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論文

 昨日のサッカーのワールドカップの日本対コロンビア戦の敗戦で、日本チームはブラジルと縁が切れてしまいましたが、日本社会はブラジルとは緊密な関係にあるし、日本人にとって親近感も強い国です。
 それはブラジルには大規模な日系人社会があるとともに、日本にも日系ブラジル人社会があるからです。
 海外に生活する日系人は2世、3世、4世などを含めて約300万人ですが、その50%の150万人がブラジルに生活し、25%の76万人がアメリカ本土、8%の24万人がハワイ、3%の8万人がペルーというように、圧倒的にブラジルの日系人社会が大きく、一方、日本にある日系ブラジル人社会も18万人という規模になっている影響です。

 その原因はご存知の方が多いと思いますが、奴隷制度を廃止したために農業労働者の不足に直面したブラジル政府から移民の要請があったため、100年以上前の明治41(1908)年に、笠戸丸という汽船で781人の日本人が移民したことが契機です。
 それ以後、戦前に18万8000人、戦後に6万人の合計約25万人がブラジルに移民し、大変な苦労をしながら現在では6世まで誕生し、150万人という日系社会を形成するようになったのです。
 人数ではブラジルの人口1億9800万人の0・8%でしかありませんが、サンパウロ大学の合格者の14%が日系人であり、弁護士、医師、大学教授、国会議員などが多く、ブラジルでは存在感のある集団になっています。
 僕も30年程前ですが、ブラジルのいくつかの都市に講演に行ったことがありますが、どこでも地域の日系人社会にお世話になり、ブラジルに勢力が浸透していることを実感しました。

 これは日本から外国への移民ですが、最近、外国から日本への移民が話題になりはじめています。
 2008年に日本経済団体連合会が発表した「人口減少に対応した経済社会のあり方」という報告書では、日本の人口が減少していくことへの対策として「国際的な人材獲得競争と日本型移民政策の検討」が提案され、国連の発表した報告書にある2030年までに1800万人の移民が必要という内容を引用しています。
 最近も安倍首相を議長とする「産業競争力会議」が人口維持のために移民の検討を議論しており、公表された数字ではありませんが、2050年までに1000万人の受入を計画しているようです。

 確かに減少する人口の歯止めのためには移民は効果があり、その実例がスウェーデンです。
 スウェーデンの人口は1980年には832万人でしたが、90年には859万人、2000年には888万人、2010年には942万人と、30年間で13%、110万人も増えています。
 これは主に2つの原因で、1つは正式の結婚をせずに同棲であっても法律では対等に扱われ、子供も差別されることがないので出生率が増大し、1980年には1・68であった合計特殊出生率が90年には2・17まで増大し、その後下がったものの1・9前後を維持しているという要因です。
 ちなみに婚外子の比率は2008年で55%にもなり、日本の2・1%とは桁違いです。
 もう一つの理由が2008年に外国人法を改正し、移民を緩和したことで、2000年代の移民は1万人以下で全人口に対する比率は11%程度でしたが、法律改正によって3万5000人程度に増加し、比率も2008年には14%、2011年には15%に増加しています。

 これはヨーロッパ諸国に共通する傾向で、スペインは2000年の4・9%から11年には14・6%、ノルウェイは6・8%から12・4%、イギリスは7・6%から12%という具合に移民の比率が増大しています。
 それ以外にも移民の比率の高い国は、スイスが27・3%、オーストラリアが26・7%、ニュージーランドが23・6%、カナダが20・1%など、日本の1・1%とは桁違いです。

 ここまでだけであれば、産業競争力会議が考えるように、日本も移民を増やして人口を増大させればいいのではないかということになりますが、問題が発生しています。
 昨年5月、スウェーデンの首都ストックホルムの移民が85%を占める地区で大規模な暴動が発生し、スウェーデン第三の都市マルメではイスラム系移民が急増してスウェーデン人が少数派となって、スウェーデン語が第一言語ではない小中学校が実現するほどになっています。
 そのようなことを反映し、デンマークでは2002年から外国人の居住を厳しく制限する方向に移民政策を転換しています。
 またフランスは戦後の経済成長期には労働力不足を補うために旧植民地のアルジェリアなどから大量の移民を受入れてきましたが、オイルショック以後の76年には帰国奨励政策を開始し、出身国に帰国する移民には約20万円の奨励金を支払うまでに方向転換しました。
 しかし、それほど効果はなく、フランスの移民人口は12%にも達し、様々な問題を抱え、今年5月のヨーロッパ議会の選挙のときのフランス国内での投票では、移民反対を党是とする極右政党「国民戦線」がもっとも多数の票を集めています。

 これらの歴史で分かることは、日本経済団体連合会や産業競争力会議が目指しているように、労働力が不足して経済成長が低下するから人口を増やす、現在のままでは人口が増加しないから移民を導入するという、経済至上主義の移民政策の多くは破綻していることです。
 移民の比率が高いスイス、オーストリア、ベルギーなどヨーロッパの国々はもともと多民族・多言語国家ですし、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどは、この100年から200年の最近に、先住民族の生活していた地域にヨーロッパ諸国から浸食していった国で、日本とは国家の成立過程も文化背景も相違した国々です。

 現状では2050年に9700万人と推計される日本に現在の東北六県の人口以上の1000万人の外国人が生活し、日本人の人口は減少し、移民してきた外国人が増えて行く将来を想定したとき、目先の経済目的だけで移民を推進する政策が適切かどうかは真剣に検討すべきだと思います。





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