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論文

 2月に肥満は問題であるという話を紹介させていただきましたが、今日は痩せ過ぎも問題であるという話を紹介させていただきます。
 4月初めにフランスの下院議会で、モデル事務所が痩せ過ぎのモデルを雇うことを禁止する法案が可決されました。
 これは体重を身長の2乗で割った体格指数(BMI)が18未満のモデル、すなわち痩せ過ぎのモデルをモデル事務所が雇うと、事務所が約980万円の罰金を支払うか事務所の責任者が6ヶ月以下の禁固刑になるという内容です。
 一例として身長165cmのモデルの場合は体重が49kg以上ないと違反となります。
 参考までに、日本では適正とされているBMIは18・5〜25ですから、身長165cmであれば、50〜68kgとなります。

 この意外な法案が登場したのは、フランスではモデルに憧れて拒食症になり、苦しんでいる若者が3万人から4万人もいるという背景があります。
 当然、全仏モデル事務所組合は「拒食症と痩せ過ぎのモデルとは関係がない」と強く反対していますが、すでにスペインやイタリアでは規制があり、ファッション王国フランスで成立すると、さらに広く世界各国に波及する可能性もあります。

 かつてのモデルはガリガリで、1960年代に一世を風靡したイギリスのモデル、ツイギーの当時の身長は165cm、体重は41kgでしたから、BMIは15で、現在では病気と診断されるほどでした。
 その流れが続いていたのですが、今回のフランスで法案が可決された背景には、ブラジル出身のアナ・カロリナ・レストンというアルマーニやベルサーチの広告に登場していたモデルが2006年に21歳で拒食症のため亡くなったという事件があります。
 彼女は身長174cmで体重が40kgでしたから、BMIは13になり、ツイギー以下でした。
 写真を見ると、手足は骸骨のようで、胴体はあばら骨が見えるほどです。

 この事件の影響で、スペインとイタリアはBMIが18未満のモデルのファッションショーへの出場を公式に禁止し、アメリカ、イギリス、フランスも規制はしなかったものの、業界に考慮することを要請しました。
 そこでファッション業界も対応を始め、2010年にルイ・ヴィトンやプラダが広告に起用するモデルを「ふっくら回帰」させました。
 さらに2012年には世界の19カ国でファッション雑誌を発行している『ヴォーグ』が、女性モデルの理想の体型をより健康的なものに変更するという内容の「ザ・ヘルス・イニシアティブ」、意訳すれば「健康第一宣言」を発表し、16歳未満のモデルや摂食障害のありそうに見えるモデルを採用しないという方針に転換し、その流れのなかで今回のフランスの法案の成立になったのです。

 失礼ながら、若い女性はファッション雑誌に影響されやすく、日本の20歳から29歳の女性のBMIは2000年の21・5から2010年には20・4に下がっていました。
 これは身長165cmの場合、58・5kgから55・5kgと3kgも減ったことになります。
 対象が違うので正確な比較ではありませんが、主婦の友が発行している『mina(ミーナ)』という雑誌の読者1万人を対象にしてBMIを調査した結果、2007年には19・42でしたが、2013年には20・14に増え、ふっくら方向に推移していることが分かります。
 同時に身長も調査されていますので、体重を計算すると、48・9kgから50・6kgと1・7kg増えたことになり、雑誌が影響していることが窺えます。

 もう一つ、体格について最近、話題になったのが、サッカー日本代表チームのヴァリル・ハリルホジッチ監督が4月14日の会見で、サッカー選手の適正な体脂肪率は11%であるとして、ガンバ大阪の宇佐見貴史(たかし)選手の14・1%という数字を示し、これでは自分の目指すサッカーに対応できないから、改善できなければ代表を外すと説明したことです。
 その際に監督が手にしていた日本代表選手29名の数値を記者が撮影して公表してしまったことで騒ぎになりました。
 最小が本田圭佑(けいすけ)選手の6・6%、以下、大迫勇也(ゆうや)選手の7・2%など11人が11%以下でしたが、多い方は興梠慎三(こうろきしんぞう)選手の16・4%、太田宏介(こうすけ)選手の15・2%など18人でした。
 勝手に公開されたことに不満を表明する選手もいて、監督が「とにかく選手には"ごめんなさい"と心の底から謝りたい」と謝罪する騒ぎになりました。
 公表された選手の不満の理由は、体脂肪率を測定したのが3月の代表合宿のときで、まだ十分に準備していない時期のものであることと、体脂肪率は測定方法によって数値がかなり違うのですが、今回の数値は、家庭にも普及している簡易な装置と同じ仕組の「生体電気インピーダンス法」で測定され、正確ではない場合があるということです。
 例えば2番目に数字が大きいと発表されてしまった太田選手は、皮下脂肪厚計で測り直したところ9・4%であったと不満を表明していました。

 しかし、一般の人の適正な体脂肪率は男性の30歳未満で14〜20%、30歳以上で17〜23%、女性では同様に17〜24%と20〜27%ですから、スポーツ選手は確かに絞っていることが分かります。
 前半にご説明した女性のモデルの体脂肪率は14%ですが、世界のトップモデルは7〜8%なので、サッカー選手並ということができます。

 参考までに、スポーツ種目ごとの理想の体脂肪率は男子の場合、ボクシングは3%、体操やレスリングは4%、マラソンは5%、バスケットボールは7%、サッカーは10%、重量挙げは17%などの数字があります。
 したがって、ハリルホジッチ監督の11%以下にするようにという指令は妥当な内容です。
 スポーツ選手はともかく、一般の人にとってBMIや体脂肪率は適正な範囲を越えると生活習慣病になる可能性が大きくなりますので、参考にしていただいたらと思います。





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