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論文

 先週末は栃木県の鹿沼市に行ってきました。
 場所は宇都宮の西隣で、日光の手前にありますが、日光への脇街道である「日光西街道」と「日光例幣使街道」が南北に通っており、街道町として栄えてきた町です。
 日光東照宮の造営のときには、大工や木工職人が住みついたので、現在でも木工品や建具の製造が盛んな町で、壮麗な彫刻で飾り立てた秋祭り用の屋台が、江戸時代に作られた13台を含めて27台もあることでも有名です。
 さらにゴルフファンには、1990年から現在でも続いているゴルフ漫画「風の大地」の原作者で、主人公の沖田圭介のモデルでもある坂田信弘さんが所属プロであった鹿沼カントリー倶楽部のある場所としても知られています。

 しかし、今回訪れて驚いたのは、鹿沼市内に「まちの駅」という施設が94カ所もあり、日本一の数だということでした。
 「まちの駅」についてご説明する前に、駅の変遷について簡単に振返ってみたいと思います。
 世界各地で広大な版図を統一した国家が実現すると、領土の隅々にまで情報を伝達し、軍隊を移動させるために道路が整備され、所々に中継基地が作られます。
 これが「駅」で、日本では645年の大化の改新によって律令国家が実現すると街道が整備され、ほぼ16kmごと、全国に400近くの駅が実現します。
 しかし、現在、駅というと1872年に鉄道が登場してから各地に設けられた鉄道駅で、地域の中心の役割を果たし、現在でも全国に1万近い鉄道駅が維持されています。

 ところが鉄道から道路が輸送の中心になりはじめた1993年4月に建設省(当時)が「道の駅」という制度を作りました。
 それまで道路は目的地に到達するまで途中で停まることもなく、せいぜい料金所で一旦停止する程度でした。
 そこでかつての鉄道駅が地域に果たしていた役割を道路にも持たせようということで、途中で休憩する機能、通過している地域の情報を発信する機能などの利用者へのサービスと、土産物の販売など沿道地域が恩恵を受けるという機能を併せ持つことを目指した制度で、現在では1000以上の道の駅が実現しました。
 ここからは役所の得意な縦割り行政の能力を発揮し、道路局が「道の駅」なら、水管理国土保全局は「川の駅」、港湾局は「海の駅」を作り、ないのは航空局の「空の駅」だけということになりました。

 これら3つの駅は国の制度で実現したものですが、民間の発想で1998年3月から登場してきたのが、今日ご紹介する「まちの駅」です。
 これは観光や買物に訪れた人々が、名所を見物し、名産を買って行くだけではなく、地域の人々と交流する機会を作る場所を目指したものです。
 しかし、国の制度のように立派な施設を作るための補助金を出すことはできないので、公共施設や個人商店など既存の施設を利用して、トイレ、休憩、食事、案内などの役割を果たそうという仕組です。
 どのようにすれば「まちの駅」になれるかというと、事務局を運営している「地域交流センター」というNPOへ連絡すると書類が送られてきますので、必要事項を記入して返送すると、内容を1ヶ月ほどで確認して大丈夫と判断されると「まちの駅」を名乗ることができるという簡単な制度です。
 その手軽さが受け、道の駅が全国に約1000、海の駅が約150に対して、まちの駅は1500以上もあります。

 旅行者は、町の中を散歩しているときにトイレに行きたくなった、目的の場所が分からない、持ってきたお弁当を食べる場所がほしいなどというときに、「まちの駅」を示すサインのある民家や商店を見つければ、施設を借りたり、案内をしてもらったりすることが出来るという訳です。
 一方、まちの駅の人々も、観光客と会話して情報を得たり、親切にすれば商品を買ってもらえるという見返りもあることになります。

 道の駅と「まちの駅」の違いは、前者が自動車利用者を対象にしたものであるのに対し、後者は徒歩や自転車の利用者を対象にしている。
 前者は設置主体が「市町村やそれに代わり得る団体」であるのに、後者には制限がない。
 前者は建設や維持に費用や人手がかかるが、後者は既存の商店などで、そこで働いている人が片手間に案内したりするだけなので、費用がほとんどかからないという違いがあります。

 昨年暮れから出発した第三次安倍内閣は「地方創生」を目玉政策の一つとしていますが、各省の政策は自分たちの権限を拡大するという衣の下が見え見えです。
 ある情報誌の最新号に「今年1月の臨時閣議で決定された補正予算案のなかで経済産業省から提出された総額4200億円の「地域住民生活等緊急支援のための交付金」は、以前にも提案されたが査定を通過できなかったスクラップ事業」と書かれています。
 自治体からも内容が生活に密着した施策には使いにくいという意見が出ているそうです。
 そのような熟慮の足りない政策が地方に押し寄せて自治体は困惑しますし、多くの政策が補助金を与えるという手段のために1兆円をばらまくことになり、結果として箱物が増えて、いずれは維持に苦労するという、従来の制度の繰返しに近くなっています。

 現在、日本には800万戸近い空家があり、シャッター通り商店街も至る所にあります。
 それらを放置しておいて、別の箱物を作ろうというのが「地方創生」の実態です。実際に道の駅は1カ所平均7億円の費用をかけていますから、1000カ所では7000億円も投入してきたことになります。
 空家や空き商店を活用する方法を、個別の地域の事情に精通していない政治家や国の役人が考えるのではなく、地元の人々が真剣に考え、改装などのために費用が必要であれば補助するという程度にすれば、数十億円もあれば全国に賑やかな町を創り出せる可能性があります。
 その成功例の一つが「まちの駅」ではないかと思います。





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