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論文

 最近、直流家電とかDC家電という言葉が登場するようになりました。
 電気には交流(AC:オルタネーティング・カレント)と直流(DC:ダイレクトカレント)がありますが、現在、大半の家庭電化製品はコンセントに送られてくる100ボルトの交流の電気を使用しています。
 例えば、扇風機は交流の電気で交流モーターを回して風を送っていますし、電気冷蔵庫も交流モーターでコンプレッサーを駆動しています。
 ところが直流家電は交流の電気を機器の内部で直流に変換し、その電気で直流モーターを回転させる仕組です。
 すでに扇風機は何社かから直流モーターの扇風機が市販されていますし、電気冷蔵庫や電気洗濯機では試作品も作られています。
 そのような面倒なことをする理由は、直流モーターは消費電力が少なくてすむし、風量などを細かく制御できるからです。

 それならば最初から家庭まで直流の電気を送電すればいいのではないかという議論が登場します。
 そこで直流と交流を比較してみると、それぞれ長短があります。
 交流は三相交流で送電するので、3本の送電線が必要ですが、直流であれば2本の電線で送電可能ですし、交流は電圧がプラスとマイナスの間を上下していますので、100ボルトといっても、実際はルート2倍、すなわち141ボルトで送電する必要があり、効率が悪いのですが、直流は100ボルトのまま送電できるので絶縁などが容易になります。
 さらに直流は電線を通過するときの損失が少ないので、送電距離あたりの電力損失が少なく、長距離の送電に有利という利点もあります。

 しかし、直流には大きく2つの短所があります。第1は、交流は変圧器で簡単に電圧を変換できますが、直流の場合は複雑な装置が必要ということ、第2は、電気を遮断するときに発生する火花が切れにくく、危険であるということです。
 コンセントからプラグを抜くときに火花が散ることがあります。交流の場合は電圧がゼロになった瞬間に火花が消えますが、直流の場合は切れないのです。

 このように長短があるので、19世紀に電気を発電所で大規模に発電して家庭や工場に送電するという事業が始まったときに、どちらがいいかという有名な論争が発生しました。
 電力事業を最初にはじめたのは発明家のトーマス・エジソンですが、直流で送電していました。
 ところがエジソンの電灯会社で働いていた天才科学者といわれたニコラ・テスラが交流で発電し送電する技術を開発します。
 この技術について、エジソンがテスラに交流の発電・送電の技術を開発したら5万ドルの賞金を支払うと約束していたのですが、テスラが発明した途端に、直流を信奉していたエジソンは、5万ドル支払うといったのは冗談だと言ったため、テスラは激怒して退社し、エジソンのライバルであったジョージ・ウェスティングハウスのもとに馳せ参じ交流電気事業を立ち上げ、電気の供給を交流にすることに成功するのです。

 このテスラの怒りは相当なもので、1917年に貧乏であったテスラにアメリカ電気工学協会が「エジソン勲章」を授与しようという申出があったとき、テスラは「アメリカ電気工学協会が現在あるのは、私の頭脳が発明した成果のおかげなのに、その功績を認めないで勲章を上着に付けてくれるだけか」と言って断ったというエピソードが伝えられています。
 テスラは若い頃から「宇宙人と交信している」など奇怪な発言や行動などが多い天才であったため、信奉する人も多い反面、うさんくさいと思っていた人も多かったのですが、出身地のセルビアでは100ディナール紙幣にテスラの肖像を印刷していますし、テスラの死後、残された膨大な発明品や設計図はFBIが直後に押収して複製を作成してから母国セルビアに返還したというほどの才能ある人物でした。
 最近、アメリカで躍進している電気自動車会社テスラ・モーターズは、そのテスラの名前を冠した会社です。

 これまで大半の社会で交流が普及してきたのは、このような大変に人間臭い背景があるのですが、最近になり、再度、直流が注目されてきました。
 それにはいくつか理由があります。
 まず、急速に普及しているパソコンや携帯電話やiPodなど情報機器の大半は電池を使って直流電気で動いているということです。
 パソコンや携帯電話を充電するときに充電器を使いますが、これは電圧100ボルトの交流の電気を電圧数ボルト程度の直流に変換して、パソコン内部の蓄電池を充電し、そこからの直流電気を使って作動しています。
 家庭に直流の電気が供給されれば、そのような変換をしなくてもすむので簡単で便利です。

 第二に太陽光発電や燃料電池が普及してきましたが、それらが発電する電気は直流なのです。
 したがって現在は住宅の屋根の上の太陽電池で発電した電気を自宅の電気冷蔵庫や電気洗濯機を使おうとすると、パワー・コンディショナーという装置で一旦交流に変換し、その電気を電気機器に供給するという面倒なことをしています。
 当然、変換するときに効率が低下しますから、直流モーターで動く直流電気冷蔵庫や直流電気洗濯機が販売されれば、太陽電池や燃料電池の電気をそのまま使うことができます。
 現在、家庭で使われている電化装置で交流でしか使えないものは蛍光灯だけですが、これも最近ではLED灯が主流になりはじめましたから、ほぼすべてが直流電気で稼動できるのです。
 さらに直流の短所とされてきた電圧を上下させることや、電流を切断しにくいという問題も、デジタル装置によって解決されつつあります。
 これまで100年以上に亘って構築されてきた交流の発電や配電の社会基盤を直流に変更し、家庭や工場で使用している交流電気製品を変更するのには膨大な投資が必要ですが、一方で、日本全体の電力を直流に変更すれば、その効率の良さから電力消費が10%以上削減できるという計算もあります。
 太陽光発電が普及するなど、技術の大きな転換が発生しはじめた現在、直流を見直すことも長期戦略として重要ではないかと思います。





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