていました。

 しかし、フェニキア人やエジプト人を嗤うことは失礼で、江戸末期から明治時代にヨーロッパでジャポニスム(日本趣味)が流行したときには、欧米人の期待に応えるために、日本でも多数の贋作が作られています。
 美術界の権威と言ってもいい大英博物館にも、その時期に入手した江戸後期の絵師・森祖仙のサルの肉筆画の偽物が保存されているほどですし、テレビ東京の人気番組「開運!なんでも鑑定団」には、毎回のように意図して作られた偽物が登場しています。
 まさに「浜の真砂は尽きるとも、世に偽物の種は尽きまじ」です。

 その現代版が日本の高校生が万引きしたようなブランド製品の偽物です。
 例えば、ロレックスの時計「デイトナ・ホワイト」の本物を日本で買うと145万円ほどしますが、インターネットで調べると、8000円とか、1万2800円とか、4万2800円などの偽物が堂々と売られています。
 これらはA級、S級、N級などに分類され、安物のA級は外側も内部の部品も中国や韓国で作られていますが、高級品のN級になると部品はスイスから輸入した本物を使って組立て、動作も本物とまったく同じだそうです。
 ルイヴィトンのバッグなども同様で、A級の皮素材は中国製や韓国製で染色の染料も低級なものですが、N級になるとルイヴィトンの本物の皮素材や布を輸入して、染めも変色しにくい加工がしてあるという差があります。

 そこで、偽物であっても買う人が承知して買っていれば良いのではないかという見方も出てきます。
 実際、内閣府の調査によると、「正規品より安いから購入も仕方がない」が23%、「公然と売っているので購入も仕方がない」が17%にもなっています。
 しかし、これが犯罪とされるのにはいくつかの理由があります。
 第一は、そのような不正な利益が地下組織などの資金源になること。
 第二は、メーカーがオリジナルの製品を開発するためには膨大な時間と費用をかけていますので、それを著作権などで保護していますが、コピー商品はそれを無視して、デザインや製法を盗んで製造しますから安価になり、本物のメーカーの開発意欲を阻害するという問題です。
 大量生産の工業社会では、大量に生産して安価にすることが競争力の源泉でしたが、情報社会になった現在ではデザインとか商標が大きな価値を占めるようになり、知的財産権(IPR:インテレクチャル・プロパティ・ライト)が重要な時代になってきました。
 それを守ることが社会では重要な時代になってきたということです。
 第三は、このようなコピー商品が氾濫することによって、本物の販売機会逸失が発生する、つまり売れるはずの本物が売れなくなるという損失が発生することです。

 今回、埼玉の高等学校の生徒は成田空港を通関するとき発見されず、コピー商品を押収されませんでしたが、税関で見つかれば押収されますし、悪質な場合は「10年以下の懲役」か「1000万円以下の罰金」という犯罪になります。
 日本に持込まれる知的財産権を侵害する商品は年々増加しており、昨年1年間だけで、日本の税関がコピー商品として押収した商品は3万2060件で、商品数は90万近くになり、金額で180億円でした。
 もしこれらが輸入されて販売されれば、本物を作っている会社は売れるはずの180億円を損してしまうことになります。
 これが世界全体では80兆円にもなり、世界のモノの貿易量の10%にもなると推定されています。
 このような背景がありますから、安いから自分が偽物と納得して買えば問題ないという訳ではないし、お土産にしようと気楽に買うことは問題なのです。





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