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論文

 年末になり今年の10大ニュースが選ばれる時期になっていますが、目立つのは自然災害が上位に並んでいることです。
 最近では、つい先週の爆弾低気圧による東北地方から北海道にかけての強風や大雪が記憶に新しいのですが、今月初旬には徳島県の山間部でも大雪の被害が発生し、2月にも山梨県を中心とする関東甲信地域で2週間連続の大雪が降り、多くの集落が孤立する被害が発生しています。
 豪雨の被害も多く、8月には広島市で70人以上の方が亡くなられる土石流災害、同じ8月には長野県南木曽町(なぎそまち)でも亡くなられた方は1名ですが、多数の家屋に被害が及ぶ土石流災害が発生しています。
 地震についても11月には長野県白馬村で震度6弱の地震があり、奇跡的に亡くなられた方はありませんでしたが、多くの被害が発生しました。
 しかし、10大ニュースの上位に位置するのが9月27日に発生し、死者57名、行方不明者6名という火山噴火では戦後最悪の被害となった御嶽山の噴火による災害です。

 火山噴火は最近増加しており、昨年11月に噴火が始まった小笠原諸島の無人島・西之島は現在も噴火を続けて島の面積が1年間で15倍になっています。
 御嶽山の噴火の前にも、熊本県の阿蘇山では1月に中岳で小規模な噴火があり、今月には何度も噴火を繰返し、鹿児島県の口永良部島(くちのえらぶじま)で8月3日に34年ぶりの噴火、10月には南九州の霧島山で火口周辺の立入りを規制する警戒発令、山形県と宮城県の境界にある蔵王で12月に、ここ1年間では比較的大きな火山性微動が観測されるなど、日本列島全体で噴火が続発している状況です。

 なぜかと思われる方も多いかと思いますが、これは日本列島の宿命と考えざるを得ません。
 日本では、過去1万年間に噴火の記録のある火山や現在も活発な火山活動をしている火山を「活火山」と定義していますが、世界には約1550の活火山があるうち、日本には110、7%が集中しています。
 日本の国土面積は世界の陸地の0・3%にもなりませんから、いかに活火山が多いかが分かると思います。
 そこで火山噴火予知連絡会が国内の110の火山のうち47を「常時観測火山」に指定して多くの計測器を設置して監視していますが、問題は国外にある火山が噴火しても日本にも大きな被害をもたらすことです。

 その視点から、日本ではそれほど話題になっていませんが、専門家が関心を示している活火山が「白頭山」です。
 これは北朝鮮と中国の国境にまたがる、中国語では「長白山」、朝鮮語では「ペクトゥサン」と呼ばれる標高2744mの火山です。
 山頂には周囲14kmほどの天池(ティエンチ)という名前の湖がありますが、これは噴火した後のカルデラ(噴火口)に水が溜まったものです。
 ここは10世紀末に大噴火をしており、過去2000年間では世界最大の噴火と言われ、その後も14世紀から20世紀までに6回も噴火していることが明らかになっています。
 この経緯を調査された東北大学の谷口宏充(ひろみつ)名誉教授が2年前に、これら過去の噴火は日本列島の大地震発生と密接に関係しており、例えば白頭山が1898年に噴火した2年前には三陸海岸に明治三陸地震が発生しています。
 その前例からすれば、2011年の東日本大震災の影響で白頭山が噴火する可能性はあり、その確率は2019年までに68%、2032年までに99%であると発表されています。

 この噴火がなぜ重大かというと、山頂に琵琶湖の4分の1以上の面積の湖があることからも分かるように、白頭山はカルデラ噴火といわれる巨大な噴火をした火山だからです。
 噴火の規模を示す火山爆発指数、英語では「VIE」といわれる指標がありますが、これは噴火したときに噴出される火山灰などの噴出物の容積によって0から8の9段階で規模を示す指標です。
 指数が1増えるごとに10倍の噴出量になるのですが、日本の場合で例を紹介しますと、北海道の有珠山が2000年に噴火したときが「2」、18世紀に北海道の樽前山が噴火したときが「5」です。
 そして10世紀の終わり頃に白頭山が噴火したときが「6」と推定されています。 
 最近の例では1991年に噴火したフィリピンのピナツボ火山も「6」です。
 1707年に富士山が噴火して江戸にも被害が及んだ宝永大噴火は巨大なように思われるかも知れませんが、火山爆発指数では「4」ですから、白頭山が噴火すれば100倍以上の噴出物が大気中に飛出すことになります。

 白頭山は青森とほぼ同じ北緯41度の1000km西に位置しますが、偏西風に乗って火山灰は日本列島にも到来し、10世紀末の噴火のときの状態と同じと推定すれば、12時間後には日本に到達し、東北地方北部から北海道の渡島半島には5cmほどの火山灰が積もる可能性がありますし、18時間後には東京にも影響が及ぶといわれています。
 直接の影響を受ける北朝鮮、韓国、中国、ロシア以外に、アメリカやイギリスも調査をしていますが、2002年以後、1ヶ月に250回も地震が発生し、地下のマグマ溜まりが地下5000mまで上昇し、山頂部分が2003年には4.6cm、2004年にはさらに1.8cm膨れ上がっていると発表されています。

 もし谷口名誉教授の2019年までに68%の確率で噴火するという推定が的中すれば、東京五輪大会どころではない事態になりますから、この10月に参議院予算委員会で浜田和幸(かずゆき)参議院議員が日本政府の対応を質問し、安倍総理が「日本への深刻な影響が想定されるので早急な対策を検討したい」と答弁されていますが、まだ本格的な検討は始まっていないようです。
 1789年に発生したフランス革命は1783年にアイスランドのラキ火山が火山爆発指数「6」の噴火を起こし、その影響で食料飢饉が発生したことが重要な原因といわれています。
 日本の火山学者は「カルデラ噴火の前兆の判断は無理」、内閣府の検討会は「研究を進める体制が整っていない」と明言しているほどですから、個人で対策と言っても限りがありますが、世界規模の政治・経済の混乱が発生する可能性がありますから、政府は早急に検討すべきだと思います。





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