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論文

 桜の季節も終わり、「目に若葉」、グリーンの季節に移りました。
 グリーンは、もちろん緑色という意味ですが、環境を示す言葉としてよく使われます。
 グリーン電力は太陽発電や風力発電など再生可能エネルギーで発電した電力、グリーン経営は環境に配慮した経営、グリーン購入は値段ではなく、環境への負荷が小さいモノやサービスを優先して購入すること、という具合です。
 そのような中で最近注目されているのが、グリーンビルです。
 これは緑色に塗られている建物でもないし、外壁をツタなどが覆っている建物ではなく、環境への負荷が一定の基準以下の建物のことです。

 住宅やオフィスビルなどの建物について、グリーン、すなわち環境への負荷を問題にするのは、エネルギーの消費構造が大きく変化してきたことを反映しています。
 エネルギー消費は、産業、家庭、オフィスなどでの業務、運輸の4分野に分けて集計されていますが、第一次オイルショックが発生した約40年前の1973年には、産業が66%、家庭が9%、業務が9%、運輸が16%の割合でした。
 ところがオイルショックで石油が高騰したため、産業界はエネルギー節約を必死で進め、さらに工場が海外に移転しはじめたこともあり、最近では全体の43%と大きく減り、家庭が9%から14%、業務が9%から21%、運輸が16%から22%と増加し、様変わりしました。

 そこで地球温暖化に影響する二酸化炭素を減らすためには、過去40年間のエネルギー消費が2・8倍にも増えた業務分野で消費を減らすということが重要な目標になってきました。
 そのために業務で使用するオフィスビルなどの建物のエネルギー消費を減らすために、建物のエネルギー効率を測定して格付をしようという動きが登場し、その評価で一定水準以上の建物をグリーンビルと呼ぶようになったわけです。
 グリーンビルはアメリカの定義が分かりやすいと思いますが、「場所の選定から設計、建設、運用、解体までの建物の一生を通じて環境への影響を配慮して運用する建物」となります。

 早くから始めているのがイギリスで、1990年に「BREEAM」という建物の環境性能を5段階で総合評価する制度を作り、アメリカでも1998年から「LEED」という4段階の評価をする制度を作り、日本でも2002年から「CASBEE」という5段階の評価制度を実施しています。
 世界では、これら以外に、10カ国以上が制度を設けています。
 しかし、このような制度に合格することは新築の大型オフィスビルなどでは可能ですが、既存の中小ビルでは困難です。
 日本を例にすると、既存のオフィスビルが全体の98%にもなりますから、全体をグリーンビルにするためには、もう少し簡単な制度が必要だということになります。
 そこで二酸化炭素の排出を中心に評価する制度が用意され、イギリスでは「EPC」、アメリカでは「エネルギー・スター」、オーストラリアでは「NABERS」が作られ、日本でも昨年から「BELS」という制度が作られています。

 このような基準を満たす建物を建設することは余分の費用がかかるし、申請して審査を受けるためには書類を用意して審査費用も支払う必要があり、得することがあるかと思われるかも知れませんが、見返りがある仕組が用意されています。
 例えば、イギリスでは「EPC」によって8段階の評価をしますが、下から2段階のオフィスビルは2018年から賃貸禁止になるとしたので、改造せざるをえません。
 オーストラリアでは最高で星6つの「NABERS」の評価で、星が4・5個以上の建物でなければ公的機関は入居できないとし、さらに入居者を募集する広告に星の数を表記することを義務にしています。
 市場でも、1981年の新しい耐震基準で建設された建物に人気があるように、グリーンビルは賃料が高くても人気があり、空室率が低くなるという結果が報告されていますし、最近ではグリーンビルに入居することがステータスになっています。
 不動産業にとっても初期投資は余分にかかりますが、結果として回収期間は短くなる傾向にあります。
 それを加速しているのが、2006年に国際連合が提唱した責任投資原則(PRI)で、投資家は投資対象を選定するときに社会的責任を果たすべきであるという内容です。
 これを不動産に適用したのが責任不動産投資(RPI)で、環境に関してはESG投資という概念が作られています。
 Eはエンバイロメント(環境)、Sはソーシャル(社会)、Gはガバナンス(統治)で、投資家は利益だけを追求して投資対象を選ぶのではなく、環境問題や社会問題を解決する視点で投資対象を選ぶべきだという考えで、グリーンビルもその対象として明示されています。

 CSR(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ)、企業の社会的責任という概念が広がり、企業は利益を追求するだけではなく、社会に役立つ活動をするということが国際的潮流になっています。
 しかし、最近ではCを外してSRとする方向に変わっています。それはCをコーポレート(会社)だけではなく、シティズン(市民)、コンシューマー(消費者)、コミュニティ(地域社会)などのCとして広く捉えようという考えです。
 2週間前に地球の温暖化は深刻な事態になっているということを御紹介しましたが、この解決には役所や企業だけが努力しても十分ではなく、だれもが協力する必要があるという時代になってきました。
 われわれは集合住宅を選ぶときも、自宅を建設するときも、グリーンビルの視点で判断することが重要になってきた時代だと思います。





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