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論文

 今年の東京のサクラは開花が3月23日、満開は3月29日でしたから、関東地方では先週の週末は花見の宴が賑やかでした。
 最近は気温が上昇傾向にあるので開花が3月中ですが、かつて花見は4月の中旬以降が普通でした。
 歴史に名を残す有名な花見の宴は豊臣秀吉が京都の醍醐寺三宝院の裏山で慶長3(1598)年3月15日に、女性客のみ1300人を招いて開催した「醍醐の花見」です。
 余談ですが、招かれた女性には一人に3着の新調した着物が与えられ、その費用だけでも40億円近くの費用がかかったと推定されている豪勢な花見でした。
 この3月15日は旧暦ですから、現在の新暦に換算すると4月20日に相当し、現在より3週間近く開花が遅かったことが分かります。

 実際、京都地方気象台が開花日と満開日の変化を発表していますが、1970年代は平均すると開花日が4月2日、満開日が4月9日くらいでしたが、21世紀に入ってからの10年間の平均は開花日が3月26日で7日早まり、満開日は4月3日で6日早まっています。わずか40年間の変化です。
 このような変化はカエデの紅葉にも発生しています。
 やはり京都地方気象台の資料ですが、1970年代は平均して11月25日でしたが、21世紀の10年間では12月3日と8日間も遅くなっています。

 影響は人間の生活にも及んでいます。
 昨年8月、東京の代々木公園でデング熱に感染したという女性が現れました。これまでも海外で感染して帰国した人は徐々に増え、2000年には18人でしたが、2013年には249人になり、国内で感染したのは戦後初で70年ぶりのことです。
 これは媒介するヒトスジシマカが温暖化のために次第に北上してきたことと関係があり、1950年には富山といわきを結ぶ北緯37度あたりまででしたが、2010年には秋田と宮古を結ぶ北緯40度近くまで分布するようになり、60年間で300kmも北上してきたことが影響しています。
 近年、マダニに咬まれる患者も増えており、2000年には38人でしたが、昨年は211人と5.6倍も増えました。
 これもマダニの繁殖する範囲が宮城県あたりまで北上してきたことと関係があります。
 同様に熱中症も2000年の207人から2013年には1077人と5.2倍に増えています。

 これら以外の生物の生態にも影響はあり、各地でシカやイノシシが増えているのも温暖になったために繁殖する範囲が増え、冬にも死ななくなったためと考えられています。
 ニホンジカの推定頭数は2000年には80万頭程度でしたが、2011年には260万頭と、わずか10年で3倍以上に、イノシシは50万頭から110万頭と2倍以上に増えています。
 その結果、農作物の被害が増大しており、シカによる被害が2000年の48億円から2012年には82億円に、イノシシによる被害が47億円から62億円に増えています。

 変化は陸上だけではなく海中にも発生しており、香川県の瀬戸内海はシャコの産地ですが、最盛期の1980年代には年間1000トン以上の漁獲量がありましたが、最近では5分の1以下になっています。
 同様に江戸前寿司のネタの代表である東京湾のシャコも1989年には1000トン以上の収穫でしたが、2005年には57トンと20分の1近くに減っています。
 完全な因果関係は分かりませんが、どちらも水温の上昇ではないかと考えられています。
 1970年から2010年の40年間で日本の平均気温は1.4度上昇していますが、それだけでも、このような影響を及ぼしています。
 しかし、現状のままの傾向で二酸化炭素の排出量が増えていくと、2060年には現在よりも3度は気温が上がるという予測もあり、さらに異常なことが発生する可能性もあります。
 リンゴの栽培適地は年平均気温が7度から13度の範囲で、四国や中国地方の山間から東北地方全域、さらに北海道の渡島半島までですが、2060年には東北地方の山間と北海道のみになります。
 一方、ミカンは年平均気温が15度から18度の範囲が適地で、現在は九州、四国、紀伊半島、東海の太平洋岸が中心ですが、2060年には現在の適地が高温になりすぎて適地ではなくなる一方、九州から関東一帯の標高の高い場所、日本海側の新潟までの海岸に拡大していきます。

 動物の場合は自分で移動できますから、草食動物は10年間で90kmは北上できますし、それを追いかけていく肉食動物も60kmは移動できます。
 ところが植物は種を飛ばして、たまたま適地に到達した種が繁殖して移動しますから、10年で2〜3kmしか移動できません。
 そこで果樹などの栽培植物は人間が移動させないと気温の変化に対応できません。
 実際にサクランボの日本最大の産地である山形県では苗を北海道に移す作業も始まっています。

 この気温上昇は大変な問題で、現在のまま手を打たなければ21世紀末には4・5度から6・5度も上昇すると予測されています。
 4・5度上昇するというのは東京が800km南の奄美大島と同じ気温になるということですから、何とかしなければいけないのですが、仮に2度に押さえようとすると、二酸化炭素排出量を現在の半分にし、2100年にはゼロにする必要があると試算されています。
 ゆでがえる状態で少しずつ変化していく状態は気付きにくいのですが、改めて大変な事態だということを考える必要があります。





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