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論文

 今年は日本の「発明協会」が創立されて110周年ということで、それを記念して「戦後日本のイノベーション100選」という事業が行われ、先頃、その前半として、戦後復興期から高度経済成長期までのイノベーション38が選ばれて発表されました。
 結果を見ると、魚群探知機(1948)、内視鏡(1950)、電気炊飯器(1955)、トランジスタラジオ(1955)、新幹線(1964)、電卓(1964)、人工皮革(1964)、ウォッシュレット(1980)などは想像できる内容です。
 ところが、公文式教育法(1958)、ヤマハ音楽教室(1959)、カラオケ(1967)、コンビニエンスストア(1974)など、意外と思われるようなイノベーションも選ばれていますし、もう一つ意外な分野として食品関係がいくつも選ばれていることです。
 インスタントラーメン(1958)は投票によるベストテンに入っていますし、回転寿司(1958)、コシヒカリ(1956)、リンゴのフジ(1962)も選ばれています。

 これらが妥当かどうかという訳ではありませんが、もうひとつ昨年12月から今年5月までの5ヶ月間、東京都江東区にある「日本科学未来館」で「THE世界一展:極める日本!ものづくり」という企画展示が開催され、戦後の日本が発明した画期的な製品を約200点選んで展示していましたので、それと比較してみたいと思います。
 重複しているものを探してみますと、魚群探知機、電気炊飯器、回転寿司、電卓と並んで、やはりインスタントラーメンが選ばれています。

 そこで今日は両方で選ばれたインスタントラーメンの威力を探ってみたいと思います。
 インスタントラーメンが、いつ、だれによって発明されたかは諸説があり、例によって中国は、すでに清の時代に麺類を油で揚げる「伊府麺」を発明していたと主張していますし、日本でも戦後、千葉県にある会社や三重県にある会社が開発したという説もあります。
 しかし、一般には日清食品株式会社の創業者である安藤百幅(ももふく)氏が1958年に「チキンラーメン」の特許を取得したのが、現在のインスタントラーメンの元祖という説が有力です。
 この成功をみて多くの会社が追随しますが、安藤氏は1971年に「カップヌードル」を開発し、さらに躍進します。
 当社は人気が無かったのですが、発売の翌年、連合赤軍あさま山荘事件の現場で機動隊員が湯気のたつ「カップヌードル」を食べている光景がテレビジョンで中継され、一気に有名になったというエピソードがあります。

 このインスタントラーメンが躍進した様子は日本即席食品工業協会の統計数字が示しています。
 最初は日本国内での躍進です。
 販売が開始された1958年には1300万食が生産されましたが、2年後の1960年には10倍以上の1億5000万食、さらに2年後の62年には10億食、翌年の63年に20億食、66年に30億食という勢いで、昨年には55億食になっています。
 そのうち「カップヌードル」などカップ麺だけを見ても、発売された1971年には400万食でしたが、連合赤軍あさま山荘事件の効果もあり、翌年には25倍の1億食、翌々年には4億食、4年後の75年には10億食を突破、現在は35億食になっています。

 しかし、発明協会の「一〇〇選」の選考基準である「展開が国際的であるイノベーション」という基準でベスト10に選ばれ、日本科学未来館の「THE世界一展」で「日本を変えた、世界を変えたイノベーション」に選ばれているように、国際的に躍進していることも特徴です。
 1969年から、日本のインスタントラーメンが何カ国に輸出されているかという統計がありますが、その時点ですでに62カ国、それ以後、増加していき、最大は1981年の80カ国まで拡大します。
 最近は50カ国前後に減っていますが、これは日本企業の現地生産や外国の企業が参入したことが影響しています。

 しかし、世界ラーメン協会の統計による世界各国のインスタントラーメンの生産量を見ると、日本初の食品が世界に浸透していることが分かります。
 昨年の数字ですが、日本が55億食生産しているのに対し、それ以上生産しているのは中国の462億食(日本の8・4倍)、インドネシアの149億食(2・7倍)ですし、ベトナムも52億食、インドが50億食、アメリカが44億食と日本に匹敵する生産をしており、世界の40カ国以上で1000億食以上が生産されています。

 単純に計算すれば、世界中の人間1人あたり1年に15食を生産していることになりますし、国別に見ると、最大の韓国は75食、インドネシアが62食、ベトナムが59食となり、輸出部分も含んでいるので、正確ではありませんが、韓国では5日に1回は食べている計算になります。

 この世界への浸透に驚いた経験があります。
 北緯73度のカナダの北極圏内の1年中、雪と氷に閉ざされた寒村に行ったとき、村に一軒しかないスーパーマーケットに行ったところ、何と韓国製ですがインスタントラーメンが並んでいました。
 またモンゴルのゴビ砂漠のなかに孤立している数十軒しか住居のない集落の雑貨屋でも韓国製の製品を売っていました。
 確かに日本だけではなく、世界を変えた食品といっていいと思います。

 これはお湯さえあれば簡単に調理できるので素晴らしい食品で、私も僻地でカヌーをするときなどに恩恵を受けていますし、食事を用意する時間を別のことに利用でき、家事から解放されるという利点もあります。
 しかし一方、若い人が食事を簡単に済ますために利用して偏食になるし、食事を家族で楽しむという機会が減るということにもなりまねません。
 日本が誇る発明ですが、その功罪を見極めて利用することも重要だと思います。





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