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論文

 現在のトルコの領土であるアナトリア半島に紀元前17世紀頃から一帯を支配するヒッタイト帝国が出現しますが、その力の源泉は鉄を生産できる当時唯一の民族だったことでした。
 日本では紀元前3世紀頃から弥生時代が始まったとされていますが、これは青銅を生産できる技術をもった渡来人が日本全体に勢力を拡大していった結果とされています。
 新しい優れた素材を手にした集団が強い力をもつという歴史が繰返し登場しますが、現在も同じようなことが発生しています。

 そこで注目される新素材を紹介したいと思います。
 カーボンファイバーは1961年に日本人が製法の特許を取得していますから新素材とはいえませんが、バッテリー問題で躓いたとはいえ最新の旅客機ボーイング787はカーボンファイバーで主翼や胴体を作っています。
 また2020年に登場予定のボーイング777Xも機体はカーボンファイバー製です。
 これは鉄の4分の1の軽さで強度は10倍という画期的な材料ですが、いずれも日本のメーカーが素材を提供します。
 多くの国の企業が商業利用の分野が見つからないと撤退していったのですが、日本企業は釣竿、ゴルフクラブのシャフト、テニスのラケットなどで細々と利用しながら開発を続け、ついに東レ、東邦テナックス、三菱レイヨンの3社が世界の6割を生産する大国になっています。   

 しかし、最近ではさらに驚くような性質をもった素材が開発されています。
 期待の材料が「エクスパイバー」です。これはクモの糸を人工的に実現した技術で、強度はカーボンファイバーと同程度ですが、それよりも5割も軽く、300度の熱にも耐える素材で、しかもカーボンファイバーが伸長性のないのに対してナイロン以上に伸びるという特徴もあります。
 エクスパイバーを撚って直径1cmの縄にすれば、大型旅客機を吊り下げることが出来るというほどの強度があります。
 さらに材料が炭素繊維のように石油ではなく人工蛋白質で再資源化が可能であり、応用分野も人工血管、医療用縫合糸から耐熱性衣料、防弾チョッキなど広範な利用が期待されています。

 2012年に独立行政法人産業技術総合研究所が開発した物質は、粉末の状態の物質に紫外線を当てると液体になり、その液体に可視光を当てると固体になり、もう一度紫外線を当てると液体に戻るという不思議な性質を持っています。
 しかも1回限りではなく、紫外線と可視光を交互に照射するたびに液体と固体の状態を繰返すのです。
 この素材を使えば、当てる光を変えるだけでくっついたり離れたりする接着剤になりますから、可視光を当てて機械を組立てて、不要になれば紫外線を照射して簡単に解体することが可能になります。

 形状記憶合金はすでに1960年代に開発された材料で、ある温度以下で加工して形を変えても、その温度以上に温めると最初の形に戻るという性質をもった金属です。
 身近な応用ではブラジャーのカップに組込まれた針金を形状記憶合金で作ると、体温で暖まっている間は形が保たれるという例が有名ですが、自動車の外板にしておけばぶつかって凹んだ場合は熱を加えれば元に戻るという応用例も考えられます。

 ところが最近利用されているのは金属ではなく形状記憶樹脂です。
 例えばこの樹脂で作った繊維をスポーツウェアに使用すると、身体が暖まっていないときには繊維が膨らんで気密性を高めて体温を保ち、運動をして暑くなってくると繊維が縮んで通気性が良くなるという優れた衣料になります。
 また様々な道具を形状記憶樹脂で作り、手を温めて握ると取っ手が自分にピッタリ合った状態になり、冷やせばその形が保存され、自分だけの道具を作ることも可能になります。

 形が変化するエネルギーを熱ではなく光で可能にする素材も実現しています。
 応用の一例として血管を拡張するステントに使用する研究が進んでいます。
 形状記憶樹脂の細い糸を加工してコイル状の形になるように記憶させておきます。
 挿入するときは直線の糸のまま挿入し、所定の位置に到達したら紫外線を当てると、コイル状に変形して血管を膨らませるようになるという仕組です。
 この樹脂は抗血栓性、すなわち血管の内部に置いておいても血栓が出来にくいので、形状記憶合金のステントよりも優れているとされています。

 自動修復技術も注目されています。
 人間の皮膚は傷付いても時間とともに元の状態に戻る能力があります。
 この能力を真似した塗料を封入した極微のナノカプセルを混ぜて自動車を塗装しておきます。
 その塗装に傷がつくと、ナノカプセルが割れて傷のついた部分を埋めて30分もすると元通りになるというわけです。
 すでに一部の高級車には使用されていますし、アイフォンの筐体にも使用されている機種があります。
 さらに撥水性の高い水を弾く材料をナノカプセルに混ぜておくと、雨が降ったときに汚れが流れ落ちるので、太陽電池の表面や自動車や飛行機の表面を洗浄する必要がないということにもなります。

 今日、御紹介したのは最近開発されたり、実用になりはじめた材料のほんの一部です。
 最近、日本の家庭電化製品や電子機器は韓国、台湾、中国などに押されて元気がないようですが、それらの工業製品の部品や、さらに元となる素材は日本から輸出したものを使っています。
 中国で生産された鋼板に日本製の偽ラベルを貼って販売していることが問題になっていますが、それは日本製が優れていることの証明です。
 日本の電子部品の大手7社の今年度第3四半期までの業績が増収増益であったのも、高度な部品は日本が独占している結果です。
 歴史を振返れば、画期的な素材を押さえた国が発展していますので、日本の製造業は安泰だと思います。





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