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論文

 2日後の1月17日は1995年に阪神淡路大震災が発生した日で、今年は20周年になり、色々な行事が予定されていますが、1月17日は「防災とボランティアの日」にもなっています。
 一見、関係なさそうですが、これは阪神淡路大震災の結果、政府が決定した記念日なのです。
 この震災のとき、国や地方自治体の対応の遅れが批判されましたが、その一方で直後から多数のボランティアが救援に駆けつけ活躍し、高く評価されました。
 実際、兵庫県の統計によると、最初の1ヶ月で62万人、次の1ヶ月に38万人のボランティアが救援活動に参加し、累積すると2ヶ月で100万人にもなっています。
 そこで、ほぼ1年が経過した12月に閣議で1月17日を「防災とボランティアの日」に制定し、社会におけるボランティア活動の意義を理解してもらうこととし、1周年にあたる96年から実施し、同時に前後の1週間を「防災とボランティア週間」とすることになったのです。
 さらに日本政府は国際連合に働きかけ、2001年を「国際ボランティア年」とし、その必要性を世界全体も認めるよう推進しています。

 ボランティアというのは、かつては「志願兵」を意味していましたが、英語でボランタリーというと自発的と訳されるように、強制されるのではなく自発的に、金銭をはじめとして見返りを期待するのではなく無償で、自分のためではなく他人のためや公共のために、与えられる仕事ではなく何が必要かを自分で考える創造性をもって活動することとされています。

 阪神淡路大震災のときには、そのような条件を満たさない人々も殺到し、「被災した人々にとって貴重な食料や水を浪費する」「観光気分の自分探し」などの「ボランティア迷惑論」が一時流布したことがありました。
 その影響もあって、2011年の東日本大震災のときは、現地への到達が困難という事情もあり、最初の1ヶ月で11万人、次の1ヶ月で17万人と大幅に人数が減り、最初の2ヶ月間の累積が28万人と阪神淡路大震災のときの4分の1程度になってしまいました。
 しかし、それでもボランティアは従来の社会にはなかった重要な役割があると認められ、ボランティアの有力な供給源である大学生の参加を増やすため、東日本大震災の1ヶ月後には、文部科学省が全大学にボランティア活動を授業の一環にして単位を認めるとか、休学して活動を続ける場合には授業料を免除するように要請を出したほどです。
 それは不足する労働力の穴埋めというだけではなく、資本主義経済の不備を穴埋めする点からも重要とされ、ボランタリー経済という言葉も登場しています。

 そこで突然ですが、流行のトマ・ピケティの『21世紀の資本』の視点からボランタリー経済の意味を考えてみたいと思います。
 解説などを読むと、この大著の核心は、資本を運用することによる資本収益率(r)は労働によって得られる所得成長率(g)よりも大きく、規制をしなければ資本家と労働者の格差は拡大していくということのようです。
 具体的に世界の資本収益率は年率5%程度ですが、所得成長率は1〜2%であり、結果として資本を運用できる富裕層はますます金持になり、働いて収入を得る層との格差は開いていくということになるわけです。
 そこで、このような経済以外の活動を社会に誕生させるのがボランタリー経済というわけで、最近の日本で流行している言葉を使えば藻谷浩介さんの「里山資本主義」ということになります。

 いくつかの具体例を紹介したいと思います。
 1980年代はアメリカが大変な不景気で、テキサス州交通局が高速道路の清掃さえできなくなり、沿道住民から苦情が殺到しました。
 しかし、無い袖は振れないということで、地域住民が清掃道具を借りて自分たちで道路清掃をする「アダプト・ア・ハイウェイ」という仕組が1985年にできました。
 アダプトは養子にするという意味で、州政府が産んだ州道という子供を沿道の住民が養子にして育てるという発想です。
 これは10年足らずで全米に広がり、日本でも1998年からはじまり、資本主義経済ではできない活動を補完するということになりました。
 現在、日本では3万以上の団体が道路、河川、公園などの清掃をしていますが、地方自治体が財政難の現在、地域社会を維持する重要な活動になっています。

 別の世界規模のボランタリー経済がインターネットに存在する無償で利用できる「ウィキペディア」です。
 今日1月15日は何の日かというと、2001年にウィキペディアが公開された「ウィキペディアの日」です。
 ジミー・ウェールズとラリー・サンガーが多数の人々と協力してインターネットの内部に百科事典を作ろうと考え、発想から1週間もたたない2001年の今日、英語のみ25の項目の事典として公開されました。
 しかし、賛同する世界中の人々の無償の協力で、現在では239の言語で3400万項目の巨大な百科事典が出来上がり、毎日成長していますが、そのためにこれまで195万人の人が無償で協力し、5回以上執筆や編集をした人だけでも7万人になります。
 英語版は480万項目で、利用者は時間あたり約800万回ですから、1秒に2200人が利用している計算になります。
 これまでの英語の最大の辞書は『エンサイクロペディア・ブリタニカ』ですが、項目数は50万程度です。
 その10倍もある百科事典は営利目的とする資本主義経済の出版としては絶対に不可能ですが、インターネットとボランタリー経済によって可能になっているのです。

 アベノミクスは法人実行税率を下げるなどの優遇策によって資本収益率を上げ、その一部を給与に反映させて所得成長率を上げるという、ピケティの理論とは反対の政策を推進していることになり、このボランタリー経済の潮流とは逆行しています。
 ぜひアメリカ流資本主義の洗礼を受けた学者の意見のみではなく、ピケティ理論も参考にした新しい経済政策を検討すべきではないかと思います。





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