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論文

 およそ3週間前には「義理チョコに 両手合わせる 年となり」のバレンタインデーでしたが、来週には「義理チョコは 痛し痒しの 高金利」のホワイトデーが迫ってきました。
 このバレンタインデーは3世紀にローマ帝国に存在したとされるキリスト教徒の聖職者バレンタインが西暦269年に殉教したとされる2月14日を偲ぶ日です。
 ただし、バレンタインが実在したかどうかは不確かで、現在、カソリック教会ではバレンタインを聖人とはせず、バレンタインデーも正式の祭日とはしていません。

 古代ローマ帝国では西暦313年に皇帝コンスタンティヌス一世と皇帝リキニウスがキリスト教を含め、すべての宗教について信教の自由を認めた「ミラノ勅令」を発布するまで、殉教したバレンタインに祈りを捧げるという口実で信者がキリスト教を信仰していたのがバレンタインデーです。
 したがって元来は男女の恋愛などに関係はなかったのですが、15世紀に『カンタベリー物語』を書いたイングランドの作家ジェフリー・チョーサーが「バレンタインデーの季節になると鳥が恋人をつくる」という詩を発表したため、恋愛に関係する聖人となってきたというのが背景です。

 そして、良く知られているように、2月14日に義理チョコを渡すというのは1958年にメリーチョコレートという会社が創り出した日本だけの習慣です。
 その年には伊勢丹新宿本店でバレンタインセールが開かれましたが、3日間で50円のチョコレートが3枚売れただけだったそうです。
 しかし、最近では1年のチョコレートの売上の13%程度に相当する500億円近くが売れるそうです。

 そこでチョコレート以外の菓子業界もあやかろうと、1973年に「不二家」とマシュマロなどを作っている「エイワ」という会社が「メルシーバレンタイン」を始め、5年後には老舗の菓子製造業の「石村萬盛堂」が「マシュマロデー」を開始し、さらに1980年に全国飴菓子工業協同組合が「ホワイトデー」を始めた2匹目のドジョウ物語です。
 しかし「何故なんだ 義理のお返し 倍返し」というように、経済効果は最近ではホワイトデーの方が大きいそうです。

 日本は多神教の国ですから異国の宗教行事に寛容というより、商売に利用する文化が根付いており、クリスマスが有名ですが、新たに10月31日のハロウィンまで日本の行事になりはじめました。
 1983年に東京原宿にあるキディランド原宿店が関連商品の販売促進のためにハロウィンパレードを開始したことが最初のようですが、1997年からはJR川崎駅前で「カワサキ・ハロウィンパレード」を開始し、同じ年に東京ディズニーランドでも「ディズニー・ハッピーハロウィーン」を開始し、現在では9月初旬から大きな行事になっています。 
 これはもともとアイルランドの先住民族ケルトの文化に由来する行事です。
 ケルト民族は10月31日を1年の終わりとしており、この日は日本のお盆と同じように、夜になると死者の霊が家族を訪ねてくると信じていました。
 しかし同時に有害な悪霊や魔女も出てくるので、身を守るために仮面を被ったり火を焚いたりしていた風習です。
 多数のアイルランド人がアメリカに移民したことにより、この風習がアメリカでも行事となり、1950年代には子供がシーツや古着で仮装していたのが次第に親も手伝うようになり、やがて商業主義に乗っ取られ、アメリカではクリスマスに次ぐ経済規模に発展したという経緯があります。

 このような先住民族との関係で忘れてはならないのはアメリカとカナダで国の祝日となっている11月の第4木曜日(カナダでは第2月曜日)の「サンクスギビングデー(感謝祭)」です。
 信仰の自由を求めて、1620年にイギリスからアメリカに帆船「メイフラワー号」で渡ったピルグリム・ファーザーズと呼ばれる102人が現在のマサチュセッツ州プリマス付近に到着しますが、寒さと飢えで一冬に半数近くが死ぬという事態に直面します。
 それを救ったのが先住民族ワンパノアグ族で、食糧や物資を与え、土地も貸します。
 そのおかげで翌年には穀物が収穫でき、助けてくれたワンパノアグ族を招いて感謝する宴会を3日間にわたって開いた日が感謝祭の始まりです。

 しかし、 やがて移民と先住民族の間で土地や食糧を巡る争いが発生し、1675年から翌年まで多数の犠牲者が発生する戦闘となります。
 このような経緯があるので、ワンパノアグ族を中心とするアメリカインディアンは感謝祭の日を「大量虐殺始まりの日」とし、感謝祭の日は1970年から「全米哀悼の日(ナショナルデイ・オブ・モウルニング)」として喪服を着て抗議デモを行っています。
 アメリカ政府も憂慮して翌日を「アメリカインディアン遺産記念日」として、伝統文化や言語などの遺産を再認識するための行事を行うようになっています。

 日本は明治時代の文明開化運動以来、欧米を中心とする文化を導入することには熱心ですが、それらが商業目的で歪んだ形になっていることもともかく、逆に日本の伝統文化を理解する必要もあります。
 例えば、ハロウィンに相当する「盆」は606年から行われていますし、感謝祭に相当する行事は、現在では「勤労感謝の日」となっていますが、642年から「新嘗祭(にいなめさい)」として宮中行事として維持されています。
 日本はユネスコの無形文化遺産への登録は22あり、世界で2番目に多い国ですが、「秋田田植踊り」「祇園祭の山鉾行事」など半分が伝統行事です。
 ホワイトデーのお返し頭を悩ますと同時に、それらにも想いを致してほしいと思います。





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