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論文

 日米両政府は年内にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の大筋合意を目指していますが、これが成立すると日本の農業はなかなか厳しい状況に直面することになります。
 農業は国民の食料を供給する基本の産業ですから、それを適切に維持することは国の重要課題ですが、日本の現状は前途多難です。
 第一に生産額が減少していることで、農業は1960年には国内総生産の13%を占めていましたが、80年には3・6%、2000年には1・8%、2010年には1・2%と減少し、金額でも最大の1985年の12兆円弱から2010年には8兆1000億円と、25年間で70%に減少しています。
 それを反映して就業者数も減少の一途で、1960年の1440万人から80年には610万人、2000年には320万人、2010年には240万人と、半世紀で17%まで減少しています。
 しかも就業者の高齢化が進み、1980年には60歳以上の比率は19%でしたが、2008年には37%と、3分の1以上が高齢者によって支えられているのが実情で、後継者不足が深刻な課題になっています。

 食料の需要が減っている訳ではありませんから、減少している生産は輸入によって補充されており、コメ以外は自給できず、昨年の数字では小麦の88%、豆類の93%、肉類の45%を海外からの輸入で賄っています。

 もう一つ、日本の農業の問題は生産性が低いことです。
 そもそも日本全体の労働生産性が低いことも問題で、2011年の数字ではアメリカの産業全体の生産性を100とすると、日本は68程度で、主要先進国の中では最低の部類です。
 金額では日本の産業全体の平均が時間あたり4300円程度の生産額ですが、その中でも農業は稲作が573円、野菜生産が731円、果樹生産が739円と産業全体平均の20%にもならない状態です。

 このため日本は個別所得補償制度と高率の関税で農業を保護していますが、2012年にWTO(世界貿易機構)から、日本の農業は国内総生産の1・2%であるにもかかわらず、政府の支援が国内総生産の1・1%にもなると批判されているほどです。
 すなわち生産額に匹敵する補助金を受けているというわけです。
 このような未来が不透明な状態ですから、若者が農業に就業しないという悪循環に陥っているのが現状です。

 この状態を改善するために農地の規模の拡大、企業の参入の緩和などが推進されていますが、農業就業者の減少への対策、高齢者比率の増加への対策、生産効率の増大などを一石三鳥で解決しようという視点で注目されているのが、農業ロボットです。
 アメリカの農業生産額は日本の2・6倍ですが、農業人口は1・1倍ですから、農業生産性は2・4倍になります。
 その背景は農業就業者1人あたりの農地面積が日本の約50倍もあり、トラクター、コンバイン、ハーベスターなど大型農業機械の導入が進められてきたことが大きな要因です。
 したがって、それらを自動化する農業ロボットの開発でもアメリカは先進国で、農業機械の老舗のジョン・ディア社がロボット研究で有名なカーネギーメロン大学や自動掃除機ルンバの開発で名前が知られているアイ・ロボット社と協力して農業ロボットを開発していますし、数多くの企業が参入しています。

 さらにアメリカの西部では不法移民が農業の重要な労働力になり、果物や野菜の収穫に従事する45万人の労働力のうち、ほぼ半分が不法移民と推定されています。
 しかし、2007年頃から、アメリカ政府がメキシコとの国境で警備を強化するようになって労働力不足になり、大量の果物や野菜が収穫できずに畑に放置され、腐ってしまうという事態が発生しました。
 そこでカリフォルニア州にある農業機械の企業が農業ロボットの開発を進め、自動で果物を収穫するロボットなどが登場しています。

 ところが広大な農地を対象としたアメリカの農業ロボットは、形が整っていない狭い農地が多い上に、水田が中心という日本の農地に適合しないので、独自の開発が必要ということになります。
そこで現在、畑や水田を耕し、種蒔きや田植をし、さらに除草をして収穫時期には収穫もするという作業を自動でおこなうロボットが開発され、数年後には一般に販売される段階にまできました。
 農業ロボットで重要になるのが広大な農地で位置を正確に決定するGPSを利用する技術ですが、当初は30cmほどの誤差が生じるため、作物を踏み荒らしたり、敷地を越えるような事態が発生していました。
 しかし、2010年に日本は準天頂衛星「みちびき」を打上げ、ここから発信される電波で補正すると、誤差が5cm程度に押さえられることになり、北海道大学の野口伸(のぼる)教授たちが精度の高い農業ロボットを開発し、農地を耕す段階から収穫の段階まで一種類の農業ロボットで作業できる見通しが出てきました。
 現在、準天頂衛星は1機しか打上げられていないので、日本上空を通過する8時間しか情報を受信できませんが、2017年から19年にかけて3機が追加で打上げられると、24時間、高い精度で農作業をできる時代になります。

 もう一つ農業を支援する重要な技術がラジコンで操縦する無人ヘリコプターや無人飛行機です。
 昨年、ネット販売の世界最大の企業アマゾンが無人飛行機で書物を家庭まで配達する構想を発表して話題になりましたが、農作業でも無人飛行機の利用が進んでいます。
 すでに1990年から、ヤマハ発動機は農薬散布に利用できるラジコン操縦の無人ヘリコプターを発売していますが、それ以外に無人飛行機も利用され、現在、2500機以上の無人ヘリコプターや無人飛行機が日本の水田面積の40%以上に農薬を無人散布しています。
 軍事技術の分野では人間が遠隔操作しなくても自分で判断して飛行する無人偵察機「グローバルホーク」や無人攻撃機「プレデター」が実用になっていますから、農業に利用する飛行機も遠隔操縦の必要がなくなる時代が到達します。
 近い将来、厳しい労働が必要な農作業の大半が無人になる可能性があり、労働力不足や高齢化問題を抱える日本の農業に新しい展開が期待されます。





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