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論文

 今日は略語について考えてみたいと思います。
 新聞を広げたら大きな「エデュチャ」という文字が書かれており、新しいお茶の宣伝かと思いましたが、そこに掲載されている企業の名前がお茶に関係のないものばかりなので、よくよく眺めてみたら、「エデュケーション・チャレンジ」の略語だとわかりました。
 明確な統計はありませんが、英語など外国の言葉を使う場合、略語にして社会に浸透させる傾向にあるようです。
 例えば、サブスクリプションは「サブスク」と省略するようですが、サブスクリプションさえ理解が難しいのに、いきなりサブスクと言われると、まったく理解できません。
 参考までに、サブスクリプションはモノを購入するのではなく、一定の料金を支払って自由に商品を利用する形式の商売を意味します。
 「コンビニ」「パソコン」などは社会に定着しており、逆に「コンビニエンスストア」「パーソナルコンピュータ」などと言うと時代に遅れているような印象ですし、若者はミスタードーナッツを「ミスド」、マクドナルドを「マクド」などと省略すると、格好いいと思っているのかもしれません。

 やや古いのですが、国立国語研究所が2003年に行った「外来語に関する意識調査」によると、「外来語や略語がわからず困ったこと」という項目では、「しばしば困ったことがある」という人の比率は男女とも10代から40代までは10%台ですが、50代では男女とも23%、60歳以上は男性で36%、女性は38%になっています。
 また「自身が外来語や略語を使う方だと思うか」という項目では、「使う方だと思う」比率は10代の男性で36%、以下、年代ごとに減っていき、50代で15%、60歳以上では8%になり、女性では10代で43%、50代では8%、60歳以上で5%に減っていきます。
 もう一つ「分からない外来語や略語が使われていたときに取り残されたような気分になるかどうか」という設問については、男性の10代は15%と最小で、50代では27%、女性も10代では19%、50代では35%と、高年齢ほど時代に対応しようという気持ちが強いようです。

 この略語は当然ですが、今に始まったものではなく、古代からあります。
 古代ローマでは「SPQR」という略語が頻繁に使われていました。
 これは「セナートゥス・ポプルスクェ・ロマーヌス」の、それぞれ単語の頭文字を取ったもので、「ローマの元老院と市民」という意味です。
 現在で言えば「レディース・アンド・ジェントルメン」と同じように、演説の最初に使われていたそうです。
 しかし、ローマ市内では現在も使われており、マンホールの蓋には「SPQR」と刻まれています。
 ラテン語の略語は現代の英語で多数使われており、多くの方がご存知の「etc(エトセトラ)」はラテン語で「その他」という意味ですし、最近、テレビジョン番組でよく使われる「長州力(ちょうしゅうりき)VS(ヴァーサス)大仁田厚(おおにたあつし)」という時のヴァーサスも古代から使われているラテン語です。
 「AM/PM」は「ファミマ」に吸収合併された「コンビニ」が元祖ではなく、ラテン語の「アンテ・メリディアム(午前)、ポスト・メリディアム(午後)」の略語が世界に普及したものです。
 現代の英語でも略語は使われており、「ASAP」はアズ・スーン・アズ・ポッシブル(できるだけ早く)の意味、「IMO」はイン・マイ・オピニオン(私の意見では)の意味で使われます。

 日本語にも以外に気付かない略語があります。
 出会いの挨拶は「こんにちは」ですが、元々は「こんにちは良いお日柄です」の前半だけが残ったものですし、別れの挨拶の「さようなら」も元々は「さようならば、これにて失礼いたします」という挨拶の前半だけが残ったものです。
 関西では買物などすると、商店の人に「おおきに」と言われますが、この言葉自体は「ありがとう」という意味ではなく、「おおきにありがとう」の前半だけが残ったものです。

 かつては言葉を簡略にすることが重要だった時期がありました。
 40年以上前、外国と通信する場合、国際電話は非常に高価であったためテレックスを良く使いました。
 これも1文字あたり何円という時代でしたから、あらかじめ略語を決めておいて、文字数を減らす工夫をしていました。その時代にはASAPやIMOは必然性がありました。

 しかし、インターネットの時代になり、スカイプを使えば音声通信も制限なし、文字情報も電子メールで字数に制限なしで使えるようになりました。
 最早、通信料金を心配して略語を使う必要はない時代ですが、日常会話で略語が使われる頻度は急速に増大しています。
 まず考えられる理由は時代の進行が加速しているため、何事も簡単に伝えようということですが、もう一つは外部の人に聞かれると具合が悪いことを略語で伝えると同時に仲間意識を確認することです。
 例えばタクシー業界で「工事中」は交通取締りの意味ですし、「水溜り」は速度違反取締のことだそうですが、お客さんを乗せている時には、このような略語で情報交換することになります。

 多数の人々が情報交換する社会では略語は確実に増加していきますが、国際社会が発展していく中では外部の視点からも略語を検討する必要があります。
 東京の新宿駅の南口に2016年にバスターミナルが完成しましたが、その建物の正面に「バスタ新宿」という大きな文字が掲げられています。
 もちろんバスターミナルの略語ですが、スペイン語で「バスタ」は「うんざり」という意味なので、議論になったことがあります。
 ゲーム分野の大企業「SEGA」はイタリア語でノコギリという意味ですが、隠語として自慰という意味にも使われるので、大きな看板があると、イタリア人は苦笑することになります。
 マクドナルドを「マクド」と略するのは大丈夫ですが、「MAC」とアルファベッットで表現すると、「女衒(ぜげん)」女性を騙して売春させるという意味になるので、これも注意です。 
 来年は上手くいけば年間4000万人の人々が日本を訪問する時代ですから、改めて言葉を広い視点から見直すことが必要だと思います。





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