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論文

 ここ2週間程、船内で講演を依頼され、「飛鳥2」という客船に乗船してきました。
 500人弱の乗客が乗っておられるのですが、日本の客船ということもあり、ほとんどが日本人で、世界一周の船旅で4ヶ月近い日程のため大半が引退された高齢者で、50歳以下はわずか5人、90歳以上が6人、平均年齢が70歳という、日本の高齢社会を凝縮したような船内でした。

 一方、この6月に厚生労働省が5年に一度検討している公的年金の100年単位の財政状況を公表し、高齢社会の経済の長期見通しが話題になっています。
 これは年金財政の健康診断とも呼ばれ、これまでの検討結果は日本の年金制度に問題はなく健康体であるという見解が強調されてきましたが、今回は大きく軌道修正されました。
 健康度の指標は「所得代替率」といわれる数値で、現役を引退した夫婦が受取る年金の金額が現役の男性サラーリーマンの平均の手取り所得の何%に相当するかという計算結果です。
 2013年時点では62・7%ですが、法律では将来にわたって50%以上を維持するということが決められていますので、そこが焦点になります。
 今回の発表では経済成長が0・1%以上であれば、100年後も何とか50%ギリギリを達成できますが、0・1%であれば45・7%、−0・2%であれば42%、−0・4%であれば35%という数字が公表されています。
 100年先のことで当てにならないといえば、それまでですが、このような結果を公表したことは、正直とも言えるし、責任逃れとも言えるし、国民を脅迫しているとも言え、国民一人一人が老後を真剣に考える必要があるということを示していると思います。

 老後を安心して暮らせるためには、経済だけではなく、健康や社会関係が重要です。
 そのような視点から、2013年に「ヘルプエージ・インターナショナル」という団体が世界91カ国を対象に高齢者が幸福に生活している程度を計算した「グローバル・エイジ・ウォッチ・インデックス」という指標があります。
 これは11の統計数値をもとに、高齢者の所得保証、健康状態、雇用と教育、自立支援の4項目に整理して評価したものです。
 それによると、1位からスウェーデン、ノルウェイ、ドイツ、オランダ、カナダ、スイスの順番で、日本は所得保証が27位、健康状態が5位、雇用と教育が10位、自立支援が19位で、総合では10位になっています。

 そこそこの順位で、上を見ればきりがないということですが、1位のスウェーデン、3位のドイツはすべて1桁の順位である一方、アメリカは総合で8位ですが、所得保証は36位、カナダも所得保証は26位です。
 これは国民すべてが何らかの公的年金制度の対象になるという国民皆年金制度を丁度100年前に導入したスウェーデン、78年前に導入したノルウェイのように、高い所得税や消費税を徴収するけれども、国民すべてが年金を受取るとともに、教育や医療や介護は無償に近い状態にしている国家と、アメリカのように強制加入の社会保証制度があるものの、6人に1人が健康保険に加入していない自己責任を基本とする国家の違いだと思います。
 そういう意味で、日本は国民皆保険で高度な医療を比較的平等に受けることができ、平均寿命や健康寿命が世界有数、教育水準も世界有数である一方、所得保証や自立支援では出遅れているという状態です。

 そこで国民としてどうするかという判断が求められますが、一つのキーワードが「プロダクティブ・エージング」という概念ではないかと思います。
 これは80年代にアメリカの研究者ロバート・バトラーが提唱した概念で、直訳すれば「生産的加齢」、高齢になっても、有償、無償を問わず社会の生産活動に参加できるという意味ですが、意訳すれば「生涯現役社会」と表現できます。
 具体的には、高齢者が
  1)働き続けられるようにする
  2)社会参加できるようにする
  3)ボランティア活動を続けられるようにする
  4)健康を維持できる
  5)社会的・経済的・文化的活動の最前線に位置できる
  6)高齢者自身で自分の未来を切開くことができる
ことを目指すというようなことです

 2012年には世界全体で60歳以上の人口は8億1000万人で全体の11%でしたが、2030年には13億7500万人で16%、2050年には20億3000万人で22%になると推計されています。
 それに比較すると、日本は2012年で32%、30年で39%、50年には45%と圧倒的に世界一の高齢者比率が高い国です。
 さらに65歳以上の人口比率が7%から14%に到達するのにかかった年数は、フランスが115年、スウェーデンが85年、アメリカが73年、イギリスが47年であるのに比較して、日本は1970年から94年までの24年間で到達しており、これも世界一です。
 日本は高齢社会の世界最先端国家ということです。
 その一方、日本では内閣府に少子化担当大臣が置かれ、毎年「少子化社会対策白書」も公表されています。
 しかし、2007年の第一次安倍内閣の初代大臣から現在は14代目になっており、平均在位年数は半年でしかありません。
 さらに、政府の有識者会議が5月には、具体的な政策の提言もないまま、50年後に人口1億人程度を目指すという目標を発表しています。
 厚生労働省の研究所の推計では50年後は8500万人という推計結果ですから1500万人を増やす必要があります。
 さらに問題は、このような人口増加の議論が経済発展を中心に行われており、高齢者の役割が軽視されていることです。
 プロダクティブ・エージングの政策が効果を上げれば、高齢者が生産活動に参加できるし、社会保障費用も軽減でき、幸福な高齢社会の実現も可能です。
 要点はバトラー博士の「長寿の価値は寿命の長さにあるのではなく、どのように人生を活用すべきかにある」という言葉が象徴しています。
 高齢社会最先端国として、プロダクティブ・エージングの手本を示すことが期待されます。
 そのような視点からすると、この「日本全国8時です」はプロダクティブ・エージングの手本ではないかと思います(笑)。





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